竜の国の人間様

コプラ

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ちっちゃな身体じゃ物足りない?

辺境の学校

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 「じゃあ帰りはジェシーの家に迎えに行くからの。待っておるのじゃよ。」

そう言って忙しそうに立ち去るパーカスと辺境の街の獣人達を見送って、僕は学校の門を入った。後ろから走って来る足音に僕は顔を向けた。

「おはよう、テディ。今日は魔肉狩りの日だから、絶対テディが来ると思ってたんだ。」

そう僕に声を掛けてきたのは、ジャックだ。ジャックは白鷹族の末っ子で、八歳の貴族の子だ。この辺境の街に貴族の子が居るのは珍しい。


 ジャックの父親は王国騎士団所属で、辺境の街の近くの砦の国境警備隊長だ。この街を気に入った彼は家族を呼び寄せて、領主であるダグラスから別荘を借りて住んでいるんだ。

「おはよう、じゃっく。ちょーなの?僕もまにくがり、いきちゃかったなー。」

そう答えると、ジャックは楽しげに笑って青い目を柔らめた。

「本当、テディは可愛い見かけと中身が違って面白いね。そう言えば、砦からも二人の騎士が今日の魔肉狩りに参加するって父上が言ってたな。人数多い方が魔肉狩りの効率がいいからね。砦も案外養う獣人達が居るんだよ。」


 少し大人びた物言いは、ジャックのお父さんの立場のせいなんだろうか。学校に入ってから何かと声を掛けて面倒を見てくれるジャックに、僕は視線を動かした。

白鷹の象徴である先端が真っ白の美しい飾り羽根が、ジャックの後ろだけ長い髪の先端に生えている。高等学院の魔法学の先生も同じ様な飾り羽根を持っていたけれど、微妙に種族が違う気がするのは、ジャックの醸し出す雰囲気だろうか。


 不意にジャックとは反対側の手を繋がれて、僕はハッとして其方を見た。ジェシーだった。僕はにっこりしてジェシーに挨拶した。

「おはよう、じぇちー。いちゅもギリギリなのに早いね?」

するとジャックの方をジトっと見てから、まるで聞かせる様に大きな声で言った。

「おはよ。今日はテディ、学校の帰りにうちに来るんだろう?また泊まって行くか?俺のベッド、大きくしたから一緒に眠れるぜ?」

僕はクスクス笑って、今日は魔物討伐じゃないから、パーカスはそこまで遅くならないよと言った。


 すると黙って聞いていたジャックが、急に僕たちの会話に割り込む様に言った。

「魔肉狩りが終わる頃、森の境界に行かない?街の人達も沢山集まっている筈だから危険じゃないよ。隠者様もテディが迎えに行ったら喜ぶんじゃない?」

僕は魔物狩りという様な、異世界のイベントは見逃したく無かったし、実際パーカスを迎えに行って驚かしたかった。だからジェシーの方を見て言った。

「ね、じぇちーもいかない?」

元々この手のイベントに弱いジェシーは、自分の父親が不参加だからと渋って見せたけれど、僕が行きたそうだから付き合ってやると頷いた。でも、ピンと立った尻尾が嬉しげに揺れてるよね?ふふ。


 放課後、街の広場に集合した僕らは、ジャックを先頭に街の外れまで意気揚々と歩いて行った。同じ様に考える者も多いのか、老若男女がちらほら集まっていた。ブレーベルの街でも魔物討伐があったけれど、あの街ほどここは森との境界がハッキリしている訳じゃない。

僕はチラチラと身近に迫る森を気にしながらジャックに尋ねた。

「じゃっくは、おとーさんのトリデには行っちゃこと、ある?」


 ジャックは、目を輝かせて頷いた。

「あるよ!石造りの境界線が一部を覆っていてかっこいいよ。でもそこら辺は切り立った岩が自然の境界線を作っているんだ。ここよりは森も深くないから案外見晴らしが良いよ。」

僕はパーカスが以前話してくれた他国との争い事を思い浮かべた。高等学院の歴史の授業で習ったのは、周辺の国は戦闘的で、竜人の治める豊かな国であるこのガリバー国に隙あらば侵入してこようとするという話だった。


