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イレギュラー

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「それじゃ、いつもの陣形で。」

スタンの言葉に、全員が声を発する事なく頷いて返す。


この世界に来て6カ月。

いま現在、アキトたちは魔獣討伐の為に、ホーデン王国の王都から少し離れた所に位置する所に来ている。

本来ならば、魔獣討伐や魔物討伐は、王国騎士団の仕事なのだが、そこはソニアが勇者育成の為にと、王様と話を着けている。

魔獣討伐も、今回が初めての事ではない。

最初は簡単な物から、徐々に討伐する魔獣のランクを上げて行って。

今では、中型の魔獣なら、僕一人でも時間を掛ければ討伐できるようには為って居る。


今回の討伐対象の魔獣は、中型でも大型の部類に近い魔獣【炎亀フレイムタートル】。

ヤザン地帯でも、特に危険な魔獣で肉食。

大きさは標準だと、体高2メートル前後。 体長4メートル前後。 幅3メートル前後。

黒くて固い甲羅は、通常の武器では傷もつけられない。

甲羅以外の外皮も固く、普通の武器だと掠り傷を付けるのがやっとだとか。

しかも、炎亀フレイムタートルの名の示すとおりに。

この魔獣の厄介な所は、口から炎を吐き出す。

その魔獣が目の前に居る。

今は、岩に僕たちが潜んでいるので気づいていないけど。

この炎亀フレイムタートル、情報の平均値を遥かに上回っていた。

明らかに、標準の炎亀フレイムタートルの倍近くは在る。


岩陰から軽装鎧ライトメイルに身を包み、盾と短槍を構えて勢い良くアレスが飛び出す。

「うおっおおおぉぉぉぉ!」

と、同時に。 炎亀フレイムタートルの正面でアレスが吠える。

アレスのスキル咆哮ハウリングボイス

敵の動きを、一瞬だが硬直させる事が出来る。 ランクの低い魔獣程度なら、このスキルだけで気絶させる事が出来る。

その一瞬の硬直の隙をついて、「縛れ光鎖ライトチェーン。」

スタンの唱えた魔法が光の鎖となって、炎亀フレイムタートルの尻尾に巻き付いて地面に固定させる。

纏え雷ライトニング。」

セリアのスキルで、雷を纏った矢が炎亀フレイムタートルの首に突き刺さる。

矢に纏った雷が、炎亀フレイムタートルの体中に伝わり。

「グオゥオオォォォォっ!」

怒りを孕み苦しそうに声をあげる炎亀フレイムタートル

「アキトっ!」

衝撃波ソニックウェーブ!」

手に持つ剣を、上段から大きく炎亀フレイムタートルに向かって振り下ろす。

剣から放たれた、目に見えない斬撃の波が炎亀フレイムタートルの首に直撃するも、首の切断には至らなかった。

そして、炎亀フレイムタートルは、こっちに向かって顔を向けると、大きく口を開けて炎を吐き出した。

守れ氷盾アイスシールド!」

イライザは、炎亀フレイムタートルが口を大きく開けた瞬間に、炎亀フレイムタートルの吐き出す炎が広がり切るの防ぐ様に氷の壁を作り出す。

氷と炎がぶつかり合い、炎亀フレイムタートルの炎と氷の壁が消える。

普通なら、氷が蒸発して水蒸気になったりするのだけども、魔法と魔法が衝突した場合は物理現象は無視される。

物理現象を無視して、結果だけが残される。 それが魔法だ。

一閃イッセン!」

アキトの、視認するのも難しい剣戟が炎亀フレイムタートルの首を切り落とす。

ズンッ! っと。 大きな音を出しながら、炎亀フレイムタートルの首が地面に落ちる。

続いて、首をなくした胴体がズドンッ!っと地面に落ちた。

前脚と後ろ脚が、いまだにピクピクと小刻みに動いているのが生々しい。

「他に敵はっ!」

倒れた炎亀フレイムタートルを警戒しながらアレスが問う。

その横では、セリア、スタン、アキトの3人が、ソニアとイライザを守る様な陣形で周囲に視線を這わす。

索敵サーチ。」

イライザが魔法を行使すると、目に見えない魔力の波紋が周囲に広がっていく。

討伐対象を倒した後に、他の魔獣や魔物が現れて、周囲確認を怠った討伐部隊が壊滅や敗走する例も多々ある。

「大丈夫。 他に大きな魔力反応は無いわ。」

イライザが言って、6人が武器を降ろして気を抜く。

「討伐完了よ。」

手にしたスマホ型魔道具で、セリアが言うと。

「判った。 これから、そっちに向かう。」

イクルの返事が返ってきた。


「しかし、デカイですねぇ~。」

アキトが、倒した炎亀フレイムタートルを見て言う。

「確かに、通常の倍近い大きさだな。」

「ええ、私も、此処まで大きいのは初めて見ました。」

アレスの言葉に、スタンが答える。

「かなりの材料と肉が確保できますね。」

炎亀フレイムタートルの肉って、ちゃんと下処理をすれば美味しいのねぇ~~。」

セリアとイライザは、倒した獲物の品定めに入っている。

「はぁ・・・。」

「どうかしたの。 ソニア?」

溜め息を吐く、ソニアに向かって聞くアキト。

