竜の国の人間様

コプラ

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放浪記

危ないちと

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 「なんじゃ、そんなに睨みおって。可愛い顔が台無しじゃぞ、パーカスの息子よ。フォホホホ。」

 そうニタリと笑いながら、燻し銀の様な瞳をぎらつかせた。僕は思わずパーカスにしがみついて、口を尖らせた。

「僕、ひつようにゃい、ねー?」

 パーカスは苦笑して、僕の背中をトントンと叩くと言った。

「龍神様はテディが必要じゃからのう…。」


 僕は眉を顰めて、椅子にふんぞり返って周囲を興味深そうに眺めているメダを見つめた。結局僕はメダに迷惑掛けられてるんだ。恩恵と迷惑、一体どちらが多いだろうか。

「長老、久しぶりだな。一体いつぶりか。」

 見た目が若いメダが、そんな口を長老に利くのは違和感があるけれど、長老はメダをじっと見つめて答えた。

「龍神様、お久しゅうございます。以前お会いしたのはまた別のお姿だと記憶しておりますが、また随分と若返りましたな。羨ましく思う程ですのう。」


 メダは楽しそうに長老を見て、眉を上げて呟いた。

「長老こそ、ほとんど変わっておらぬわ。一体お前は何歳になるのだ。ハハハ。」

僕は思わず長老の方を向いて、常々疑問に思っていた長老の年齢を聞けるかと耳をすませた。けれども期待は裏切られて、長老は怪しく微笑んだに過ぎなかった。長老は手の中にある、瓶に入った黒い紋様を眺めながら呟いた。


 「今回の黒の紋様については、正直驚きの方が強かったですの。元々正体など掴めなかったこの恐ろしい病いが、この様な呪いの様なものだったとは考えもしませんでしたからの。

龍神様がテディを介して、この現世に御身オンミで現れて頂いたお陰で、謎に包まれたこの件も解決を見ることが出来たのですからの、やはり人間という存在は、我々の世界にとっては非常に得のあることなのでしょうな。」

何だか長老に僕の事を評価して貰ったみたいで、悪くない気分だ。でも長老だけに油断は禁物だぞ?


 「長老、龍神様がテディの為に、この王都に潜む黒の紋様を処分してくれましたぞ。丁度、黒の紋様の当たり年の様じゃ。ただ、今回の件でテディの魔素を狙って動く事がハッキリとしたのじゃから、我々にとっては何とも困ったものじゃよ。」

パーカスがそう言って抱っこした僕を見下ろした。ほんと困ったものだよ。僕、黒のアレめちゃくちゃ怖いのに。

「ちびっ子は龍神様と一緒におれば心配はないじゃろう。フホホホ、まったく人間は興味深いものじゃ。」


 そう言ってねっとりと僕を見るので、どうにも身の危険を感じた。長老は絶対僕を人体実験したいはずだ。この竜人の眼差しの奥には他の竜人には無い何かがあるんだ。

それが何かは説明ができないけど、僕には危険なものだ。僕はパーカスにコソコソと囁いた。

「もう、ご用終わっちゃ?帰る?」


 メダが僕を呆れた様に見つめた。

「こやつ、こんなに甘ったれだったか?それとも長老が怖いのか?分からぬでも無いがの。長老にとっては、人間であるお前は喉から手が出るほど欲しいものだろうしな。そうだろう、長老。」

