上 下
19 / 25

1周年記念アップデート 2

しおりを挟む

「確か、君も。 ULTIMATEアルティメットSKILLスキルONLINEオンラインをプレイしていたね?」

一口、紅茶を口に含んだ後に、孝蔵こうぞう先生がゲームの名前を出してくる。

「はい。 娘さんと同じ。 ギルドと呼ばれる組合みたいなものに入って居ます。」

ケイに視線を向けると小さく頷く。

「実は、菩提山ぼだいやまさんも、そのゲームをプレイしていてね。」

そう言って、孝蔵こうぞう先生が菩提山ぼだいやまさんの方に視線を向ける。

「初めまして。 菩提山ぼだいやま 来栖くるすと言います。

アルティメット・スキル・オンラインでは、フィーアサーバーでプレイしています。」

立ち上がって、軽くお辞儀をしながら言う。

《うん・・・。 意味が分からん・・・。》

仕事の話ならともかく。 なんで、ゲームの話で孝蔵こうぞう先生が俺を呼び出したのだろう・・・。

「意味が分からないと言う顔をしているな。」

どうやら、表情に出ていたらしい。

孝蔵こうぞう先生に指摘をされた。

「正直。 真意を掴みかねています。」

「なに、難しい話ではない。」

そう言って、俺たちの前に、包みを開けて、俺たちの前にプリンを置く孝蔵こうぞう先生。

「以前、君に。 だん君の事をお願いしただろう。

あれと、同じことを、彼女にも、お願いしたいのさ。」

そう言われて、漸く俺が先生の言っている意味を理解する。

以前、SOXソード・オンライン・クロスで遊んでいた時期。

諸星もろぼし だんさんと言われる男性を紹介された。

だんさんは、仕事での怪我が元で、全身不随の障害を患ってしまい、桂木病院で診る事に為った患者さんだ。

医学万能と言われる、科学の発展した今の時代でも。

1度、そういう症状に為ってしまうと。

なかなか、元の状態までの復帰は難しい。

部位欠損や、神経破損などの症状も、時間を掛ければ再生技術で、元の状態に戻す事も可能だが。

無い物や、動かないものを長期間にも渡り動かさないでいると。

脳は覚えていても、身体から動かすと言う事柄が忘れられていく。

更に、時間を掛ければ掛ける程に、脳からも動かし方を忘れてしまう事も在る。

殆どの人は、他人が動かすと言う行動を見ていれば、脳が忘れる事は無いのだが。

障害を持ってしまうと。 多くの人は、他人との接点を持ちたがらないことが多い。

他人の行動を見てもおらず、自分でも動かせないとなると、自然と脳自体の記憶からも【動かす】と言う事柄が薄れていく。

たしか、孝蔵こうぞう先生の話では。

「動かし方を忘れるのではなく。 動かそうと言う信号を、脳が出せなくなる。」

だったかな?

