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コンプレックスを刺激する男
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息が止まった。壬生君の顔が僕の顔の直ぐ目の前に近づいてた。勿論色っぽい話って訳じゃない。でも僕の心臓は飛び跳ねた。大学のゼミで初めて顔を合わせた壬生君は、口数が多い訳では無いけれど、背が高くて部活でいかにも活躍して来ましたという雰囲気の男だった。
「…悪い。」
そう言って、倒れ込んで僕にのし掛かった身体を持ち上げると、手を伸ばして僕を引っ張り起こしてくれた。僕よりガッチリした手は、何をしたらそうなるのか硬くて大きかった。
壬生君は僕の手を見つめてボソリと言った。
「…女みてぇな手だ。」
僕は恥ずかしさでカッと熱くなって、手を振り解くと壬生君を睨んだ。どうしたって見かけが弱っちい事がコンプレックスな僕には、それは本当の事だけにグッサリ刺さった。
第一印象は最悪だったけれど、ゼミで何度か一緒になるうちに、壬生君は悪い奴ではないって事は分かった。どちらかと言うと裏表がない性格で、言葉に遠慮がないせいでモテるのにモテない。
見かけから入る女子達も、壬生君の遠慮のない物言いに、すっかり手を引いてしまった。壬生君は自分のスペックを活かしきれていない残念なイケメンなんだ。
「壬生君はもう少し色々気を遣えば、抜群にモテる気がするのに。これだけ波が引く様に女子が居なくなると、なんかわざとそうやって振る舞ってる気がしてくるね。」
僕がそう言うと、壬生君は面倒くさそうに言った。
「自分の興味がない相手が何人来たって面倒なだけだろ?違う?俺は自分が好きになった相手しか無理だ。」
するとランチルームで一緒に食べていた同じゼミの清瀬君が、呆れた様に言った。
「うわぁ、強者のセリフだわ。俺今、殺意湧いたんだけど。壬生みたいにフィジカル凄くてかっこいい男はさ、選び放題な訳じゃん。近寄ってくる女子達のおこぼれを俺たち一般人が貰うってのが正しい有り様だと俺は思う訳。田中もそう思うだろう?」
そう僕に話を振る清瀬君のやさぐれ具合にクスクス笑いながら、僕は壬生君をじっと見つめた。確かに185cmを超える身長は遠目でも目立つし、男ならこうありたいって願うフィジカルだ。高い鼻と彫りが深いせいで目元が窪んだ顔は、日本人離れしていてひと目を惹く。
僕は壬生君をまじまじと見つめて呟いた。
「壬生君てどこ出身だっけ?」
すると壬生君はお返しとばかり僕をじっと観察しながら言った。
「東京。…まぁ親は二人とも九州だから、顔が濃いのはそのせいかもな。あっちの人はこんな顔多いからさ。」
清瀬君はため息をついて言った。
「あー、俺も九州の血が欲しかったよ。見てよこの顔。全然迫力ないんだから。」
僕は清瀬君の優しげな、でも目端の効きそうな表情を見てクスクス笑った。
「でも清瀬君は、その一見優しそうな顔を使って女子達を狩っているって聞いたよ?清瀬君の友達が言ってたもん。清瀬は必ず毎回お持ち帰りしてるって。」
すると目を丸くした清瀬君が、それは本当じゃないから信じるなって僕たちに慌てて言った。僕と壬生君はニヤニヤしながら清瀬君の本当の所を追求したんだけど、結局その通りみたいだった。
「俺はさぁ、一人の運命と出会いたい訳よ。でも、どうやったら見つかる訳?好きでお持ち帰りしてる訳じゃないしさぁ。毎回思うんだよね、運命だって!」
まるで飲み会のネタの様になってきた清瀬君の話に、僕と壬生君はゲラゲラと笑って揶揄った。ああ、面白い。僕は自分がそう出来ない事をよく分かっているので、友達の話を擬似感覚で聞いていた。本当は僕も運命に会いたい。
壬生君は僕をじっと見つめて首を傾げた。
「悠太は?あんまりそんな話聞いた事ないけど。」
僕は壬生君にいきなり名前で呼ばれてちょっとびっくりしたけど、二人の視線が突き刺ささるのを感じながら、首に手を当てて答えた。
「…僕は合コンとか賑やかな場は苦手だし、女の子達ってちょっと勢いが凄いからあんまり得意じゃないんだよね。それに僕は結局可愛いとかで、相手にされないのがオチだよ。女子は可愛いって最初は言うけど、結局彼氏にするのは壬生君みたいな男っぽい人だよ。…勿論特定の人が出来たら良いなとは思うけどね。」
すると清瀬君が頷きながら言った。
「…俺も悠太って呼ぼ。そうは言っても悠太は結構モテるけどなぁ。清潔感あるし、可愛いだろ?合コンでたまに悠太の話出るもん。田中君て可愛いけど、どんな性格なのかって。まぁ合コン参加する様な女の子達は一皮剥げば肉食だからさ、悠太なんてあっという間に喰われちまうよ。」
そう清瀬君に言われて、僕は苦笑いしか出来なかった。結局僕のコンプレックスである童顔のせいで、恋愛に消極的なのは否めないんだ。すると、壬生君が僕の髪を摘んで言った。
「…俺は悠太のこの柔らかい癖っ毛好きだけど。男だって可愛くてもいいと思うけど。」
僕は壬生君の手を払って、口を尖らせて言った。
「壬生君みたいに男性ホルモンで出来た漢に言われてもね。可愛いって男の褒め言葉じゃないでしょう?」
清瀬君は僕の言葉にツボったみたいで、お腹を抱えながら笑っていた。
