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072.アルフレッド・ロングバード

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 ヴィヴィアンからの手紙を読み終わったとき、カタカタと指先が震えていた。
 ルーファスは救出されて、ケガもないと聞かされてた。
 だけど体を休める必要はある。
 今は療養のため会えなくても、すぐにまた会えると思ってた。

 どういうことだ? ルーファスは軟禁されてるのか?

 報告よりも重体なのかと思ったら、ヴィヴィアンが会ったルーファスは元気そうだ。
 何故ウッドワード卿が、自分の息子を軟禁するんだ?
 しかもルーファスは被害者だろう。
 わけがわからない。
 事情を知ってそうなのは……テディか? 一緒に攫われた彼なら、現場で起きたことも知ってるはずだ。
 ずっと彼がルーファスを心配してるのも、何かそこで起きたからじゃないのか。
 会って話を聞いてみるか。
 テディも、今は家族でウッドワード家に保護されている。
 もしかしたら彼にも会わせてもらえないかもしれないが。

 しかしダメ元で打診すると、テディとはすんなり会えることになった。

 ウッドワード家の客間で、テディと再会する。
 部屋にはテディの他に、ウッドワード家の侍女と、オレとエリックがいるだけだ。
 ヴィヴィアンは、挨拶にだけ姿を見せた。
 手紙の自己主張の強い部分にだけは文句を言いたかったが、いつもの気の強さが鳴りをひそめていて、出鼻をくじかれた。
 それほど深刻なのか。
 ことの重大さを再認識させられた。
 とにかく、今はテディから話を聞くしかない。

「守れなくて悪かった」
「状況は俺も理解してるよ。むしろ殿下が無事で良かったさ」
「ケガは大丈夫なのか?」
「首の皮を一枚切られただけだ。もう傷も塞がってる」

 首の皮、と聞いて寒気がしたが、跡も残らねぇよとテディは笑った。

「ルーファスは……」

 自然と体が前屈みになる。
 それはテディも一緒だった。

「無事だって聞いてる。殿下は?」
「オレもだ。だが、詳細がわからない。何があった?」
「うん、実はよく覚えてないっていうか……」

 事件のショックでだろうか。
 軽傷だとは言っても、首の皮が切られるようなことがあったんだ。
 ヴィヴィアンの手紙にもあった言葉が、重くのしかかる。

〈何が殿下よ、わたくしのお兄様は、お兄様しかいないのよ!〉

 その通りだった。
 大切な人を守れない身分に、何の意味があるんだ。
 けれどヴィヴィアンは、いざというときは盾になるとも書いていた。
 ルーファスもそうなのか?
 街では、何かあったらオレが守るんだと思ってた。
 だけどオレは、守られるばかりで、一番守りたい人を守れなかった。
 すぐ傍にいたのに。
 直前まで、手を繋いでたのに。
 拳を握る。
 その手に、テディの手が重なった。

「あまり思い詰めんなよ。誰が悪いかは、はっきりしてるだろ」
「テディ……」
「全部、俺とルーファスを攫った奴らが悪いんだ。だから、頼む」

 何を、と尋ねる前に、テディが手を握り込んでくる。
 拳の内側に、差し込まれるものがあった。

「俺は記憶が曖昧で喋れない。けど、協力できることなら、なんでもする」

 テディの目には、強い意思が宿っていた。
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