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「テディは乗らないのか?」
「うーん、急な予定変更はダメだろ?」

 名残惜しそうに、アルフレッドは空いてる手で、テディを引っ張る。
 普段なら喜んで僕もテディを同乗させるんだけど、今回ばかりは勝手が違った。
 僕の後ろで、エリックが静かに首を振る。
 しょんぼりするアルフレッドを見ると胸が痛い。

「どうしてもダメか?」
「また誘ってくれよ。ルルの誘いなら、誰も断れないからな!」

 元気づけるように、テディはアルフレッドの背中を叩いた。
 そのとき、通りに視線を向けていたエリックの眉間に皺が寄る。
 近くはないが、離れた場所で騒ぎがあったようだ。

「アルフレッド様」

 慌ただしく人が行き交っているのが見えて、エリックがアルフレッドに声をかける。
 いつの間にか近衛兵も間近に集まっていて、厳しい視線を向けられた。
 最後の最後で、僕は繋いでいた手を放し、アルフレッドをエリックに渡す。
 これにはアルフレッドが慌てた。

「ルーファス!」
「先にエリックと馬車に乗ってください。僕もすぐに」

 乗ります、という声は、近衛兵の背中に遮られる。
 彼らにとってはアルフレッドが第一だ。
 僕もアルフレッドの安全が守られるなら気にしない。
 こんな形になってしまったけど、テディに別れを告げようと振り返る。

「テディ?」

 しかし、すぐそこにいたはずのテディの姿が見えなかった。
 近衛兵が集まってきたから、店に入ったのだろうか?
 店内に視線を向ける僕に、上から声が降ってくる。

「お友達が大事なら、一緒に来てもらおう」

 その言葉は、ナイフより鋭く、僕の心を突き刺した。

 いつの間に。
 誰が。

 頭の中が思考で荒れ狂う。
 けれど抗う術はなく、僕は男に従った。
 男は自身の体で、ウッドワード家の馬車から僕を隠しながら、路肩に止められていた他の馬車へ誘導する。
 男は警備兵のようだった。
 ただ警備兵に変装しているだけかもしれない。
 今日は街に警備兵が溢れていたから、その数に乗じたのか。
 平静を装い、焦ってはダメだと、自分に言い聞かせる。
 今はアルフレッドに集中している近衛兵も、僕がいなければすぐに気付くはずだ。
 本物の警備兵だってたくさんいる。
 乗せられようとしている馬車だって、人目は避けられない。
 落ち着け、落ち着いて、対処するんだ。
 しかし馬車の中で、顔を隠した男に捕らえられているテディを見つけ、反射的に名前を叫んでしまう。

「ーーー!」

 すぐに口を塞がれて、それは声にならなかった。
 布で猿ぐつわをかまされ、視界を何かで遮られる。

「大人しくしていろ」

 僕を乗せた瞬間、馬車は動き出したようだった。
 振動を感じながら手を縛られ、足を縛られたところで――。

「ほう、一丁前に護身用のナイフか」

 足首に携えていた短剣を奪われた。
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