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073.アルフレッド・ロングバード

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 テディに握らされたのは、手紙だった。
 四枚綴りで送ってきたヴィヴィアンとは違い、一枚の紙に、小さな文字でびっしりと言いたいことが書かれている。
 曰く、事件現場で見たことは、ウッドワード卿から口止めされているらしい。
 ウッドワード家の侍女がいる場では、喋れなかったんだ。

「ルーファスが、魔法を使った……?」

 見たことのない魔法だったけど、確かにルーファスの力だったという。
 それで殺されそうだったテディは救われたと。
 初級魔法なら、ルーファスにだって使える。
 けれど初級魔法で人を殺すことはできない。
 ルーファスはその場で、大の男二人を屠ったらしい。
 室内が血の海になる中、横たわったまま気を失ったルーファスを見ているのは、中々の地獄絵図だったとも手紙には書かれている。
 想像したくもない。
 けど、そのどこに口止めする必要があるんだろうか。
 軟禁される理由もわからない。

「制御がまだできないとかか?」

 それぐらいしか理由は思い浮かばなかった。
 今まで魔法を使ってこなかった分、暴発させてしまう危険があるなら、ヴィヴィアンを近づけないのも頷ける。
 だが秘匿する意味は?
 魔法が使えるのは、侯爵家としても喜ばしいはずだ。

 お父様に、報告すべきか?

 しかし報告しても無駄な気がする。
 正当な理由がなければ、国王といえども、侯爵家へ介入することはできない。
 ウッドワード卿が、易々と横やりを許すとは思えなかった。

「けどルーファスに、何かあった」

 あのヴィヴィアンが助けを求めてくるほどのことが。
 呟きに、珍しくエリックが反応する。
 前にルーファスと話しているのは見たけど、オレと会話するのは皆無といっていいエリックが。

「……ルーファスがどうしたのですか?」
「わからないんだ」
「無事だったと聞いていますが」
「うん……お母様には黙ってろよ」

 エリックはお母様の指示で、オレの護衛をしている。
 けどルーファスを心配する様子に嘘はないだろうと、テディからの手紙を見せた。

「これは……しかし、情報が少なすぎます」
「だよな。テディに話を聞けば、何かわかると思ったんだけど、謎が深まっただけだ」

 それでもヴィヴィアンとテディが、違和感を覚えているのは確かだった。

「会ったら、答えが出るかな?」

 ヴィヴィアンが別人のようだったと書いていた答えが。

「今は会えないのでは?」
「そこは、力業でどうにかする」

 昼間ならウッドワード卿は家にいない。
 ルーファスの部屋には護衛がいるようだが、一人だけなら、オレの魔法とエリックの力で何とかできる。というか護衛も、オレを相手にはしたくないだろう。
 またテディに会うふりをすれば、客間までは行けるし。

「ここで悩んでいても、答えが出るとは思えないしな」

 ルーファスに会うことで何か確証を得られたら、お父様にも相談できる。
 善は急げ、そう思ったところで来客を告げられた。
 イアンだ。
 今日、会う約束だったのを思いだす。
 忘れてたわけじゃない。
 ヴィヴィアンから手紙が来て、オレも余裕がなかったんだ。
 オレの前に現れたイアンは、分厚い封筒を握っていた。

「ねぇ、アルフレッド。ルーファスお兄様のことで、ボクをのけ者にしませんよね?」
「その手にあるのは……」
「ヴィヴィアンからの手紙です」
「アイツ、オマエにも送ったのか」

 それもどうやらオレに送られてきたのより、枚数がありそうだった。
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