だが、数十年以上も前。

精神電脳潜航フルダイブシステム式のゲームをプレイしていた、足の不自由なプレイヤーが、現実世界リアルでも足が動くようになったとの報告が広まった。

それも、世界中からの報告で、数百人単位での情報だった。

障害の出る前と同じようにとはいかないものの。

それでも、動かせないのと、動かせると言うので大きな差が出てくる。

元々は、この精神電脳潜航フルダイブシステム式のゲームと言う物は。

身体の不自由な人たちの為に造られたのが発単だ。

身体が不自由な人が、ストレスを溜め込まない様にと、旅行や趣味のソフトが大量に出回った。

そこから、医療機関と、ゲーム開発側の思惑が重なり、今のような形となった。

仮想現実の世界で、動かない筈の部位が動かせる。

それを、脳が勘違いして、現実世界リアルでも動かせるようになった。

簡略すると、こう言う事だろう。

と、俺は思う・・・。

「彼女の場合は、動かなくなった右手の指が、僅かずつだが動かせるようになっている。」

「それは、おめでとうございます。」

菩提山ぼだいやまさんに向かって、にっこりと微笑んで見せる。

「有り難う御座います。」

彼女も、微笑みながら礼を言う。

「そこで、君に。 彼女の事を見て貰いたいのだが。」

孝蔵こうぞう先生の言う見ると言う意味は、彼女の事を診断すると言う意味ではなく。
ゲームの中での、彼女の行動を見て欲しいという事だ。

彼女の行動を見て、彼女の担当の医師にゲーム内での行動を、出来るだけ細かく伝える事で、現実世界《リアル》でのリハビリのプログラムを立てる。

これは、自分自身では気が付きにくい事でも、他人からの第三者視点で見ての情報提供と言う意味合いを含めている。

それも、出来るだけ自分から接点のない人物の方が好ましい。

旧知の仲だと、癖とかで済ませがちに為るからだ。

「分かりました。 でも、僕は男なので。 出来れば、ケイさんにもサポートをして貰えると助かります。」


俺の言葉に、孝蔵こうぞう先生が、ケイの方を向く。

菩提山ぼだいやまさんが、ご迷惑でなければ、私は構いません。」

菩提山ぼだいやまさんに、一礼しながらケイが言う。


「こちらこそ、ご迷惑でなければ、宜しくお願い致します。」

ケイに向かって、菩提山ぼだいやまさんが頭を下げてお願いする。

3人で、アドレスを交換して、簡単な自己紹介を済ませて病院から出ようとする。

1階の出口付近で、ふと目に入ったスペースに近寄っていく。

そのスペースには、沢山の犬や猫が、入院患者さん達に触られていた。

桂木総合病院では、アニマルセラピーを取り入れており、入院患者の人たちに安らぎを与えている。

ドアを開けて、部屋の中央付近に来ると、おもむろに腰を下ろして胡坐を掻く。

すると、今まで大人しく患者たちに触れられていた動物たちが、一斉に患者たちの元を離れて、胡坐を掻いて座る俺の元に、これでもかっ! っと言わんばかりに集まって来る。

犬(わんこ)達は俺の膝の上に乗ったり、膝の上に乗れない犬(わんこ)は、俺の周りを囲んで尻尾が取れそうな勢いでブンブンと振り回す。

猫(にゃんこ)達は、膝の上に乗る犬(わんこ)の上に乗ったり、俺の肩の上に乗ったり、小さい奴は頭の上にまで乗かってきて、大きく喉を鳴らしながら身体を摺り寄せる。

大人の人たちは、その様子を微笑みを浮かべながら見て、子供たちは羨ましそうな表情で俺を見る。

「ほら。 お前ら、他の人たちが困ってるぞ。」

群がる動物たちの頭を、軽く一撫で二撫ですると。

まるで、俺の言葉を理解しているかのように、俺に群がっていた動物たちが、羨ましそうに見ている子供たちの元に行く。

現実世界リアル動物使いテイマーですか・・・。」

後ろから聞こえた声に振り返れば、菩提山ぼだいやまさんと、ケイと2人並んで俺を見ていた。

「昔っから、人間の女性以外には、やたらと懐かれましてね。 なっ、ねこ。」

肩の上に乗る、黒猫の喉を撫でながら言う。

すると、肩の上のねこも「にゃぁあ。」っと一声鳴いて、気持ち良さげに喉を鳴らす。

「その子の名前は何て言うんですか?」

菩提山ぼだいやまさんが尋ねてくる。

「ねこだよ。」

「ねこです。」

俺と、ケイが同時に答える。

「えっと、猫は見れば分かりますので、名前は?」

「だから、ねこだって。」

再び俺が答える。

菩提山ぼだいやまさんが、困ったような表情を浮かべる。

「ねこ、おいで。」

見かねたケイが、ねこを呼ぶ。

すると、俺の肩から、ケイの足元に向かい身体をこすりつける。

「もしかして・・・ねこって名前?」

キョトンとしながら、菩提山ぼだいやまさんが聞いてくるので。

「そうだよ。 黒猫のねこ。」

俺がニッコリと笑みを浮かべて答える。


「猫に、ねこって名前を付けるって。 どういうセンスをしてるんですか・・・。」

呆れた表情を浮かべながら言う菩提山ぼだいやまさん。

とにかく、この黒猫。

名前を付ける時に、ねこと言う呼び方以外に、全然反応を示さなかったのだから仕方がない。

こればかりは、動物の世話を担当している、担当者の人たちも苦笑をしていた。

「はい。」

ケイが、菩提山ぼだいやまさんの前に、ねこを抱えて近寄ると、ねこを前に差し出す。

「良いの?」

「どうぞ。」

自由に動く左の腕で、ねこの身体をうけとると、ねこが抱かれた体制から首元に顔を持っていく。

「ふぁっ!」

菩提山ぼだいやまさんが、短いが艶っぽい声をあげる。

ねこの得意技。 耳たぶ甘噛み。

しかも、これに加えて、ねこの毛はとてつもなく触り心地が良いっ!」

どれくらい気持ちが良いかと言えば、それこそウン百万もする、高級な毛皮のコートを触ったと時と同じくらいに気持ちが良いっ!

「んっ!」

またもや、菩提山ぼだいやまさんの声があがる。

今度は甘噛みではなく、前足の肉球で軽く触れられたらしい。

最高の触り心地に、どこで覚えたのか本能なのか。

ねこの甘え方はヤバイの一言だ。


* 数分後 *


黒猫ねこのスペシャルテクニックで、骨抜きにされた被害者が1名追加・・・。

菩提山ぼだいやまさんと、ケイの2人と、明日ログインした時の場所を決めて別れを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

神様に貰ったスキルで世界を救う? ~8割方プライベートで使ってごめんなさい~

三太丸太
ファンタジー
多種族が平和に暮らす世界<ミリテリア>。 ある日、神様から人々に『別世界<フォーステリア>の魔物がミリテリアを侵略しようとしている』と啓示があった。 動揺する人々に、神様は剣術や魔法などのスキルを与えていった。 かつての神話の様に、魔物に対抗する手段として。 中でも主人公ヴィトは、見た魔法やスキルをそのまま使える“模倣(コピー)”と、イメージで魔法が作り出せる”魔法創造(クリエイトマジック)“というスキルを授かった。 そのスキルで人々を、世界を守ってほしいという言葉と共に。 同様に力を授かった仲間と共に、ミリテリアを守るため奮闘する日々が始まる。 『何となく』で魔法を作り出し、たまに自分の魔法で死にかけるヴィト。 『あ、あれいいな』で人の技を完璧にパクるヴィト。 神様から授かった力を、悪戯に使うヴィト。 こっそり快適生活の為にも使うヴィト。 魔物討伐も大事だけれど、やっぱり生活も大事だもの。 『便利な力は使わないと勿体ないよね! 練習にもなるし!』 徐々に開き直りながらも、来るべき日に備えてゆく。 そんなヴィトとゆかいな仲間たちが織成す物語。 ★基本的に進行はゆっくりですごめんなさい(´・ω・`) ★どうしたら読んでもらえるかなと実験的にタイトルや校正を変えたり、加筆修正したりして投稿してみています。 ★内容は同じです!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

処理中です...