竜の国の人間様

コプラ

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トラブルメーカー

吸い取られて

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 『あ、ずるっ!』

シンディのそんな声を耳にしながら、僕はぶちゅっとゲオルグにキスされていた。でも何だろう。突き飛ばすほど嫌でもない、どちらかと言うと心地良いゲオルグとのキスは、僕に大胆な行動を取らせた。

僕は焦っていたのかな。同級生達とは遥かに出遅れている僕の成熟経験を巻き返そうと、無意識に背伸びしたのかもしれない。だからゲオルグに思わず抱きついて、もっとキスを強請った様に見えてもしょうがなかった。


 途端にゲオルグが喉の奥で低く笑って、僕の唇を喰んだ。唇に唇を挟まれて軽く引っ張られると、妙な気分になる。それは以前ロバートにされたキスを思い出した。

僕のドキドキは明らかに激しくなって、それと同時にゲオルグの攻撃は深くなった。甘やかす様な揶揄いは気づけば僕の唇の内側を舌でなぞっていて、僕は妙な疼きを感じてため息をついた。


 呼吸と一緒に入って来たゲオルグの舌が僕の口の中の粘膜をなぞると、僕はハッとして目を見開いた。これは、行き過ぎたチュウだ。僕は思わず動揺してゲオルグの胸を突き飛ばした。

何を考えているのか分からないゲオルグの顔を見つめながら、すっかりふらついた身体をよろめかせて後ろに後ずさると、僕は祭壇の前の生贄の台に足を取られて座り込んだ。

 
 途端にビリッと何か感じた気がして、僕は手をついて立ちあがろうとしたんだ。けれども僕の手は吸い付いたように離れなくなった。僕はその灰色の台が僕のついた手を中心にして、赤いシミが広がる様に色が変わるのを呆然と眺めていた。

やばい。身体が動かない。僕の身体がゆっくり祭壇の上に吸い付く様に倒れ込むのを感じた。同時にゲオルグとシンディの慌てた様な僕を呼ぶ声も聞こえたけれど、僕の瞼は塞がってもう何も見えなくなった。

薄れる意識の中、僕はまたもや何かとんでも無いことに巻き込まれたのを感じたんだ。ああ、パーカスがまた心配しちゃう…。


 

 妙に白い部屋のベッドに僕は横たわっていた。湾曲した部屋は天井付近の穴から太陽光を取り入れて柔らかな明るさに包まれている。でも僕にはまるで見覚えのないこの景色に、目を覚まそうと何度か目を瞬いた。

丁度その時、部屋に入って来たのは薄紫色のローブを着た立派な巻き角の獣人だった。彼は穴から伸びる棒を操作すると、僕のベッドまで近づいて来た。


 僕はこの見覚えのある薄紫のローブを何処で見たのか思い出して、目をぱっちり開けた。すると優しげな顔の獣人さんは僕と目を合わせてハッと息を呑んだ。

「…!目覚めたのですか?ああ、良かった。長老もお喜びでしょう。ああそうだ、先ずはパーカス殿に連絡しないと。何か飲みますか?ちょっと待っててくださいね。」

そう慌ただしく部屋から出ていくと、白い部屋はまた物音ひとつ聞こえない静けさに包まれた。


 一体どうなってるんだろう。今長老と言ってたし、あのローブは塔で見たやつだ。という事は僕は塔の部屋に居るって事なの?何でここに居るんだろう…。

僕はまだ頭の中がぼんやりして何も考えられなかった。どうしてここに居るのか、まるで思い出せなかった。もう一度吸い込まれる様にウトウトと眠気に誘われていると、開いた扉の前に数人やって来た気配がした。


 「テディ!テディ、目が覚めたのかの!?」

パーカスだ。少しやつれている気がするのは気のせいじゃないみたいだ。ここが塔なら、僕はまたもやパーカスに心配を掛けてしまったに違いない。

パーカスの大きな乾燥した手が、僕の頭を撫でるのを感じながら、僕は喉がカラカラなのに気がついた。少し咳き込んだ僕に慌ててパーカスが甘い蜜の様な飲み物を飲ませてくれた。後で知ったんだけど、薄めたポーションだったみたいだ。


 「…ぼく、ちっちゃい。」

パーカスに抱き抱えられて、もう少しコクコクと飲んだ僕は、目の前に見える小さな手を見つめて呟いた。ぼんやりと記憶が蘇ってくる。僕はパーカスが用心深く僕を見つめているのを感じた。何だろう、いつもと違うな…。

「テディはブレーベルの高等学院で意識を失ったのじゃよ。まったく大騒ぎだったぞ。あの学院にまさか祭壇があるなど…。じゃが、調べてみると祭壇があるのは公然の秘密だった様じゃ。

獣人や竜人には、何の影響もなかったのでな。長い間、単なる空き部屋としてしか認識されていなかった様じゃ。」


 僕はパーカスに促されて、新しいポーションを飲ませられた。さっきより濃厚なそれは、口にするとサラリと喉に流れていった。

「…おいちい。」

しかしどうにも色々分からないことが多過ぎる。かと言って僕もまだ食いついてパーカスに色々尋ねるほどエネルギーが無かった。

そう言えばパーカスの後ろに控えているのは、さっきの巻き角の人だった。ポーションの入った箱を抱えて居る。まさかあれ全部飲めとか言わないよね…?


 「マクロス、ブレーベルの領主のブレート殿にテディが目覚めた事を通信しておいてくれるかの。随分と心配しておったからのう。」

僕はハッとしてシンディとゲオルグの事を思い出した。僕が生贄の石台に触れた後の記憶がないという事は、彼らに助けてもらったという事なのかな。

「ぱーかちゅ、しんでぃたちは…?」

するとパーカスは僕の様子を、少し潤んだ瞳で観察しながら言った。


 「…まだ本調子ではないからのう。詳しくは元気になってからじゃ。テディはあの部屋で倒れて以来、10日も目覚めなかったのじゃ。ポーションを唇に垂らして飲ませるくらいしか出来なかったからのう。

これから詳しく身体も調べないといけないからの。今はもう少しお眠り…。」

そう言ってそっと大きな枕に僕を寝かせた。ポーションが効いたのか、僕は温かさを感じて目を開けていられなくなった。パーカスが優しく僕の身体を叩いてくれたので、その心地良いリズムにつられてあっという間に眠ってしまった。


 次に目が覚めたのは、マクロスと呼ばれた薄紫のローブを着た山羊の様な角の獣人が、やっぱり部屋の窓を操作して居るのに気づいた時だった。外が明るいから夜ではないだろう。

「…おはよう。んーちょ、まくろす?」

僕がマクロスの背中にそう声を掛けると、マクロスがハッと振り返って満面の笑みを見せた。

「ええ、おはようございます。テディ様。ご気分はいかがですか?…随分と顔色が良くなりましたね。可愛らしい神子様とこの身のあるうちにお会い出来るとは、末代までの誉れでございます。」


 そう言ってマクロスは僕のベッドに跪くと、うやうやしく僕の手をとって自分の額に押し当てた。ん?今マクロス、僕を何て呼んだ?それにこの態度、何か得体の知れない出来事が起きてる気がする!

その時部屋に入って来たのはパーカスと長老だった。長老は目をギラっと光らせてニンマリ笑って言った。

「まったくこう何度も驚かせてくれるとは、誠に稀有な存在じゃのう。パーカスの養い子、いや、息子はこの世界で唯一無二の存在になったわ。オホホホ。」

















 


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