「ははは、男性ホルモンで出来た漢!まじでそれっ!悠太めちゃくちゃ冴えてるな。」
壬生君は肩をすくめたけど、小さな声で何か呟いたのは僕には聞こえなかった。
『…まじで可愛いって褒めてんのに…。』
「…悪い。」
そう言って、倒れ込んで僕にのし掛かった身体を持ち上げると、手を伸ばして僕を引っ張り起こしてくれた。僕よりガッチリした手は、何をしたらそうなるのか硬くて大きかった。
壬生君は僕の手を見つめてボソリと言った。
「…女みてぇな手だ。」
僕は恥ずかしさでカッと熱くなって、手を振り解くと壬生君を睨んだ。どうしたって見かけが弱っちい事がコンプレックスな僕には、それは本当の事だけにグッサリ刺さった。
第一印象は最悪だったけれど、ゼミで何度か一緒になるうちに、壬生君は悪い奴ではないって事は分かった。どちらかと言うと裏表がない性格で、言葉に遠慮がないせいでモテるのにモテない。
見かけから入る女子達も、壬生君の遠慮のない物言いに、すっかり手を引いてしまった。壬生君は自分のスペックを活かしきれていない残念なイケメンなんだ。
「壬生君はもう少し色々気を遣えば、抜群にモテる気がするのに。これだけ波が引く様に女子が居なくなると、なんかわざとそうやって振る舞ってる気がしてくるね。」
僕がそう言うと、壬生君は面倒くさそうに言った。
「自分の興味がない相手が何人来たって面倒なだけだろ?違う?俺は自分が好きになった相手しか無理だ。」
するとランチルームで一緒に食べていた同じゼミの清瀬君が、呆れた様に言った。
「うわぁ、強者のセリフだわ。俺今、殺意湧いたんだけど。壬生みたいにフィジカル凄くてかっこいい男はさ、選び放題な訳じゃん。近寄ってくる女子達のおこぼれを俺たち一般人が貰うってのが正しい有り様だと俺は思う訳。田中もそう思うだろう?」
そう僕に話を振る清瀬君のやさぐれ具合にクスクス笑いながら、僕は壬生君をじっと見つめた。確かに185cmを超える身長は遠目でも目立つし、男ならこうありたいって願うフィジカルだ。高い鼻と彫りが深いせいで目元が窪んだ顔は、日本人離れしていてひと目を惹く。
僕は壬生君をまじまじと見つめて呟いた。
「壬生君てどこ出身だっけ?」
すると壬生君はお返しとばかり僕をじっと観察しながら言った。
「東京。…まぁ親は二人とも九州だから、顔が濃いのはそのせいかもな。あっちの人はこんな顔多いからさ。」
清瀬君はため息をついて言った。
「あー、俺も九州の血が欲しかったよ。見てよこの顔。全然迫力ないんだから。」
僕は清瀬君の優しげな、でも目端の効きそうな表情を見てクスクス笑った。
「でも清瀬君は、その一見優しそうな顔を使って女子達を狩っているって聞いたよ?清瀬君の友達が言ってたもん。清瀬は必ず毎回お持ち帰りしてるって。」
すると目を丸くした清瀬君が、それは本当じゃないから信じるなって僕たちに慌てて言った。僕と壬生君はニヤニヤしながら清瀬君の本当の所を追求したんだけど、結局その通りみたいだった。
「俺はさぁ、一人の運命と出会いたい訳よ。でも、どうやったら見つかる訳?好きでお持ち帰りしてる訳じゃないしさぁ。毎回思うんだよね、運命だって!」
まるで飲み会のネタの様になってきた清瀬君の話に、僕と壬生君はゲラゲラと笑って揶揄った。ああ、面白い。僕は自分がそう出来ない事をよく分かっているので、友達の話を擬似感覚で聞いていた。本当は僕も運命に会いたい。
壬生君は僕をじっと見つめて首を傾げた。
「悠太は?あんまりそんな話聞いた事ないけど。」
僕は壬生君にいきなり名前で呼ばれてちょっとびっくりしたけど、二人の視線が突き刺ささるのを感じながら、首に手を当てて答えた。
「…僕は合コンとか賑やかな場は苦手だし、女の子達ってちょっと勢いが凄いからあんまり得意じゃないんだよね。それに僕は結局可愛いとかで、相手にされないのがオチだよ。女子は可愛いって最初は言うけど、結局彼氏にするのは壬生君みたいな男っぽい人だよ。…勿論特定の人が出来たら良いなとは思うけどね。」
すると清瀬君が頷きながら言った。
「…俺も悠太って呼ぼ。そうは言っても悠太は結構モテるけどなぁ。清潔感あるし、可愛いだろ?合コンでたまに悠太の話出るもん。田中君て可愛いけど、どんな性格なのかって。まぁ合コン参加する様な女の子達は一皮剥げば肉食だからさ、悠太なんてあっという間に喰われちまうよ。」
そう清瀬君に言われて、僕は苦笑いしか出来なかった。結局僕のコンプレックスである童顔のせいで、恋愛に消極的なのは否めないんだ。すると、壬生君が僕の髪を摘んで言った。
「…俺は悠太のこの柔らかい癖っ毛好きだけど。男だって可愛くてもいいと思うけど。」
僕は壬生君の手を払って、口を尖らせて言った。
「壬生君みたいに男性ホルモンで出来た漢に言われてもね。可愛いって男の褒め言葉じゃないでしょう?」
清瀬君は僕の言葉にツボったみたいで、お腹を抱えながら笑っていた。
「ははは、男性ホルモンで出来た漢!まじでそれっ!悠太めちゃくちゃ冴えてるな。」
壬生君は肩をすくめたけど、小さな声で何か呟いたのは僕には聞こえなかった。
『…まじで可愛いって褒めてんのに…。』
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