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二度目の砦生活

ジュリアンの焦燥

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私は幕内をぐるぐると歩き回っていた。

後から考えると、この時の私は捕らえられた猛獣さながらだったろう。しかし他人にどう見られるかなどと気にする暇も無いほどに、私は焦れていた。

シンが敵国、夜の国に囚われたのは間違いない様だった。敵の陣に潜ませているこちらの密偵が最近の不穏な動きを伝えて来ていた。一年前の戦いの後、戦神と呼ばれる第二王子が砦に来た事。私達が王都へ出向いた際に、王子の命令で参謀がシンの拉致を図った事。

私はあの時の心臓が凍りつく恐怖を思い出した。
嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、シンが今第二王子の手中に居ることを認めない訳にいかなくなった。


「ジュリアン、夜の国の砦には戦上手な騎士団長のゲオ、蛇の様に残虐で有名な参謀ケブラが居る。その上、第二王子まで出張って来るとは…。我々には手強いどころでは無いが、シン君の奪還を諦めている訳では無い。それだけは間違うな。」

黒騎士団長は、私を真っ直ぐに見つめながら言った。
私は深く頷きながら騎士の礼を取った。

「団長、私に彼方の砦に向かわせて下さい。まだシンが消えてから時間は経っておりません。今なら…。」

我々を遮る声が聞こえたのはその時だった。


「ジュリアン、慌てるな。無闇に突き進んで勝算があるのか?お前まで拿捕されては敵わない。私に考えがある。
丁度ここを長い間留守にしてた際に、王都の魔法士達と開発した魔法陣がもしかしたら上手く使えるかもしれない。さっきまで準備していたんだ。丁度いい。皆で見てくれないか。」

私が団長に一人で行かせてくれと願い出ていた時に幕内へ入ってきた副団長が、息を切らせて言った。
幕内に居る我々は副団長の手にある魔法陣の素に目をやった。

「ローディ、例の魔法陣が出来上がったのか?」

団長が驚いた様に身を乗り出した。


「はい。というか、間に合わせたというか。これが上手くいけば良いのですが、試す時間は有りませんからね。
説明する時間も惜しい。何度も言わないからよく聞け、ジュリアン。

この魔法陣を、あのシン君が消えた場所へ設置する。あそこにはまだ魔法の気配があるから、この追跡型魔法陣でシン君の所まで自動的に連れて行ってくれるだろう。…ただし、完全に行けるのは行きだけだ。帰りの魔法陣はまだ未完成なんだ。

…もしもシン君が怪我でもしていたら、連れ帰るのは困難を極めるだろう。

我々はジュリアンが出立してから、砦の境界付近に待機する。何とか近辺まで帰って来られれば、我々も多少は無理を推し通す事が出来よう。一番はフーガに乗って帰ってくる事だが。フーガが何処に居るかはこちらでも把握していないからな…。

優先すべきは、お前とシン君の帰還だ。剣豪のお前でも困難を極めるだろう。出来そうか?ジュリアン。」

ローディは私を見つめて説明した。私は学生時代からの悪友のもう一人を、ありがたい思いで見つめて手をガッチリと握りあった。


「ジュリアン、お前は第二王子の事をどれだけ知っている?」

急に団長が指を額に当てて、考え考え尋ねて来た。
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