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 いっそ、理性なんて残らなければよかった。
 意識ごと奪ってくれたらよかった。
 そうしたら、こんな無力感に苛まれることも、家族を悲しませる後悔をすることもなかったんだ。

 ……違う、これは僕への罰なのか。

 ずっと、ずっとウッドワード家が守ってきたことを、僕は破ってしまった。
 選択肢はなかった。
 何度同じ場面を繰り返しても、テディが助かるなら、僕はテディを助ける。
 でも結局のところ僕は無力なのだと、「怨」は言いたいのかもしれない。
 誘拐犯からテディを助けても、代わりの人を僕が傷つける。
 このままゲームと同じ歴史を辿るなら、多くの人が傷つくことになるだろう。
 何もできない。
 テディを助けられても、僕には何もできないと、「怨」は思い知らせたいんだ。

 ベッドに沈む。

 日の光が、苦手になってきた。
 浴びたところで、体に不調は起きないけど、気分的に嫌なんだ。
 だから日中はカーテンを閉め、ベッドに潜っていることが多い。
 鬱々とする。
 最近は、どうすれば理性を保ったままでいられるか、そればかり考える。
 父上は窓から放り捨てた短剣を拾ってきたけど、僕を叱ったりはしなかった。
 むしろ以前の覇気がなくなって、父上のほうが衰弱していた。
 そっと、黙って机に短剣を置くだけ。
 僕はまた窓から放り捨てたけど、父上もまた拾って持ってくるだろう。

 もう耐えられない。

 怒って欲しかった。
 ウッドワード家の長男として、覚悟もできないのかと!
 でも父上が僕を責めることはない。
 父上が責めているのは、きっと自分自身だ。……親子だからかな? 不思議と、僕と同じことを考えているように感じるんだ。
 これも「怨」の狙いなんだろうか。
 あと六年も、こんな日常が続くんだろうか。
 耐えられない。
 今にも狂ってしまいそうだった。

 嫌だ、もう父上のあんな弱った姿は見たくない……!
 父上のせいじゃないのに! 何もできない、僕が悪いのに!

 怒って欲しい。
 怒って、不甲斐ない僕を見捨てて欲しい。
 けど、それが無理なことはわかっていた。
 顔は怖いけど、子煩悩な父上が、息子を見捨てられるはずがないんだ。


◆◆◆◆◆◆


 騒々しい。
 そう感じたのも、ベッドの上でだった。
 床が振動しているのか、部屋の外が慌ただしく感じる。
 何だろう?
 何だったとしても、今の僕には関係ないか。
 暗闇に思考が沈んでいく。
 けれど、唐突に眩しさを感じた。

「ルーファス!」

 部屋のドアが開け放たれ、外から光が入ってくる。

「お兄様!」
「ルーファス、無事か!?」
「ルーファスお兄様、助けに来ました!」

 ヴィヴィアンが、テディが、イアンがそれぞれ口を開く中で、アルフレッドが部屋にいた護衛を睨みつける。

「控えろ。このアルフレッド・ロングバードが命じる! オレが誰だかわからないとは言わせないぞ!」
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