竜の国の人間様

コプラ

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本当に成るようになる?

祟り神

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 僕の手を掴んでお仕置きと言いながらも、何を考えているかまるで分からないメダを前にして、僕は必死に頭を回転させた。

「僕の魔素を味わうのは百歩譲るとして、その魔素の質に対して色々注文するのはどうかと思うよ、僕は!」

すると首を傾げて少し考え込んだメダは、肩をすくめてハンモックから降りた。

「確かに生贄とは言え、お前の主張もあながち無視できないものがあるな。ただ、我はお前だけの魔素の方が好きなんだ。前にもそう言っただろう?そんなに難しいのか?…それともお前の魔素を濁らせたあの男に罰を与えるべきなのか?」


 僕はバルトさんにメダが何をするのか不安になって、メダが消えてしまわない様に手をぎゅっと握って尋ねた。

「分かったから。もう、どうしたら機嫌が直るのかな…。」

メダはそっぽを向いたけれど、気持ち口元が上がっているから機嫌を直し始めた様だった。僕の手を引っ張りながらスタスタと温室を出て、僕の部屋に向かった。

こんな時に限って誰とも顔を合わせないのが何だか不思議だ。もしかしてメダが何か細工してるのかな。神さまならなんでもありな気がして来た。


 僕の部屋に入ると、メダはキョロキョロと見回した。

「ふむ、悪くない。ここはお前の匂いが満ちていて、居心地がいいな。今夜から、私はここに一緒に眠ろう。」

僕は眉を顰めた。

「…パーカスが賛成するとは思えないけど。それにベッドが狭すぎるでしょ。」

すると面白そうにメダは僕を見つめて言った。

「狭いから良いんじゃないか。そんな事も分からないのか、お前は。」


 うーん、なんだか不穏な空気だ。取り敢えずここは撤退した方が良さそうだ。僕は肩をすくめて部屋の扉を開けながら言った。

「…分かったよ。一緒に眠ればいいんでしょ?でもパーカスの許可はメダが取ってね?」

僕がそう言うと、案外大人しくメダが後を着いてきた。一難去ったけど、今夜は一緒に眠ることになりそうだ。…眠るだけだよね?僕がチラッとメダを窺うと、機嫌をすっかり直したメダが王宮の話をし始めた。


 「王宮は久しぶりだったが、随分せせこましくなっていたな。以前はもっと広々としていたが。この国の住人が増えたのかもしれん。その割に私への畏敬の念が増えた気はしないがな。」

神心としては色々思うところがあるのかな。僕が吸い取られたあの祭壇もほったらかしになっていた訳だし。

「ねぇ、この世界の軋みってのは、もしかして龍神への祈りが足りなくて起きたとかそう言う事なの?」

すると、メダは面白げに声を立てて笑った。


 「お前は面白い事を言う。一部では真理でもあり、一部では違うな。元々この大地は荒ぶる場所ではあるのだ。だから龍神である私が生まれたのだし、全てをコントロールするのは私でも難しい。

お前が言う様に、私に求める声が多ければ気まぐれに救済を与えるかもしれないぞ?ははは。」

僕はメダの与える救済は、一方で代償もあるのではないかと思った。僕に取っては神さまというのは、怖いものだ。だから本当はメダに対してももう少し慎重な態度で接した方が良いのは分かっている。

でも目の前に具現化したメダは、どこから見ても我儘な見栄えの良い若者にしか見えない。本当にね。


 談話室に戻ると、パーカスが丁度もう一方の入り口から部屋に戻って来た所だった。

「何処にいたのじゃ。何処にもいないから探しておったのじゃぞ?」

するとメダがニヤリと笑って言った。

「パーカス、今夜私はテディの部屋で眠ることにしたぞ?反対はしないだろう?」

するとパーカスは眉を顰めて言った。

「いくら龍神と言えども、今のテディと同衾ドウキンするのには賛成できかねる。まだテディは16、7の子供じゃ。成熟も完全にしてるとは言えん。神なれば理解してくださると思うがの。」


 僕はパーカスが正面切って反対した事に、正直驚いた。あんなに拒絶するとは思ってなかった。だから僕はパーカスに言ったんだ。

「パーカス、僕がメダを怒らせちゃったんだ。でも、ただ一緒に眠る事にそんなに反対すると思わなかったよ。」

すると、パーカスが少し戸惑う様子を見せて、チラッとメダを見た。メダは表情は変えなかったけれど、少しため息をついてパーカスに言った。

「…テディもこう言っているだろう。ただ一緒のベッドで眠るだけだ。私も流石にこんな子供に何をしようなどと不埒な事は考えない。しかし思いの外、テディは子供っぽいのだな。

だが、それならどうして魔素にあの男の濁りが混じっていたのか。」


パーカスが僕を見つめて尋ねた。

「…王宮でバルトに案内された時、何処に行ったのじゃ?」

僕は分かりやすくギクリと身体を強張らせた。メダが余計な事を言ったせいで、パーカスにバルトさんとキスしたことがバレそうだ。いや、別にバレても構わないんじゃないのかな。やましい事をした訳じゃない。

「王宮の中をウロウロしていたら、随分注目されちゃってバルトさんの与えられている居室へお茶を飲みにいっただけだよ。それだけ。」


 「お茶を飲んだだけじゃないだろう?お前からあの男の魔素の気配がする。口づけでもしなくてはそこまで取り込めない筈だ。」

またもやメダが僕を窮地に落ち入れようとする。僕はパーカスの眉間の皺が深くなるのを感じて慌てて言い訳をした。

「ちょっとだけだよ。キスしたのは。ただの挨拶…だよ?バルトさんは小さな僕もよく知っているから、愛着の延長なんじゃないかな?僕だってジェシーが獣化してたら、馬鹿みたいにキスすると思うから。それと一緒だよ。」


呆れた顔のメダを目の端に入れながら、パーカスが僕に諭す様に言った。

「あやつはテディの事を単なる愛着の相手としては見ておらんぞ?前からテディを特別視しておったわ。実際何か言われたのではないのか?」

僕は黙って俯いた。やっぱり、パーカスに誤魔化しは効かない。バルトさんが僕の事を特別視してる気がするのは、流石に僕にも感じられたから。

「僕にはどう反応していいか分からないんだ。ただ、優しくしてくれたら甘えたくなっちゃうのはダメなのかな。」


 目の前で困った顔をするパーカスと、呆れ顔のメダに見つめられて、僕の居心地の悪さはここ一番になっていた。

「…まだまだ私の息子は小さなテディが透けて見える。実際この姿も一時的と思えば当然の事よな。メダ様、テディはこの姿でもあの小さな甘えん坊が内在しとるのじゃ。そこを分かってくれるのなら、私も反対はせんよ…。」

メダは肩をすくめてソファにドサリと座り込むと、僕たちを見上げて言った。

「ああ、我もお気に入りの側は居心地が良いだけだからな。無下な事はせん。」




 結局、そんなこんなで僕はメダに後ろから抱き抱えられて眠る羽目になった。

「こんなにがっちり抱き抱えられたら、僕眠れない気がするんだけど。」

そう文句を言ったものの、次々浮かんでくる欠伸を堪えることができずに、僕は暖かな腕の中でぼんやりと目を閉じた。祟り神になりかけたメダは、今は慈愛の神になったのか思わず安らいでしまう。

首の後ろに柔らかく唇を押し付けられて、メダが何かささやいた気がするけれど、僕にはもう目を開ける事はできなかった。


 『まったく、神である私が生贄に忖度するなど思っても見なかったわ。今はまだこうして待つのも一興か。我の時間は果てが無いからな。』


















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