竜の国の人間様

コプラ

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限定成長de学院生活

パーカスside困惑の性教育

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 身体を大きくしたテディが、学校生活を満喫しているのを微笑ましく思っていたあの瞬間が懐かしい。あの穏やかな時間は、私の仕事部屋に慌てた様に現れたロバートが、開口一番とんでもない事を言い放つまでだった。

「パーカス殿、お願いです!テディに性教育をしてあげて下さい。このままでは、テディが…!」

そう言いながら、ロバートは困惑した表情で、先ほどテディと話した内容を簡単に私に話してくれた。あの可愛いテディの口から性交などと言う言葉が出た事は信じられないが、確かにテディはこの世界とは違う価値観を持った存在だ。擦り合わせをしておかないと、とんでもない問題を起こすかもしれない。


 「ロバート、良く私に話してくれたのう。それでテディにどこまで話したんじゃの?」

私がそう尋ねると、分かりやすく挙動不審になって、渋々自分とテディがどうも噂されている事、それをテディが不思議がっているから、おかしな事ではないと言ってしまった事を話してくれた。

そして成熟したら恋をしていいのかと尋ねられて、答えられなかったと暗い表情で呟いた。

「もし恋をしても良いと言ったら、テディはあのゲオルグのハーレムに入るつもりなんでしょうか。やっぱりテディは歳の近い方が良いのかもしれません。私はどうしたって年齢差があります。」


 私は落ち込むロバートを励ますのもおかしな気がして、取り敢えず話をしてくるとテディの部屋に向かった。扉を開けると、楽し気なテディが屈託のない笑顔を私に向けて挨拶をしてくれた。おまけにお茶を飲みに行きたいと頓着トンチャクなくねだった。

私はそれどころではないと、テディを押し留めてじっくり話をする事にした。しかしその前に聞いておかなければならない。見た感じとてもじゃ無いが成熟している様にはまるで見えないテディだが、人間の細かな情報が無いのだから、獣人や竜人の事情とはまた違うだろう。

テディ自身が成熟しているのかと言う問いかけに、テディは目を丸くして、同時に眉を顰めて考え込んだ。それから息を呑んで待っている私に、無邪気な様子で分からないと言った。


 私は安堵の息を吐くと、やれやれと思いながら教育を続けた。

「テディ、獣人や竜人は身体に見合った成長をする。だから高等学院に在籍する生徒たちが成熟していないとは言えんのう。あ奴らは、見かけ的にも子供とは言えんじゃろう?

テディは成人にこだわっている様じゃが、この世界では成人は一つの目安に過ぎぬ。じゃから成熟した者は、テディの言う様に恋をして情愛を交わしたり、恋せずに性愛を交わしたりするのじゃよ。

ただし、種族間の成熟度合いには差があるのでの、同意無いものは罪に問われることもあるじゃろう。」


 私の言葉にテディはそんなに人間の諸事情と変わらない、それよりは早熟傾向な面があるのかもしれないと言った。それから突然テディは私の顔を見上げて言った。

「あ!ずっと疑問に思っていた事があるんだけどね?人間の世界では男は妊娠したりしないんだ。でもダグラスの奥さんのシャルは妊娠したでしょ?この世界は男性も全員妊娠するの?妊娠するなら、性別なんて恋愛に関係ないってことだよね?」

そう眉を顰めてテディが答えを待っているので、私はゆっくりと頷いた。


 「理屈ではそうじゃの。だが元々機能が備わっているわけでは無いぞ。結婚という神殿での儀式の際に、妊娠希望の者に豊穣の種子を種付けするのじゃ。それは時間を掛けて身体に根付いて子供を育む機能を備える。

稀に身体に合わなくて上手くいかない場合もある様じゃが、大抵は神の恵みは根付くものじゃな。それは竜人も獣人も同じ事じゃ。そうか、人間は男性性は妊娠出来ないのじゃな。それは同性同士の結婚は無いという事なのかの?」


