竜の国の人間様

コプラ

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限定成長de学院生活

魔法学

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  魔法はイメージ力だと、一体誰が言ったんだろう。僕は白煙をあげる木片を見つめた。…やってしまった。楽しくなってきて、つい、パーカスと魔法の訓練をしていたいつもの調子で炎の出力を上げてしまった。

周囲のどよめきが、この結果が珍しいものである事を教えてくれる。魔法学の先生が満面の笑みで燃え盛る炎を消してから僕の側までやって来た。

「見学の君、魔法を習った事があるのですか?随分と小慣れていますね。他にはどんな魔法が出来ますか?」

すっかり興奮してグイグイ来る先生は、スラリとした鳥系の獣人の様だ。髪の先端が白い飾り羽根になっている。


 僕は目立たない様にしなくちゃいけなかったのだと思い出したものの、もうすっかり手遅れだった。こうなったら、僕は体格で負ける彼らに対抗して魔力で一目置かれるのも手かもしれない。

そうしたら僕を軽んじた相手から、僕にちょっかいをかけて虐められたりする事もないかもしれないな。別にいじめられてるわけでも無いけど。保険だ、保険。

そう思った僕が切り替えるのは早かった。僕は丁寧な物腰の魔法学の先生ににっこり微笑んで言った。


 「少し経験があります。他にはそうですね、水のコントロールが出来ます。」

そう言って、僕は少し先にある大きな樽の中に満たされた水を指差した。周囲の視線がその樽に波打っている水に移ったのが分かった。僕は少し暑くなっていた事もあって、その水を使おうと思った。

この異世界では魔力を使う際は決まったフレーズが必要なのだけど、僕は脳内妄想力に長けているらしく、イメージだけでそれを達成出来る。パーカスも僕がそうするのを初めて見た時はかなり驚いていた。


 『これは竜人のいい年をした、我々レベルのやり方ではないか。まだ子供ながらにそれが出来る人間というのは、やはりこの世界ではない場所の生まれよの。』

パーカスの言葉を思い出しながら、こうしてお披露目するのは間違っているかもしれないと思ったものの、今更周囲の期待する視線を感じて止めるほど、僕も大人では無かった。

スルスルと細い棒状の水柱を空に伸ばして、僕はその水柱を空中で弾けさせた。途端に霧状の飛沫が飛んで来て、涼しさが辺りを覆った。はー、涼しい。僕が満足して目を閉じていると、何だか周囲が静かだ。


 「…凄い。なんて言うかこの若さでそこまで自由にコントロール出来る君の様な生徒は、ほとんど見た事も聞いた事もないですね。これは先が楽しみです。君には特別授業をしましょう。学長に相談しなくてはなりませんね。

さぁ、皆さんも彼の様になりたければ、地道な訓練を続けなければいけませんよ。火の神サラマンよ、灯火を分け与えん!皆一緒に唱和!」

皆のさっきよりも大きな唱和が、訓練場に響き渡った。それから順番に壁側に置いた木片へ各々手を突き出した。大抵はパチっと火花が上がる程度だけど、明らかに火がついて木片が燻っている生徒も居る。


 こうして眺めていると、ゴウっと炎を上げさせたのは流石にやり過ぎだった事が分かる。あまりにも燃えたので、先生が慌てて水の魔力をぶつけて消したのだ。

さすが魔法学の先生だけあって、素晴らしい魔力の使い手だった。僕は小さくパチっと火花を出しながら、少し面積のある木片に指先を向けて集中した。

さっきの水の様に火力だけじゃなくて、もっとコントロールしたい。けれど、強いエネルギーの塊の様な火は細く長く木片を焦がすのは難しかった。


 結局もう一度燃え盛る木片を見つめながら、僕は慌てて先生を探した。急いでやって来た先生があっという間に鎮火させると、苦笑して僕に言った。

「見学生は炎と相性が良いのでしょう。相性が良いと却って力が強くなって、コントロールは得てして難しくなるものです。さっき見てましたが、細くゆっくり魔力を出すのは良い訓練方法ですね。