「なんか、最近。 私の出番が無いなぁ~と思っただけ。」

「良い事じゃないの。 アンタの出番が在るって事は、それだけ誰かが怪我をしてるって事なんだからね。

出番が無いって事は、それだけ怪我をしなく済んでるって事なんだから。」

「そうだよ、ソニア。 君が居るから、僕たちは恐縮することなく戦う事が出来るんだからね。」

イライザの言葉に、アキトも賛同する。

「理解してるのと、戦闘に参加していないと言う事実は別物なのよ。」


「なぁ~に言ってんだ。 俺の傷を治せないと知った時はオロオロして慌てふためいていたのに。

それとも何か? アキトや、アレスに大怪我して欲しいってか?

イライザの言う通り。 お前が居るから、怪我の心配を恐れずにアキトやアレスが突っ込めているんだ。

安心しろ。 ソニア。 お前が居なけりゃ、アキトは何回死んでるか分からないよ。 お前が居るから、今 アキトは生きてるんだ。」

イクルが、5人の兵士を連れながら、アキト達の元にやってくる。

「むう~~。アンタの時は! 魔法が効果ないって知らなかったからよっ!」

「あっ! レイラは尻尾の方を頼むな。 メスみたいだから、卵巣は傷をつけるなよぉ~。

ドモンと、カッシュは、胴体部分を頼む。

カルと、パッチョ! 判ってると思うけど、血の方もできるだけ採取してくれよ。 性欲増強効果が有って、貴族の人気商品名だからな。

アキト達は、そのまま周囲の警戒を頼む。」

ソニアが、わめいているが、解体指示を出すのが忙しいのでスルーする。

何故、戦いもできない俺が、ここに居るのかって?

簡単な事だ。

俺が、こいつらの倒した魔獣の素材を持ち帰る運搬係だからだ。

魔物は倒すと、魔石を残して消滅するが。

魔獣は血肉は残す。

そして、魔獣の血肉は、この星での貴重な食材や武器防具の材料となる。

異空間収納袋マジックバックと言う、魔道具も存在するのだが。

如何せん。 収納できる容量が50キロと制限がある。

大半の人たちは、異空間収納袋マジックバックに、予備の武器や着替えに携帯食料などを入れている。

そして、俺は魔力0。

魔法は勿論、魔道具すらも扱う事は出来ない。

なら、同じ転移者のアキトも魔力無しなのと言えば違う。

アキトには魔力が宿っている。

同じ転移者なのに、俺には無くて、アキトは持っている。

多分、この違いも。 カルドラに召喚された、勇者と言うアキトと言う存在と。

いつの間にか、理由も不明のまま、この星に来ていた、俺との違いだと思う。

そして、面白いことに。 魔力0の特典として、俺には魔法が、一切の効力が無い。

回復魔法、補助魔法、攻撃魔法。

全てに置いて、俺に魔法的な効果は影響されない。

魔法に無敵?と思うだろう。

だが、世の中そんなに甘くはない。

確かに、魔法的概念は、俺に効力は示さないが。

魔法に影響された、付属要因には影響される。

どういう事かって?

例えば、爆発エクスプロージュンの魔法が俺に当たるとする。

俺自身には魔法の影響はないが。 爆発で起こる爆風の被害や、爆風で巻き上がる地面の石や砂などでダメージを負ってしまう。

セリアの使った電撃矢ライトニングアロー

矢に纏わす雷の効果は無効に為るけど、矢自体のダメージが当たる。

簡単に言えば、こんな所だ。

因みに、俺には魔法の効力はないが、着ている衣服には影響が出る。

服は燃えているのに、俺自身は熱く火傷も無いと言う不思議現象の出来上がりだ。

そもそも、魔力と言うのは。 この星に存在する物質には、全ての無機物・有機物を問わずに魔力は宿っている。

だから、衣服などの無機物でも、魔法的要因の影響は受けてしまう。

この事を知っているのは、城でも重鎮や王様。 それに勇者パーティーだけだ。

こんな体質が露見したら、良い研究対象の的に為ってしまうからね。

世間的には、何かの呪いで魔法が使えない人。と、認識されている。

それでも、魔法研究関連の機関には興味を引かれているので。 勇者で在る、アキト達に引っ付いて回ると言う現状だ。


「アキト。 甲羅だけなら入りそうか?」

「ええ。大丈夫だと思います。」

「なら、甲羅は頼むな。」

「判りました。」

そう、勇者で在るアキトだけが使える不思議空間。

異空間収納庫ストレージ

現在の最大収納重量は300キロくらいだが。

最初の頃は、20キロ前後しか入らなかった事を考えると、アキトの成長と共に最大許容量が増えていくと見て良い。

大体にして、本来なら、この大きさの魔獣を解体して必要な部分を持って街まで帰るとなると、最低でも10人以上の運搬係は必要に為る。

今回は、アキトが異空間収納庫ストレージを活用してるので、半分近くにまで減らせる。

まったく、便利な勇者様だ。

そして俺は、トコトン役立たずなイレギュラーだ。
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