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049.???

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「見ましたか? あの彫像のような容貌を」
「確かに気味が悪いくらい整っておったな」
「あれだけ大勢に囲まれて、ピクリとも表情を変えないなんてあり得ません」

 先日の夜会での光景。
 ウッドワード家の嫡男は、大人に囲まれても、王妃派の子どもたちに囲まれても、顔色一つ変えなかった。
 その薄気味悪さといったら、霊にでも取り憑かれているようで――。

「ううっ、今思いだしても、背筋が寒くなります」

 所詮は子どもだと、高をくくっていた。
 社交界デビューを終えたといっても、まだ十二歳。高等学院にも入学していない。
 だから今のうちに思い知らせてやろうと、ウッドワード家の悪評を流した。
 敵の多さを知れば、殿下に取り入って伸びた鼻を、へし折ってやられると思ったからだ。

「あれでは父親の生き写しではありませんか」
「顔は母親に似たようだがのう」

 憎たらしい。
 どれだけ母親に似た美しい顔を持っていても、父親のように愛想がなければ宝の持ち腐れだ。
 笑いもしなければ、怒りもしない。
 涙の一つでも流せば、温情が生まれたものを。

「少しでも痛い目を見れば……」
「滅多なことを言うでない」
「しかしこのままでよいのですか?」

 どのような手を使っているのかわからないが、ウッドワード家は地位を欲しいままにしている。
 父親の足場を崩すのは難しくとも、息子相手なら、まだやりようはあるのではないか。

「だから子どもを使っておろう」
「成果があるようには、見受けられませんが?」
「根気だよ。今から孤立させていけば、高等学院での生活は辛くなるだろうて」
「孤立させられるのですか」

 王妃派があるように、ウッドワード家に与する派閥がある。
 パーシヴァル家に同じ年の子はいないようだが、三男が懐いていると聞く。夜会では長男とも親しげだった。
 ジラルド家が息子を近づけさせるとは考えられないが、現状は孤立していると言いがたい。

「すぐには難しかろう。だが王妃派の子どもたちへの刷り込みはできている。対立させるのは簡単だ」
「子どもでは限界があるでしょう」

 実際、夜会での手応えは皆無だった。

「だからとて、どうする? 子ども相手だから、まだウッドワード卿も静観しておるのだ。儂らが動けば、流石に黙ってはおらぬぞ」
「バレなければよいのです」

 何も直接手を下す必要はない。
 使い捨てできる人間を雇えばいいのだ。
 子どもの悪口程度では顔色が変わらなくとも、命の危険を感じれば流石に怖気立つだろう。
 少年の彫像のような顔が、恐怖に歪むのを想像する。
 それは、どれほど甘美だろうか。

「あてはあるのか」
「お任せください。金で動く連中に心当たりがあります」

 ふふ、命までは取らないでおいてやる。
 侯爵家の跡取りが害されたとなれば、王家も動かざるを得ないからな。
 しかし少し借りるぐらいなら、ウッドワード卿も被害を訴えにくい。
 幸い、声が変えられる魔導具も所有している。
 あの母親似の美しい顔が、自分の足に縋り、助けを求める姿を想像する。

 なんと心躍ることかっ!

 恐怖で泣き叫んでもいい、声を失ってもいい。
 失禁するだろうか、二度と外を歩けなくなるだろうか。
 あぁ、可哀想に。
 少年はウッドワード家に生まれた我が身を呪うことになるのだ。

 ――待っていろ。

 今にわたしが、真の恐怖というものを教え込んでやるからな。
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