あなたの先生が良いのでしょうね。どなたに習っているのかお聞きしても?」


 先生に尋ねられて、僕は一瞬言って良いのかどうなのか迷ったけれど、隠すのもおかしな感じだと思って正直に言った。

「パーカス先生です。」

パーカスを先生呼びするのは面白過ぎた。魔法学の先生は少し首を傾げてパーカスの名前を呟いていたけれど、ハッとして僕をじっと見つめた。

「もしかして、君は竜人のパーカス殿に魔法を習っているのですか?成る程納得しました。…しかしあの方は最近黒髪の幼な子を連れ歩いて居ると…。しかし君は幼な子とは言えないですね。」


 僕はこの街でパーカスは有名人だった事を思い出した。だから慌てて先生に言った。

「あの、僕はあのちっちゃな子の親戚なんです。」

すると先生が微笑んだ。

「ああ、納得しました。道理で珍しい黒髪が目立つ訳ですね。今度パーカス殿と君の今後の指導方法について話が出来ると良いのですが。さあ、もう少し時間があります。頑張ってコントロールに励んでください。」


 僕は皆の指導に戻る白羽根を揺らして歩き去る先生の後ろ姿を見つめながら、またしても自分の立場を複雑にしてしまったと反省した。

帰ったら、パーカスと僕の嘘の家系図を練らなくてはボロが出そうだ。そんな事を考えて顔を顰めて居ると、シンディが汗を垂らしながら僕の側にやって来て、肩を組んで言った。

「ディー、凄いじゃない。さすが竜人だね。実はディーが竜人だとはあんまり思えなかったんだけど、ほら、どう考えても竜人は体格がゲオルグ並みでしょ。でも潜在能力はやっぱり竜人以上だったね。

今度コツを教えてよ。私も王国騎士を目指してるからさ、魔力増強は必至なのさぁ。」


 シンディ、汗臭いよ…。でもそんな事言えないよね。僕は結局男も女も、汗かけば汗臭いのは一緒なんだと悟りを開いた。僕だってきっと汗ばんで臭いかもしれないし。ああ、考えたら気になって来た。

丁度その時ゲオルグもやって来て、僕らを見て眉を顰めた。

「シンディ、ディーが潰れちまうだろ。お前の方が体重あるんだから。もう授業も終わりだ。汗くらい流してこいよ。」

するとシンディは僕から離れて、肩をすくめてボヤきながら歩き出した。


 「まったく、獅子族の坊ちゃんは見かけによらず潔癖で恐れ入るわ。じゃあ後でね、ディー。」

そう言いながら更衣室へと向かったシンディを見送りながら、僕はゲオルグに手を差し出した。ゲオルグは一瞬の間の後、僕の手を繋いで男子更衣室へと歩き出した。何だろ。何か変だったかな。

魔法学は汚れると聞いて、着替えを持って来たんだ。皆は制服だけど、流石に僕はお試し期間なので私服だ。おまけにローズ姉様?に作ってもらった服は、なんて言うかヒラついてる…。


 制服を着ているゲオルグ達を横目で見ながら、僕はいかにもなブラウスを着ていた。柔らかな生地の袖はふんわりしてるし、首元はヒラヒラして広めに開いている。流石にゲオルグもギョッとしている。

「これ、笑っちゃうでしょ?親戚が王都で作ってくれたんだ。絶対に似合うって言ってたけど、流石にこれは無いかなって思って。ヒラヒラし過ぎて落ち着かないよ。」

するとゲオルグが咳払いして眉を顰めた。


 「その服が問題じゃないんだ。似合いすぎるのが問題かもしれないな。皆、ディーが気になって授業にならないかもしれないだろう?」

似合いすぎるのと、授業と何の関係があるのか全然分からなかったけれど、そこは追及してもゲオルグが教えてくれそうもなかった。僕は鏡の中の線の細い、マッチョからどんどん遠ざかっている自分の姿に溜め息をついて呟いた。

「ああ、せめてゲオルグくらい筋肉があったら良かった。そしたら、ジゴロみたいに見えたかもしれないのに。」

ゲオルグが苦笑してジゴロってなんだって聞くから、僕は誘惑する男だよって答えたら、それならディーはジゴロじゃないかって言われたんだけど、全然違うからね。ジゴロは男の色気ムンムンなんだから!もう!




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