竜の国の人間様

コプラ

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忙しい毎日

大騒ぎ

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 僕の妊娠を知って大混乱しているシンディに、僕は苦笑してゲオルグに尋ねた。

「もう、お迎え来てるんでしょ?あまり時間ないよね?」

 するとゲオルグはシンディと何やら相談していたけど、僕らの方を向いて言った。

「今日はシンディを連れて俺の王都の家に泊まるんだが、先に荷物だけ預ければ時間はあるよ。どっちにしろ、荷物置いたら王都観光しようと思ってた所だ。」

 結局ゲオルグの家の迎えの鳥車に荷物だけ預けて、彼らとどこかでお茶でもしようと言うことになった。ロバートが連れて行ってくれたのは洒落た個室のカフェの様な店だった。


 「ここなら、気兼ねなく積もる話も出来るだろう?」

 そう言うと、自分は少し買い物をして来ると言い残してロバートは店を出て行った。僕らは三人でにっこり笑い合うと、メニューを眺めて注文を済ませた。

「王都はやっぱり洒落た店があるんだね。こんな店入ったの初めてだよ!」

 シンディがキョロキョロしながら、興奮している。いや、僕もこんな店に入ったのは初めてだよ。それくらい案外王都観光もしていない。そんな事をぼやいていると、ゲオルグがチラッと僕のお腹を見て言った。


 「ロバート様に気を使わせちゃって申し訳なかったな。それにしてもディーが結婚したって聞いて、将来的にはあると思っていたけど想像より随分早くてびっくりしたんだ。しかもお二人とだろう?だけど、その身体を見て、急いだ理由が分かったよ。」

 僕は相変わらず理解が早いゲオルグに頷くと、メダのせいで知らぬ間に妊娠可能な身体になっていたことを愚痴った。

「予想外だったから最初はかなり動揺したけど、今となっては頑張って乗り切ろうと思って。多分僕のお産は難しくなりそうなのは確かだからね。まぁ妊夫ってだけで、難易度は上がるでしょ。」


 さっきから大人しく僕らの話を聞いていたシンディが、顔を顰めて口を開いた。

「ディー、大丈夫?まだこんなに若いディーが出産とか、凄く心配になって来ちゃったよ。それに赤ん坊が産まれたら学校はどうなるの?私、来年ディーと一緒に通えるの楽しみにしてたんだよ?

 ああ、でもディーの赤ちゃんか…。ちっちゃなディー、めちゃくちゃ可愛かったからなぁ。きっと凄く可愛いよね!ロバート様の様に幼獣なのかな。ん?あ、バルト様の子供の可能性もある?ってことはちび竜なの?」


 一人混乱して来たシンディを見つめながら、それは僕も知りたい所だと思った。聞きたげな表情を浮かべるゲオルグに、僕はまた苦笑して言った。

「実際生まれてみないとわからないけど、メダは僕の考える様な出産になるって言ったんだ。だから多分、このお腹の赤ん坊は人間仕様だと思う。人間は変幻しないから、生まれた瞬間から人型だし、その時点でかなり大きな赤ん坊だよ。

 だからこのお腹もはち切れるくらい大きくなるかもしれない。

 それが僕には怖いんだ。人間のお産って難しい時もあるから。まぁ神頼みだね。あ、リアル神頼みか!ふふ。」


 僕の発言にますます二人は顔を見合わせて、心配気な表情を浮かべた。せっかく王都に楽しい気持ちでやって来たのに、僕のことで心配ばかり掛けるのは申し訳ない気がした。

 僕は慌てて、さっき用意した手土産を二人に渡した。

「ブレーベルの魔物だね!?へぇ、学生のマントに付けるのが流行ってるの?三人でお揃いとか嬉しいんだけど!ね、ゲオルグ?」

 ゲオルグは魔物のピンをじっと見つめて頷いた。

「ああ、俺たちの友情が続いてるって確信出来てちょっと安心した。ディーはきっとこっちでも人気で、取り巻きも出来たんだろうって思ってたからな。」


 僕はにっこり微笑んだ。

「そう言えば砦の警備隊長の事覚えてる?死の沼の時に色々お世話になったあの白鷹の人。あ、でもジャックの事は知らないか。警備隊長の末息子のジャックとちびテディは仲良しだったんだ。偶然にもこっちで会えたんだよ!

