竜の国の人間様

コプラ

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成長期?

ロバートside焦燥

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 「ブレーベルに、最近どの騎士が向かったのか調べている奴がいたぞ?何かあったのか?」

そう同僚の騎士に尋ねられて、私は眉を顰めた。何だ?ブレーベルで何かあったのか?私は疲れた身体を食堂のテーブルに落ち着かせると、同僚の顔を見て尋ねた。

「いや、俺には分からないが…。一体誰がそんな情報を集めていたんだ?」

すると情報通として有名なもう一人の同僚が、脇から顔を覗かせて言った。


 「ああ、王立学校の生徒だ。ブレーベル出身の騎士見習いが聞き回ってた。ブレーベルにピンポイントなのが気になって、本当は誰がそれを知りたがってるのか、ちょっと調べてみたんだ。」

そう言ってニヤリと笑った狐獣人は、実務よりも工作系の裏方で活躍している同僚だ。仕事でもないのにそんなことにまで目を光らせているのが、性分なのか、それとも仕事の一環なのか分からないけけれども、妙に感心してしまう。


 けれども彼の言葉はまだ終わりでは無かった。彼は私に意味深な眼差しを向けてこう言った。

「多分この情報はロバートには俺に幾ら払っても知りたいものだと思うぜ。どうする?お前はいい奴だからおまけして、蜜酒ひと瓶で手を打ってやろう。」

私は妙に自信満々でこんな事を言ってくる彼の視線が気になって眉を顰めた。

「…随分ハッキリ言い切ったんだな。せめてどの類の情報か教えてくれなければ、こちらも手は出せないだろう?」


 するとすっかり蜜酒を舐めた様なうっとりした笑顔で奴は言った。

「ははは、お前は絶対俺の前に蜜酒を置くだろうよ。何と言ってもブレーベルに住むあの特別な青年絡みだからな。」

私は奥歯を噛み締めた。テディの事だろうか。くそっ、奴の口車に乗るのは気に入らないが、そうは言ってもテディ絡みの情報をスルーは出来ない。

そんな事をこいつに見透かされていることに悔しさと少しだけ怖さを感じながら、俺は何でもない様に肩をすくめて言った。


 「…ブレーベルは俺の家もある。そこまで言われたら気になるな。蜜酒で良いんだな?ちょっと悪いが、蜜酒を一本この男につけてやってくれ。」

私は通り掛かった配膳係にそう頼むと、ポーカーフェイスで同僚を睨んでぶっきらぼうに言った。

「お望み通りだ。さぁ情報をくれ。」

配膳係の後ろ姿を見送りながら、同僚はニヤニヤしながら声を顰めた。


 「では情報の開示といこう。ブレーベルの情報を欲しがっていたのは、アトラス家の後継であるミチェルだ。獅子族のあの男は若いが目端は利く。

ではなぜそんな男がブレーベルへ派遣された王国騎士団員を知りたがったか、問題はその理由だ。俺様はツテを辿ってミチェル関連の最近のブレーベルのゴシップをかき集めた。

すると面白いことに、ミチェルは少し前、将来の婚約者候補にある人物を名指ししている。獅子族の後継がハーレムでもない相手にそうするのは極めて珍しい。」


 私は同僚が言い出す事が予測できる気がした。だから先に言ったんだ。

「…ミチェルの名指しした相手ってのは、パーカス殿のご子息か?」

すると同僚は肩をすくめて首を傾げた。

「そこが今ひとつハッキリしないんだ。パーカス殿の噂のお子さんはまだ小さかったんじゃないのか?一方で高等学院に通うぐらいの青年とも聞く。一体どちらが本当のご子息なのか…。ロバートはよく知ってるだろ?どちらが本当だ?」


 私は最近テディが小さくならなくなったと聞いていたので、迷う事なく言った。

「ああ、ご子息は高等学院の青年の方だ。それより、なぜミチェルはブレーベルへ行った騎士を知りたがったんだ。」

すると同僚は、配膳係が持ってきた蜜酒を小さなグラスに入れると一気にあおった。

「ふーう!いつ飲んでも美味いな。まして他人の奢りだと思うと余計にな?」

俺はイライラしながら辛抱強く相手の口が開くのを待った。こちらがテディ絡みの情報を必死で欲しがっているのを見透かされたくは無かったのもある。この男に弱みを見せるのはまずい気がするからな。