 そうテディにと問うと、テディは人間の世界は子供が出来なくても同性同士のカップルは居ると話した。だがやはり異性間カップルの方が圧倒的に多いとも。そう言いながらも、豊穣の種子については随分驚いている様子だった。人間の世界はある意味原始的なのかもしれぬな。

「ロバートが何を言ったかは分からぬが、寿命が長い事もあって竜人も獣人も、あまり年齢にこだわり無く恋をするのう。最も獣人はロバートぐらい、竜人はバルトくらいの青年期から、婚姻を視野に入れたお付き合いを考え始める事が多いじゃろうが。」

テディはふと顔をあげて、目を光らせて更に尋ねて来た。


 「ねぇ、パーカス。番いって概念は人間には全然無いんだ。運命の相手なんて言うことはあっても、それはまぁ確証のない言葉遊びの様なものだし。でも番いというのは確証のある運命の相手って感じがするよね。

それは竜人だけの事?それとも獣人にもそれがあるの?」


 テディに番のことを聞かれて、私は自分の愛しい亡き番の事を思い起こした。

「そう言えば長老も仰っていたのう。人間は番が分からぬから、この世界では混乱を巻き起こすと。番いは魂の片割れと言う言い方が近いかも知れん。目を合わせればその者が自分に必要な相手だと言うのは感じるものだ。

ただ、そんな存在に出会えるのは一部の者じゃろう。近年は特に必死になって番いを探し求める者もおらなくなった。私の番いは運良く縁あって出会う事が出来たが…。それも幸運だったのであろうな。」


 ベッドから立ち上がって、私の座っているのソファの手置きに腰を落とすと、テディはぎゅっと私を抱きしめて言った。

「パーカスが奥さんをとても愛していたのを感じるよ。悲しさと寂しさも。僕が側に居るから…。」

テディの慈しみを感じて、私は黙ってテディをそっと抱きしめた。この優しい性格の、温かな甘い身体は、これから多くの竜人や獣人を惹きつけるだろう。

「テディが早く大きくなってしまうのは随分寂しい事じゃのう。いつまでも小さいままならどんなに良いか。」


 テディは身体を起こして私の顔を見つめて笑った。

「心配しなくても、僕はまたあっという間にちびっこに戻るよ、パーカス。でもきっと、あれもこれも出来ないって随分ストレスが溜まるだろうな。でも、抱っこされるのは楽ちんで良いかもね?」

私はテディらしい言葉に思わず笑いながら、また疑問に思う事があったらいつでも尋ねる様にと言った。それから私達は談話室へお茶を飲みに降りて行った。


 ブレート殿とロバートが降りて来た私達の顔をこっそり覗っていた。ブレート殿もロバートから話を聞いたのだろう。無邪気にオヤツの焼き菓子を喜ぶテディを見つめながら、私達はこれからテディが巻き起こすあれこれを予想してため息をついた。

美味しそうにお茶を飲んで人心地ついたテディに、ブレート殿は尋ねた。

「テディは今日どんな授業をしたのかい?」

テディは首を傾げて、魔法学で実際に魔法を使った事を話した。それから私の方を向いて言った。


 「そうだ、魔法学の先生が、僕の魔法の先生がパーカスだって言ったら、是非一度僕の魔法学のこれからの教育について相談したいって仰ってたよ?ちょっと僕も調子に乗ってやり過ぎちゃったんだよ。へへ。

あ、それと僕の事はちっちゃなテディの親戚だって言っておいたから、そう言う事でよろしくね、おとーさん。」

テディの言い草に、私はやれやれとブレート殿を見て言った。

「テディと居ると、隠居生活で呑気に老いさらばえていけんの。」

私達は焼き菓子を口に含んで満足げな表情を浮かべるテディを見て、思わず笑い合った。本当にテディと居ると退屈とは縁遠いの。














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