竜の国の人間様

コプラ

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忙しい毎日

意外なお出迎え

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 久しぶりの魔法学科の授業は楽しかったけれど、魔法薬の授業などちんぷんかんぷんで、同期の学生との差をまざまざと見せつけられた気分だった。留年の身なので勿論新入生と一緒のスタートと考えれば良いのだろうけど、出遅れ感が半端なくてがっかりしてしまう。

「ディーは元々魔法薬には興味なかっただろう?実践魔法の方が得意なのだから、それで良いじゃないか。」

 そうマードックに慰められて、僕は苦笑して授業を終えてガヤガヤと教室を出て行く学生達の波に乗って歩き出した。

「まあね。でもやっぱり休んでたせいでブランクを感じるよ。いっそ騎士科と一緒に魔物狩りに行ってパーっと派手にぶっ飛ばしたい気分だ。」


 そんな僕に肩をすくめたマードックが、呆れた顔で僕に言った。

「ディーが言うと本当にそうしそうで怖いんだけど。この見かけで魔力のパワーはとんでも無いからな。何たってパーカス様仕込みだろう?」

 僕はクスクス笑いながら、実践魔法の遠征はいつ頃あるのかとスケジュールを思い巡らしていた。ふと、先に歩いていた学生達の視線が同じ方向を向いていると気がつくのと同時に、微かに聞こえる声にハッと目を見開いた。

「あれ!何で?」

 僕は学生の群れを掻き分けて前の方へと飛び出した。


 そこにはパーカスが泣きじゃくるファルコンを抱えて困った様に突っ立っていた。

「ファルコン!」

 僕がそう呼びかけて二人の元に向かうと、僕を見つけたファルコンがパーカスの腕の中から抜け出して、いつもより蝙蝠型の羽根を大きくしてパタパタとこちらに飛んで来た。

「「ええ!?」」

 一体何人の声が重なったか分からないけど、僕も同じ様にびっくりしながらも慌ててファルコンをキャッチした。

「ま、ま。うぇっ!うええっ!」


 僕の腕の中で、そこそこ大きくなった赤ん坊のファルコンが凄い勢いで泣き出した。

「ファルコン、迎えに来てくれたの?寂しかったの?あー、パーカス、なんか大変だったみたいだね?」

 少しやつれてお疲れな様子のパーカスが、苦笑して僕の側に来た。

「今日はずっとご機嫌斜めだったのじゃよ。ま、まは何処だって納得しなくての。もうすぐ終わる頃かと思って迎えに来たのじゃが、まさか飛ぶとは思わなかったのう。」


 パーカスにそう言われて、僕はハッとしてファルコンの背中を見た。いつもより三倍ほどの大きさに見えた羽根はすっかり縮んで背中の小さなコブに戻っている。

「ファルコン、飛べるんだね?凄いね、ままびっくりしたよ。」

 僕がそう、指を咥えて瞼の落ちそうなファルコンに声を掛けると、ファルコンは僕をじっと見てから安心した様子で目を閉じてしまった。うん、寝グズだったね。僕がその可愛いおでこにキスをして微笑むと、マードックがファルコンを覗き込んできた。


 「…うわー、かわいい…。え?さっき飛んでたよね?こんな小さな人型とか見た事ないんだけど。あり得ないくらい可愛い。あああ、可愛い!」

 最初は気を使って小声だった声が興奮と共に大きな声になったせいでファルコンが眉を顰めると、マードックは慌てて自分の口に手を当てて目を見開いた。

 マードックがこんな風に感情を爆発させるのは見たことがない気がする。僕はクスクス笑うと、今度ゆっくり遊びにきてねと言って、パーカスと一緒に帰る事にした。

 実際気づけば凄い人だかりになってしまっていたから、退散するより他なかったんだ。


 「これは明日大変かもしれんな、テディ。ファルコンは結構な頑固者じゃから、置いていかれると知ったら、さっきみたいに飛んで探しに行くかもしれんし。…子守帯同で学校に連れて行くか?」

 僕は腕の中のすっかり天使の様な寝顔を見せてスピスピ眠っているファルコンを見下ろして、顔を顰めてしまった。学校に子連れで行く?それってありなのかなぁ。それだったら僕の方が短縮して切り上げて帰る方が実際的な気がするけど。


 「ファルコンが側にいたら、僕授業にならない気がするよ。どうしたら良いんだろうねぇ。それに今日のあの飛ぶファルコンを見られた後じゃ、連れて行ったとしても大騒ぎになるのは間違いないでしょ?