 「まぁそんな顔するな。ちゃんと教えてやるからな?お前が言うのが本当なら、ミチェルはパーカス殿のご子息の発情期のお相手が誰だったのか知りたがった、ってところなんだろうな。」

俺は同僚の何気ない言葉に息が詰まった。テディが発情期?なんて事だ。覚悟していたとはいえ、俺が側にいない間にそんな事になっていたとは。それから俺は今までの話が繋がった気がしてハッとして顔を上げた。


 「パーカス殿のご子息の発情期のお相手が、王国騎士団だったと言う事なのか?」

まるで誤魔化す余裕もなくハッキリと聞いてしまった。しかも私の脳裏には一人の騎士が浮かび上がってくる。私の顔を見て眉を顰めた同僚がぎこちなく蜜酒をグラスに注いでもう一杯飲んだ。

それから俺にも一杯注いで飲む様にグッと俺にも押し付けた。

「そんな顔をするお前にはこれが必要そうだ。まさかお前にとってそれ程の話だとは思わなかったな。ではお相手ももしかして予測がつくのか?

ただ、俺が調べたのはどの騎士がその時ブレーベルに居たかって事で、実際に発情期の相手をしたかは分からない。あくまでも噂だ。」


 「…もしかして青龍族のバルト様か?」

同僚は眉を上げてから頷いて誰に言うともなく呟いた。

「しかし一体どう言う事なのか。青龍族、アトラス家、そしてお前。皆がその学生を気にして。確かにパーカス殿のご子息なら後ろ盾はしっかりしてるがな?」

俺は引き攣った顔を意識しながら、同僚の探る様な眼差しを避けた。


 「あの子はそんなんじゃない。いっそ、パーカス殿の後ろ盾などない方が良かった。それなら攫ってしまえるだろう?そうか、バルト様が…。あの人はことごとく俺の邪魔をする。」

同僚はギョッとした様子で俺を見つめると、顔を寄せて言った。

「おいおい、冗談でも攫うなどと物騒な事を言うなよ。しかしそうなるとますますパーカス殿のご子息に一目お会いしたくなってきたな。お前たちが我先にお近づきになりたいお相手だからな?

ははは、睨むな。別に俺は野心など持ってないさ。俺は精密な情報を集めたいだけだ。ま、趣味の一環さ。」

 
 
 俺はその夜、王都の自分の家のベッドに寝転がってぼんやりと本を読んでいた。けれども文字の上を目が滑るだけで、まるで頭に入らない。ギシリとベッドを鳴らして起き上がると、カウンターに立って酒を出して小さなグラスに注いだ。

テディの話とはいえ、今回の話は耳にしない方が良い類の話だったに違いない。自分だって過去にざんざんしでかして来たことを考えると致し方がない事だ。

しかし、よりにもよって初めての相手が青龍のバルト様。なんでなんだ。


 俺はイライラしながら、焼けつく様な酒を一気に喉に流し込んで少し咽せた。テディの発情期の相手とするなら、同級生のゲオルグ辺りだと踏んでたんだが、バルト様なら話は変わってくる。

あの人がテディをますます離さなくなるのは当然予想がつく事だ。

俺と彼の条件はそう違わない。テディはブレーベルに。俺たちは王都がメインで、しょっちゅうあちこちに派遣されるのだから。


 あの可愛いテディが発情期でどう豹変したのかも気になるが、それ以上にバルト様に先手を打たれた事に想像以上にショックを受けている自分を感じて、俺は窓辺に立って二つの欠けた月がもうすぐ重なり合うのを眺めた。

「テディ、君に会いたいよ。君はもう彼に決めてしまったのかな…。」

そう自嘲気味に呟きつつ、知らず歯軋りした自分に気がついて、俺は窓枠をグッと握りしめた。

「いや、まだだ。彼はこれから王立学校に来るのだし、パーカス殿もまだ若い彼を手離す事はないだろうから。俺にもテディの側に居られるチャンスはあるはずだ。」

まるで暗示をかける様に言葉にすれば、本当にそうだと思えて、俺は少し張り詰めた心を緩めた。






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