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「父上、テディは?」
「彼も無事だ。元気だよ」

 侍医を呼ぶよう声をかけた父上は、事件の顛末を簡単に説明してくれた。
 どうやら僕が意識を失って、数時間ほどで救出されたらしい。

「今、背後関係を調べさせている。ことが落ち着くまで、ノーファース家は我が家で保護することにした。お前にも、護衛をつける」

 そこで父上は、ドアのほうに視線をやった。
 甲冑姿の護衛が、置物のように部屋の中で立っている。

「安全を優先させたい。わかってくれるな?」

 常に見張らせておかないと不安だという父上に頷く。

「不幸中の幸いか、わざわざ主犯格が現場にいてくれた。洗い出しにも時間はかからないはずだ」

 仮面の男は、やはり貴族だったようだ。

「きっとお前たちを長期間拘束する予定ではなかったのだろう。つけていた仮面も、声が変えられる魔導具だった。もしかしたらお前を捕まえた時点で、目的の大半は達成していたのかもしれない」

 一度でも捕まえられれば、次もあると警戒させられる。
 僕にトラウマを植えつけられさえすれば、よかったのか。

「逃げられていれば、尻尾を掴むのも難しかっただろう。どうせ街でお前を攫った者は、使い捨てだろうからな」

 けれど僕が反撃したことで、仮面の男の企みは覆された。

「後は時間の問題だ。お前は……まず休みなさい」

 父上は気付いているはずだ。
 僕が魔法を使ったことに。
 テディも、そのことを話しているだろう。
 優しく気遣ってくれる姿に泣きそうになる。
 けれど目に、涙が浮かぶことはなかった。


◆◆◆◆◆◆


「お兄様、お兄様、お兄様ー!」

 翌朝、部屋で朝食を取った僕の元に、ヴィヴィアンが押しかけてくる。
 ヴィヴィアンは僕に抱き付くと、胸に顔を埋めた。
 頭を撫でようとして、違和感を覚える。

「ご無事で、良かった……」

 腕が動かない。
 指すら、一本も動かせなかった。
 おかしい。先ほどまでは、普通に朝食を食べられていたはずだ。

「お兄様?」

 僕の反応がないことに、ヴィヴィアンが見上げてくる。

「ヴィヴィアン、僕は疲れてる」
「あっ、ごめんなさい! わたくしったら……」

 ヴィヴィアンは慌てて体を離す。
 違う、僕はそんなこと言ってない。
 言ってない、のに。

「ヴィヴィアン様」

 部屋にいた護衛が、僕とヴィヴィアンの間に割って入る。
 護衛に隠されて、体の小さなヴィヴィアンはすぐに見えなくなった。

「お兄様……」

 僕を呼ぶ声だけが聞こえる。
 その声に、答えたいのに。

「僕は寝る」

 言い捨てると、僕はベッドに潜った。
 おかしい、何が起こってるんだ?
 僕の意思に反して、体が勝手に動く。

 動かされている……?

 問いに、答えはない。
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