 長老は目元を緩ませてメダとパーカスを見て言った。

「パーカスの息子に手は出さぬよ。ましてその子は龍神様の愛し子じゃからのう。わしの手にはもう届かぬ。」


 うん、危なかった。パーカスが先に僕を発見してくれたのは運命だったみたいだ。実験動物になるところだったよ。セーフ。

それでもこの長老は、僕に怖い事ばかり言ったりした訳じゃない。お薬を作ってくれたりと何かと協力もしてくれたんだ。僕はチラッと長老の方を向いて言った。

「ちょうろう、こわいちと。だけど、たよれるちと。ありがちょ…。」

すると長老は目を見開いて、口元に笑みを浮かべてパーカスに言った。


 「まったくお前の息子は何とも言えないのう。こんな風に言われたら、庇護したくなるのは、こやつの作戦なのかの?」

パーカスはフホホと笑って僕の頭を撫でて言った。

「テディは心根が真っ直ぐなのじゃよ。じゃからな、一緒に居るとこちらまで心癒されるのじゃ。お陰であちこちに崇拝者を作るので、私としてはおちおちして居られんがのう。

では長老、我らはこれで失礼する。辺境の町に帰らねばならんのでのう。」


 いつの間にか現れたのか、以前僕らを案内してくれた白いローブを着た、飾り羽根が髪についた美中年の獣人が扉の所に立っていた。

「お迎えにあがりました。お帰りの案内をいたします。」

この獣人は他の塔の人達と違うローブをまとっているし、きっと偉い人なんだろう。白鷹の獣人なのか、何を考えているのかわからない金色の眼差しで僕を見て言った。

「あなたは、私の予想を遥かに超えてしまわれましたね。龍神を呼び出した今となっては、もはや隠して育てることも叶わない。塔の本意としては、この国の禍福となりそうなあなたは厳重な管理下に置きたい所でしたがね。」


 僕は長老よりもこの白いローブを着た人の方が、ゾッとする様な感情の無い眼差しをしていると思った。国の安泰のためなら多少の犠牲も厭わないと考える獣人なんだろう。

僕はパーカスの腕の中で怯まない様にしながら、階段を降りていくその人の後ろ姿をじっと見つめていた。

結局僕の存在は、この異世界では異端そのもので、明らかに問題を生じさせているんだ。だからこの人も国を憂いているだけで、悪気があるわけじゃ無い。そうは言っても、好意のかけらも感じないけど…。


 ダダ鳥車で遠ざかる塔を眺めながら、僕はホッと息を吐いた。やっぱりあの場所は独特の雰囲気がある。そういえばマクロスは屋敷に居なかったけれど、塔に戻っていたのかな。

「ぱーかちゅ、マクロスっちぇ、今どこぉ?」

パーカスはメダをチラッと見つめて言った。

「マクロスは連絡係じゃったからのう。昨日は塔へ出掛けていたから、今は屋敷に戻っておるかもしれんな。じゃが、辺境までは付いてこないじゃろうの。王都でお別れじゃな。」


 僕はメダのお守りが一人減るのかと、微妙な気持ちになった。とは言え、そんな心配よりも僕は辺境の町に帰れる方がずっと楽しみで嬉しかったんだ。

屋敷に到着すると、先客がきていた。バルトさんだ。騎士服を着ていないから今日は非番なのかもしれない。

「パーカス殿、辺境へお戻りになるとお聞きしました。お戻りになる前に是非テディに王都を案内させて下さい。…以前テディと約束していましたから。」


 少し緊張した表情でそうパーカスに言うバルトさんに、パーカスは一瞬の間の後、僕を見下ろして言った。

「…テディがそれを望むのならばよい。テディが出立するのは明日じゃからの。午後は空いてるがどうするかの?」

僕はバルトさんとそんな約束をした気もするし、あまり良くは覚えていなかった。けれど、バルトさんならきっと美味しいお店へ連れて行ってくれそうだし、わざわざ来てくれたからそれも良いかと頷いた。

「うん、行く。美味しい所、ちゅれてく?」


 バルトさんが嬉しげに頷くと、さっきまで黙っていたメダが口を開いた。

「…大賛成とは言えぬな。そやつはお前の魔素を濁らせる。だが、行きたがっているのに反対したら、お前は臍を曲げるだろうな?しょうがない。今回は見過ごしてやろう。だが、魔素は濁らせるなよ?」

バルトさんはメダが何を言っているのか理解しようと眉を顰めたけれど、ハッとすると少し動揺した様にパーカスに視線を動かした。パーカスは何か言いたげだけど、特に何を言うわけじゃなかった。


 無事、王都で美味いものツアーだね!?メダの気が変わらないうちに行こうよ、バルトさん!


 









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