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二度目の砦生活
消えたシン
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天幕の外が騒がしく感じたのは戦略の詰めも終わる頃だった。
私の名が呼ばれた気がして目をあげると、天幕の入り口の護衛が緊張した顔でこちらに合図を送っていた。
直ぐに散会して表に出ると、護衛と兵士長が顔を強張らせて待ち構えていた。
周囲の兵士達も何故か動揺している様で、皆私と目を合わせようとしない。
私はいつもなら側に付き従ってくるシンを無意識に探したが、現れない。まぁ、そんな事もあるかと思いつつも、兵士長の表情を見ると、悪いニュースを持ってきたのは間違いなかった。
「申せ。」
兵士長は私の前に跪くと声音に緊張を滲ませて言った。
「フォーカス様にご報告致します。先程、馬場より報告があり、フーガと数頭が消滅。フーガを追っていたシン殿も行方不明との事です。」
私は大きく息を吸い込み、後ろに続いていた数人の幹部も息を呑むのが聞こえた。
「馬場へ向かいながら状況を聞く。ローディ、共に来て状況の確認をしてくれないか!」
私とローディ、兵士長、他数人が急ぎ馬場へ向かった。
話はこうだった。馬丁が馬場に放していた馬達が急に暴れ出したので諌めていたところ、フーガを呼ぶ声がしたと。
見たところ、フーガと数頭が柵を抜けて森の方へ向かって姿が消えかかっていた。
そしてフーガを追いかけて行ったシンがフーガ達の消えた辺りで、同様に消えたところを数人が目撃したという事だった。
魔法士であるローディと私は顔を見合わせて頷き合った。消えるのは何かしらの魔法が関係したのでは無いかと。
魔法士の居る現在、彼の把握していない魔法は使えないようにしているので、良い事で無いのは明らかだった。
私は以前シンが目の前で馬上から崩れ落ちたあの時以上の悪い予感に、胸が締め付けられて息苦しいほどだった。
「ジュリアン、まずは現場を見てからだ。無闇に動揺はするな。」
前を向いて急ぐローディに諌められて、私は悪態をつくと兵士長に聞いた。
「なぜシンは馬場に行ったのだ。会議の間はいつも天幕外に待機しているのだが。」
兵士長は首を振って言った。
「私にも分かりません。しかし馬場に向かうシンを見てる兵士は居るでしょうから、馬場に向かう様に命じます。」
我々が馬場に到着した時には、何人かのシンを目撃した兵士達が待機していた。
私たちは馬場の外の、シンが消えた現場に向かいながら話を聞いた。シンと会話したという弓使いのカークが言った。
「シン殿は何か悪い予感がすると気になっている様子でした。何か変わったことが無いかと私に聞いたほどです。」
私たちはシンが消えた現場を思わず黙って見つめた。悪い予感、それはまさにこの事そのものだったのだ。
私の名が呼ばれた気がして目をあげると、天幕の入り口の護衛が緊張した顔でこちらに合図を送っていた。
直ぐに散会して表に出ると、護衛と兵士長が顔を強張らせて待ち構えていた。
周囲の兵士達も何故か動揺している様で、皆私と目を合わせようとしない。
私はいつもなら側に付き従ってくるシンを無意識に探したが、現れない。まぁ、そんな事もあるかと思いつつも、兵士長の表情を見ると、悪いニュースを持ってきたのは間違いなかった。
「申せ。」
兵士長は私の前に跪くと声音に緊張を滲ませて言った。
「フォーカス様にご報告致します。先程、馬場より報告があり、フーガと数頭が消滅。フーガを追っていたシン殿も行方不明との事です。」
私は大きく息を吸い込み、後ろに続いていた数人の幹部も息を呑むのが聞こえた。
「馬場へ向かいながら状況を聞く。ローディ、共に来て状況の確認をしてくれないか!」
私とローディ、兵士長、他数人が急ぎ馬場へ向かった。
話はこうだった。馬丁が馬場に放していた馬達が急に暴れ出したので諌めていたところ、フーガを呼ぶ声がしたと。
見たところ、フーガと数頭が柵を抜けて森の方へ向かって姿が消えかかっていた。
そしてフーガを追いかけて行ったシンがフーガ達の消えた辺りで、同様に消えたところを数人が目撃したという事だった。
魔法士であるローディと私は顔を見合わせて頷き合った。消えるのは何かしらの魔法が関係したのでは無いかと。
魔法士の居る現在、彼の把握していない魔法は使えないようにしているので、良い事で無いのは明らかだった。
私は以前シンが目の前で馬上から崩れ落ちたあの時以上の悪い予感に、胸が締め付けられて息苦しいほどだった。
「ジュリアン、まずは現場を見てからだ。無闇に動揺はするな。」
前を向いて急ぐローディに諌められて、私は悪態をつくと兵士長に聞いた。
「なぜシンは馬場に行ったのだ。会議の間はいつも天幕外に待機しているのだが。」
兵士長は首を振って言った。
「私にも分かりません。しかし馬場に向かうシンを見てる兵士は居るでしょうから、馬場に向かう様に命じます。」
我々が馬場に到着した時には、何人かのシンを目撃した兵士達が待機していた。
私たちは馬場の外の、シンが消えた現場に向かいながら話を聞いた。シンと会話したという弓使いのカークが言った。
「シン殿は何か悪い予感がすると気になっている様子でした。何か変わったことが無いかと私に聞いたほどです。」
私たちはシンが消えた現場を思わず黙って見つめた。悪い予感、それはまさにこの事そのものだったのだ。
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