 総合学科にジャックのお兄さんが居てね。彼が引き合わせてくれたんだ。」

 シンディとゲオルグが顔を見合わせた。


 「砦の警備隊長って異動があったんだった。そっかこっちに居るんだね。死の沼か、懐かしいな。ディーと一緒にいると、あまりにもおかしな事ばかり起きて、それが普通になっちゃってたからねー。

 ディーが居なくなってからあんまりにも平和で、ゲオルグとさっさと王都へ行かないと退屈で死ぬって本気で話してたんだよ。出産で学校がどうなるかよりも、無事に産まれる方が大事だね。赤ちゃんも凄い楽しみだし!

 やっぱり、ディーの側に居ないと人生つまらないよ。ね?ゲオルグ!」


 シンディを呆れた様に見たゲオルグが、僕に声を潜めて言った。

「俺はともかく、シンディも飛び級するって聞かなくてさ。頑張りは認めるけど、俺も巻き込まれて大変な目にあったんだ。実技は兎も角、筆記がシンディは弱かったろ?」

 シンディはしかめ面で口を尖らせた。

「そーなの。ディーから貰った特別なミルのお陰で剣の方は問題無かったけど、流石に筆記試験は自分で頑張るしかなくてさぁ。ゲオルグはスパルタだし本当大変だったよ。でも凄いでしょ!?私が飛び級だなんて先生もびっくりしてたよ。

 でも早くディーに会いたかったし、頑張って良かったよ。」


 僕はゲオルグに同情の眼差しを送りつつも、この二人が僕と一緒に王立学校に通いたいから頑張ってくれたのかと思うと、凄く感動した。

「ふふ、なんか楽しみだな。僕の友達は魔法学科の獣人が多いから、騎士科のゲオルグとシンディが来てくれたら心強いよ。あ、ロバートおかえり。」

 僕らに気を使って席を外してくれたロバートが戻って来たので、僕らはここで別れることにした。僕は騎士科の棟には入れないし、学科が違うとアドバイス出来ることもないから、明日見学が終わったらパーカスの屋敷に寄ってくれる様に頼んだ。


 二人と別れてロバートと手を繋いでのんびり歩いていると、ロバートがポツリと言った。

「妊娠でテディの学校生活が予定と違ってしまったね。出産でしばらく学校も休むことになるだろう?彼らを見てて、テディも本当はもっと色々経験する時期なのにって考えてしまったよ。」

 僕はロバートを見上げて笑った。

「経験なら自慢じゃないけど人並み以上だよ。さっきシンディ達に言われたんだ。僕と一緒にいるとおかしな事ばかり起きるってさ。確かにその通りだなって。学校生活なんて、僕の経験に照らし合わせれば、凄く平々凡々だよね。

 でも確かに魔術師として騎士達と魔物討伐に行きたいな。でもそれって産んでからすれば良い事でしょう?まだ僕全然若いし!」


 ロバートは少し困った顔をして、少し息切れした僕を鳥車に乗せると呟いた。

「俺の愛する人は、確かに目が離せないね。子供が産まれても、それはあまり変わらない気がして来たよ。いっその事、王立騎士団を辞めてテディの護衛をした方が安心な気がして来た。…だめかな?」

 僕はロバートが案外本気でそう言っている気がしたけど、首を振って言った。

「駄目だよ。僕、ロバートが騎士団で活躍するのかっこいいって思ってるんだから。それにもしかしたら一緒に魔物討伐に行けるかもしれないでしょ?」


 僕のためにロバートの夢を諦めてほしくは無かった。実際僕も子供が産まれても学校へ行こうと思ってたし、家の中で子育てだけする気はさらさら無かったんだ。

 それこそ背中に赤ん坊を背負ってでもね?まぁどうなるかはわからないけど!でもどう考えても僕専用の保育園が完璧に準備されつつあるんだもん!なんか産後生活も色々楽しみになって来たよ。
























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