竜の国の人間様

コプラ

文字の大きさ
上 下
20 / 206
異端者

魔素を貯める

しおりを挟む
 僕は食卓に並ぶ食べ物をじっと見つめていた。獣人で魔法が使える者は、特異体質で魔素を貯める事が出来る者だとパーカスは話していた。僕が魔法を光として感じる事が以前より出来る様になったのは、魔素が貯まったせいなんじゃないのかと仮説を立てたんだ。

この世界に居ないかもしれない人間は元々魔物とは無縁だ。それならば、この暴論も一応検証してみる必要があると思った。中々食べ始めようとしない僕を心配気に見つめるパーカスに、僕は尋ねた。


 「ぱーかちゅ、こえも、まそいっぱい?」

僕は魔鳥の肉の側にある芋の様なものを指差してみた。するとパーカスは眉を上げて僕の言わんとする事を察知してくれた様だった。

「何だ、テディは魔素が含まれる食事が知りたいのじゃな?そうじゃのう、肉類はほぼ魔物の物じゃから魔素は入っとるの。後は…、テディの好きなスイスイや、これなんぞも入っとるぞ。」

そう言って指差したのは、僕の常用ドリンクのミルだった。僕はしばし固まってしまった。スイスイがまるで毒キノコの見かけのラッピングをした果物だとすれば、果たしてミルはどんな毒々しい物から発生した飲み物なんだろう。

ほとんどミルクと遜色ないこのドリンクの本来の姿を知るべきなのか、知らずに居た方が幸せなのか、僕はミルを睨みつけて考え込んでいた。


 そんな僕にパーカスは親切にも提案してくれた。

「何じゃ、ミルの事が知りたいのかの?ではダグラスの農園へ見学に行こうかのう。久しく街にも出掛けていないから、ついでに必要な物を買いに行こうかの。」

僕はミルの正体は知りたくない気がしたけれど、やり手ダグラスの農園へは行ってみたかった。

「うん。だぐらちゅの、のーえん、いきゅ!」


 行くとなれば、僕はなるべく魔素の入っている肉や、毒々しい色合いの果物を口に押し込んだ。見かけはアレだが、味は悪くない。最近よく登場する派手な紫色のナスの様な見かけの果物は、中が血の様に赤くてホラーっぽいけれどほんのり甘くてジューシーだ。

僕は手を真っ赤にしながら、スプラッターな皿を眺めて顔を顰めた。この分だと僕の顔もまるで食肉鬼の様になっているだろう。パーカスは大人なので上手に食べていたけれど、それでも唇は真っ赤に染まっていた。‥ちょっと吸血鬼っぽいな。

僕はうむを言わさずパーカスに抱き抱えられると、洗面所へと連れて行かれて、タンクに貯まった水を流しながら顔や手を洗われた。流れる水が血の様で怖い。


 「今がシーズンとは言え、この果実はどうも汚れ易くていけない。まさかテディに食べさせると、ここまで大変になるとは思わなかったのう。まるで魔王の子供じゃ。」

流石にパーカスも僕の赤く濡れた顔を見て、思うところがあったみたいだ。鏡を見たかったけれど、パーカスの背の高さに合わせているので僕には見る事が出来ない。

「ぱーかちゅ、みちぇてぇ!」

僕が高い場所の鏡を指差すと、パーカスが笑いながら抱き上げて鏡に映してくれた。洗ったものの、唇の周りが真っ赤に染まっている。僕が面白くなってウクククと笑っていると、パーカスも楽し気に笑った。


 「テディと居ると、退屈せぬな。‥私には娘が一人おるが、結婚して既に300年じゃ。成人して直ぐに結婚したからもう400歳近いのかのう。あの子の小さな頃は騎士団の騎士として忙しく、あまりゆっくりしてやれなんだ。特に人型になってからの子供時代はたった30年しかないと言うのに、あの子も学校生活で忙しく、気づいた時にはすっかり大きな子供になっておったわい。

竜生は長いと言うのに、ほんの80年の成人までの間をもっと側で見守るべきだったのかもしれんな。」

そう、寂し気につぶやくパーカスに僕は黙って首に抱きついた。

「…らいじょうぶ。ぱーかちゅ、かこいいくおいりゅう。じまんちゅる、ねー?」


 パーカスは僕を抱き抱えながら、ゆっくり談話室へと向かって歩き出した。

「そうか、カッコいいか。そう言えば幼い娘にそんな事を言われた気がしたの。まぁ随分と大昔の事だが。こうしてテディと過ごしていると、忘れていた昔の思い出が時々蘇ってくるのじゃよ。テディ、ありがとう。」

そう言ってパーカスは僕の頬にキスすると、そっと床に下ろした。僕は手が乾いているのを確認すると、パーカスを見上げて言った。

「ぱーかちゅ、えほん、みちぇて?」


 パーカスに朝食の片付けをして出掛ける用意が出来るまで見ても良いと言われたので、僕はソファの上に絵本を広げて眺めた。実は僕はこの絵本を今では全部読める様になっていた。

絵本と言っても、まるで立派な画集の様なこの本は、僕の大事な必読書になっていた。綺麗な挿絵は眺めるだけでこの世界の文化が分かって興味深かったし、絵本というには文字も多くて、知らない言葉も多かった。ちょっとした児童書なのではないだろうか。

僕がゆっくり単語に分けて音読していると、パーカスは時々こちらを見てクスクス笑う。間違っていると大きな声で言い直してくれるので、まるで僕たちは呼びかけの練習をしているみたいだ。


 そろそろ出掛ける時間かと絵本を閉じようとした時、最後のページに竜のマークの様なものが印されているのが目に止まった。それは竜の紋章の様なもので、その竜自体は青かった。

青い竜と言えば、お菓子の定期便の人だ。バルトという名前の騎士を思い出した僕は、あの人はどうしてあんな夜中にここにやって来たのだろうと、思いを巡らせた。

パーカスに呼ばれて僕は絵本を閉じると、僕専用の棚に片付けた。少しずつ自分の物が増えていくのはいい気分だ。


 庭に出るとダダ鳥のバッシュが柵の側にいた。最近姿を見せないと思っていたのにどういうカラクリなんだろう。

「ぱーかちゅ、ばっちゅ、いつきちゃの?」

啄まれない様に用心深くバッシュと距離を取った僕は、手綱を付けるパーカスに尋ねた。あのギョロ目はどうしても信用できない。だって僕をじっと追いかけてくるんだ。

「ああ、バッシュは私の竜人の力で呼び寄せているのじゃよ。バッシュのこの首には封魔印がされていて、山を抜けて来る時も魔物避けをされているから一頭で来れるのじゃ。」

 
 布から進化した皮製の抱っこ紐の様なものでパーカスに括り付けられた僕は、手綱を握るパーカスの手に鱗が浮き出ているのが見えた。

「ぱーかちゅ、おてて。」

僕が指差すと、パーカスは僕の目の前に手首をよく見える様に近づけた。

「竜人の力を使うとこうして竜化するのじゃよ。要は竜の支配下の元、指示に従わせるという感じかのう。テディには難しいかの?フォホホ。」

走り出したバッシュに揺さぶられながら、僕は竜人の力について考えていたけれど、襲ってくる睡魔にはやっぱり勝てなかった。






★お知らせ★

『AIで人気の僕は嘘つきで淫ら』更新しました♡
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。

重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。 少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である! 番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。 そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。 離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。 翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...