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《第一部》昔は幼馴染

複雑な気持ち

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キヨくんが僕の事を呼んだ瞬間、遠巻きにしていたクラスメイトがわっと集まってきた。皆、口々に僕の名前を呼んで信じられないと言っている。僕は、こんなに普段注目を浴びる事などないので、あわあわと狼狽えて後退ってしまった。

するとキヨくんが僕の前に出て言った。

「ほら、準備はもう良いのか?開校時間まで30分無いんだ。あ、三浦、こいつそっちに連れて行ってくれ。メイドの仕事のレクチャーまだだろ?」


そう言いながらキヨくんは、僕の腕を掴んで教室に入ってきた三浦君の所まで僕を引き摺って行った。三浦君は僕を見て、親指を突き出してニヤリと笑うと、キヨくんから僕を受け取って教室の接客テーブルにメイドたちを集めた。

キヨくんは裏方のリーダーと少し話すと、執事グループに号令を掛けて集合させていた。その姿を盗み見しつつ、さっきキヨくんは戸惑う僕を助けてくれたのかなと思いながら、三浦君の接客レクチャーを受けた。


「出来そう?橘。お前結構男子受けしそうだから、前面に出て欲しいけど、まぁその初々しい感じもそそるから、そのままでも良いかな。お、そうだ、真田が一緒にペアになってくれ。お前たちのコントラスト受けると思うんだよな。」

真田君はレスリング部で凄い筋肉質なんだ。筋肉の欠片もない僕とは全然違ってメイド服も本物の胸がある様に見える。…動くけど。真田君はニカっと笑うと、僕の胸をぎゅっと掴んで言った。


「いーね。貧乳と俺の巨乳コンビで集客出来そうじゃん。…あ、ごめん痛かった?」

僕が胸を押さえて呻いていると、周りのメイドたちが呆れた様に真田君を突っついて言った。

「お前、橘はひ弱なんだから、お前基準で乱暴にするなって。壊れちゃうだろ?大丈夫か?橘。」

僕はさっきからひ弱だとか、貧乳だとか、毛がないとか、まるで男らしくないと言われ続けて、自分が情けなくなって泣きたくなった。でも泣いたら終わりだと歯を食いしばって笑って言った。

「ううん。大丈夫。ごめん、気を遣わせちゃって。」


すると何故か皆がじっと僕を見て黙り込んでしまった。1人がハッとした様に三浦君に向かって言った。

「やば。俺今マジで橘が女の子に見えちゃったんだけど!ヤバくない?」

すると三浦君もニヤニヤして、やっぱりそうだろう?と周囲のメンバーと盛り上がってしまった。僕はますます身の置き所が無かったけれど、強張った顔でこっちを見ていた委員長のキヨくんと目が合って、何度目かわからないため息が出た。

きっとキヨくんも僕のこと情けないって思ってるに違いないんだ。だって怖い顔で僕を睨んでいたんだもの。



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