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 にこにこと満面の笑みを浮かべるヴィヴィアンに嘘はない。
 なるほど、無表情でも伝わるものはあるのか、と納得したところで、馬車が目的の店に着いた。
 店の入口で店主に出迎えられる。

「本日は、当店ユノーハイネスにお越しいただき、誠にありがとうございます」

 頭を下げ、朗らかに挨拶する店主は思いの外、若かった。
 二十代後半ぐらいかな。
 くすんだオリーブ色の長髪を後ろでまとめる髪型は、父上と同じだ。
 今まで屋敷にくる外商の人は、決まって白髪交じりだったので意外に感じる。
 そしてヴィヴィアンと一緒に挨拶を返しながら、どこか見覚えのある店主の顔に、僕は内心で首を傾げていた。
 夜会で見かけたのかな?
 なんだろう、妙に引っかかる感じがする。
 その疑問は、店主が名乗ったことであっさり解けた。

「当店は私、グラム・ノーファースが店主を務めさせていただいております。ご要望は何なりとお申し付けください」

 ノーファース。
 それはまだ会えていない、最後の攻略対象の家名だった。
 商家であるノーファース家は、献金によって男爵位を授けられる。
 これによって嫡男のテディが、高等学院に入学する。
 グラムさんはテディのお父上だろう。
 引っかかりを覚えたのは、彼にテディの面影があったからだ。
 しかし、まさかヴィヴィアンの選んだお店が、攻略対象に繋がっていたなんて驚きだ。
 これで縁ができるとは限らないけれど。実際、今テディの姿は見当たらない。

「お兄様ご覧になって! 可愛い小物がたくさん!」

 僕の考えなんて関係なく、ヴィヴィアンは陳列された小物に目をキラキラさせている。
 ユノーハイネスは、インテリア雑貨のお店らしい。
 女性をメインターゲットにしているのか、内装もファンシーで僕の場違い感が凄い。
 けれどペンを支える兎のペン立てや、丸くなって寝ている猫のペーパーウェイトなど、動物をあしらった小物は、僕が見ても和むほど可愛らしかった。

「ヴィヴィアン、一番可愛いのを父上のお土産にしよう」
「わかりましたわ!」

 文具なら仕事場でも使ってもらえるはずだ。
 父上のイメージには合わないだろうけど、怖い外見の人が可愛いものを持ってるギャップは悪くないと思う。
 気に入ったものは、好きなだけ買っていいと言われているし、執事や侍女たちの分も選ぼうとヴィヴィアンと盛り上がった。
 あれですよね? 好きなだけっていうのは、開店前に店を開けてもらった迷惑料も含まれてるんですよね? 別途、迷惑料が事前に支払われているのは知っているけど。
 単に娘のお強請りで、父上の財布の紐が緩くなってるとは思いたくない。

 タイムリミットがあったから、長考はできなかったけれど、兎で揃えられたシリーズものの商品もあったりして、数を買うのには困らなかった。
 全て合わせると結構な量になってしまったので、家族の分以外は、後で送ってもらうことにする。

「うふふ、二羽でハート型を作るなんて、素晴らしいアイディアですわ」

 持って帰る分をラッピングをしてもらう傍ら、ヴィヴィアンが満足そうに微笑む。
 父上と母上用に買ったのは、大きめの陶器で出来た兎のペーパーウェイト。
 一羽ずつでも使えるけど、二羽並べると、兎の足がハート型を作るようにデザインされている。これをそれぞれ父上と母上に贈る予定だ。
 小さいサイズもあったので、こっちは僕とヴィヴィアン用にした。
 存在感を消していた侍女が商品を受け取り、僕たちは店を出るべく外に足を向ける。
 そのとき、事件は起こった。

「侯爵家だからって、いい気になるなよ!」
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