 バルトとロバートに相談してどうするか決めるしかないね。丁度二人共今日は居るから。」

「私もファルコンに泣かれると弱くてのう。ついつい甘やかしてここまで連れて来てしまったのじゃよ。しかしファルコンも見上げた根性だったぞ?テディのところに連れて行くまで泣きっぱなしじゃ。」


 いつもはそこまで僕にべったりじゃないはずなのに、どちらかと言うとパーカスにべったりだった筈なのに、何だか不思議だ。僕があの家に居ないのを察知されない様に、今朝は屋敷中で手を回していたのが却って良くなかったのかもしれない。

「パーカス、もしかしたらファルコンにちゃんとお別れの挨拶をした方が良かったのかもしれないね。その時は泣いても納得するでしょう?」

 僕の言葉にパーカスは首を傾げた。

「それも有るかもしれんが、分かってたところで納得するかは分からんぞ。まぁ慣れも必要じゃろう。ちょっとずつテディと離れる練習をするべきじゃったな。」



 「ええ!本当かい?見たかった…!背中のパタパタは見る様になったけど、飛ぶこともできるなんて驚きだ。いや、いつかは飛ぶだろうと思ってたけど、まさかこんなまだ赤ん坊なのに空を飛ぶ…。でもそれって危なくないか!?」

 混乱しているロバートの隣に座っていると、ファルコンを寝かせつけて来たバルトが三人分の寝酒を手に戻って来た。

「飛べるのもそうだが、問題はファルコンの後追いだな。パーカス殿でさえ手こずるとすると、テディが学校へ行く間は私達も交代で育児番をした方が良いかもしれないね。テディは十分休学したのだから、これ以上遅れるのは可哀想だ。」


 僕は小さなグラスを一気に煽ると、そのキツさに顔を顰めた。疲れた身体と心に染み渡る。少し脱力した筋肉を感じながら、ドサリとソファに沈んで呟いた。

「慣らしも無しにいきなり僕が消えたから、ファルコンも混乱したのかもしれない。明日は休もうかな。」

 するとロバートが僕を抱き寄せて水色の瞳を緩ませて言った。

「明日は俺がファルコンをみてるよ。遠征続きで休暇が欲しいところだったんだ。どうせ遠征の報告書のチェックだけだし、部下に届けてもらう事にするよ。そうしたらテディも気兼ねなく授業に行けるだろう?」


 僕は赤髪に指先を差し込んでロバートを見つめると、感謝を込めて唇を押し当てた。直ぐに僕の口の中をロバートの舌でなぞられて色っぽいキスになってしまったけど。

 それから僕の肩にバルトの唇が押し当てられたのを感じて、僕はロバートから顔を引き剥がした。

「三人のスケジュールを組んだ方が良さそうだ。どうしても無理な時はパーカス殿に頼むか、場合によっては学校に連れて行くことも考える必要があるかもしれないけどね。

 テディ、一人で頑張らなくても良いんだよ。私達三人の子供なんだから。」


 「うん、ありがとう。僕も久しぶりに学校行って結構楽しかったから、ちゃんと通えたら嬉しいかも。ね、今日は三人でベッド行く?」

 僕は一人立ち上がると、クスクス笑いながらバルトとロバートの手を掴んで引っ張り上げた。二人共さっきまでは父親の顔をしていたのに、すかっりギラついた男の顔になっている。

 喜びと興奮で心臓がドキドキするのを感じながら、僕は先に立って寝室へ向かった。ああ、今日は二人を甘やかしてあげたい気分だ。ふふ。





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