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「お兄様、言ってやってくださいまし!」
「ルーファス! このうるさいのを黙らせろ!」

 しかし無情にも、決断のときはすぐにやってきた。
 らちがあかないので、名残惜しいけれど、二人からそっと手を引く。

「「あ……」」

 同時に声を漏らす様子には笑みが漏れた。顔には出ないけど。
 仲が良いのやら、悪いのやら。

「ヴィヴィアン、僕は君の兄だ。だからこそ、今は部屋に戻るように言うよ」
「お兄様……」
「それにヴィーとは、殿下が帰った後でも、一緒にいられるだろう? 兄妹なのだから」
「……じゃあ後でわたくしとコサージュを選んでくださる?」
「いいよ、明日のお茶会のかな?」
「えぇ! 約束ですわよ!」

 異性交流はよしとされていないけれど、同性間の友達付き合いについては、デビュタント前でも頻繁におこなわれる。
 殿下も、同じ年の男の子とは交流があるはずだ。

「ふんっ、オマエなんか何を付けても見劣りするだけだ」
「殿下、お言葉が過ぎます。妹の失礼は謝りますが、妹を貶められたら、僕も傷付きます」
「ルーファスには言ってないだろ!」
「同じです。殿下だって、陛下や王妃様を悪く言われたら悲しいでしょう?」
「……」
「同様に、妹の悪いところも僕が責任を取ります」

 お兄様!? とヴィヴィアンの僕を呼ぶ声が聞こえるけど、僕は殿下から視線を逸らさなかった。

「……いい、オレも言い過ぎた」
「寛大なお心に感謝致します」
「そういうかしこまったのは嫌いだ。……おい、悪かったな!」

 前半は僕に、後半はヴィヴィアンに向けて、殿下は言い放つ。
 態度は横柄なままだったけれど、殿下の気持ちはしっかりとヴィヴィアンにも伝わった。

「わ、わたくしのほうこそ、言い過ぎましたわ……ごめんなさい……」

 殿下が頷くのを見て、自分で謝ることができたヴィヴィアンの頭を撫でる。
 その後、彼女は侍女と手を繋いで、自室へと戻った。
 もしかしたら自分だけのけ者にされたようで、寂しかったのかもしれない。
 ヴィヴィアンを見送ると、殿下がポツリと言葉を漏らす。

「オレも白にすればよかった」
「何がです?」
「ズボン! アイツの服と、ルーファスのズボンはお揃いなんだろ?」

 指摘されるまで、特に気にしていなかった。
 確かに今日、僕は白のズボンに黒のブーツという出で立ちだ。
 乗馬用の服装だったけど、ヴィヴィアンが色を合わせてくれたのか。
 妹の気遣いにほっこりする。

「それに……オレのことも名前で呼べよ!」
「アルフレッド殿下と?」
「アルフレッド!」

 呼び捨てにしろと。
 流石に敬称を付けないのは不敬じゃないかと思うものの、本人が望んでいるだけに悩ましい。
 ……公式の場じゃなかったらいいかな?

「アルフレッド、他の方の前では、殿下とお呼びしますよ」
「う、うん、許す!」

 手を繋ぎ直され、赤髪の天使に頬の染まった笑顔を向けられて、目眩がした。
 いけない。
 このままだと闇の化身に関係なく、萌え殺される。
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