 そうは言っても、そう遠くないその砦に一度行ってみたいものだと、僕はジャックの話を食いつきながら聞いていた。その時、ザワザワと大勢の獣人達が急に森を割るように現れた。

狩りに行っていた街の人達の第一弾が戻って来たみたいだ。彼らは一様に疲れた顔をしながらも、成果を手にしたり、荷車に山と載せて満足そうに笑っていた。

猪魔物や、あまり見た事のない小型の魔物が沢山荷車に縛り付けてあった。領民が喜んでいる所を見ると、美味しい魔肉なんだろう。


 「いっぱいだねー。もちかちて、まにくまちゅりする?」

僕がジェシーとジャックに尋ねると、二人とも首を傾げた。二人も良く分からないみたいだ。魔物討伐とは違うのかもしれない。次々に通り過ぎる荷車を見送ると、ジャックが眉を顰めた。

「…騎士達が来ないね。隠者様も。普通は一緒に帰ってくるんだけど。」

そう言いながら森の入り口を見つめるので、僕とジェシーもつられて其方へ視線を移した。


 確かに森の入り口はもうひと気がなくなっていた。ジャックが丁度目の前を通り過ぎる街の男に尋ねた。

「すみません、あの、砦の騎士達や隠者様は一緒じゃないんですか?」

すると街の男はジャックや僕らの顔を見ると、にかっと笑って言った。

「ああ、何か見ておく場所があるからって、先に戻る様に言われたんだ。まぁ直ぐに戻ってくるだろうよ。彼らは強いからな、少なくとも俺たちが森の中に残るよりはよっぽど良いだろ?ははは。」

集まっていた野次馬達も、彼らと一緒に街に戻って行く後ろ姿を見つめながら僕らは顔を見合わせた。


 「どうする?テディ。もう少し待つかい?さっきのおじさんが言った様に、心配することは無いと思うんだけどね?今まで魔肉狩りで何か心配なことが起きたことなんて聞いたことがないし。ジェシーも無いだろう?」

僕はジャックにそう言われても、何だかその場を動けなかった。見ておく場所って何だろう。何か普段と違った事が起きたって事なんじゃ無いかな。僕の心臓は不安で急にドクドクと鳴り響き出した。

ジェシーが手をぎゅっと握って言った。


 「大丈夫だ。隠者様だぞ?この国でめちゃくちゃ強いんだからな?」

ジェシーの言う通り、心配する事なんて無いのかもしれない。でも僕の不安は拭えなかった。ジャックは僕の頭を撫でて呟いた。

「…ここに迎えに来なければ良かったね。テディにそんな顔をさせたかった訳じゃないのに。取り敢えずもう暗くなって来たから、一度家に戻ろう。ここにずっと居るわけにいかないんだから。ね?きっと直ぐに戻ってくるよ。」

ジャックに説得されて、僕は後ろ髪を引かれながらジェシーの家までジャックに送ってもらった。何となくジャックの顔も不安気なのは、きっと知り合いの騎士達も一緒だからなんだろう。


 結局ジェシーの家で夕食を食べさせて貰った後でも、パーカスが迎えに来ることはなかった。その頃にはジェシーの家の玄関口で大人達が何やら話をしているのが感じられたけれど、僕らはもう眠る時間だからと部屋に押し込まれてしまっていた。

やっぱり何かあったに違いない。あのパーカスが戻ってこないと言うことは相当な事があったという事だ。僕は暗闇の中で目を開けて、隣で眠るジェシーの規則正しい寝息を聞いていた。


 あの無敵のパーカスが戻ってこないと言うことは、何か突発的で身動き出来ない事が起きたに違いない。明日の朝になってもパーカスが戻らなかったら…。

僕は唇が震えるのを堪えて、これ以上嗚咽にならない様に大きく息を吸い込んだ。悪い方へと向かってしまう考えを振り払った。泣いてる場合じゃないぞ。

いつだってパーカスは僕を助けてくれた。今度は僕がそうする番なんだ。うん、やっぱり僕が迎えに行かなくっちゃ。パーカス待っててね。






















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