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 ウッドワード家が国を守る盾なのに対し、敵を切る光剣を模したロングバード王家のエンブレムが掲げられた馬車に乗り込む。

「本日はキツネ狩りにお招きいただき、ありがとうございます」

 そして何とか挨拶は口にできたものの、僕の背中では大量の冷や汗が流れていた。

「うむ、余はコレのお目付役としているだけだ。気にするな」

 コレ、と陛下が指差した先にはアルフレッド殿下がいる。
 無茶を言わないでください。

 というか陛下も一緒だなんて聞いてませんよ!?

 正面に座するのは、ロングバード王国の王、その人だった。
 殿下と同じ鮮やかな赤髪はクセが強いのか、整髪料で後ろへと流されている。
 整った顔立ちに宿る眼力は強く、父上に負けない威圧感があった。

「見たところ、跡は残っていないようだが、体調はどうだ?」
「火傷は完治しております。体調も問題ありません」
「それを直接聞けて安心した。ほら、お前も言うべきことがあろう」

 陛下に促されるものの、殿下は俯いたままだ。
 陛下の隣に座る殿下に、以前の傍若無人さは見られない。
 膝を寄せて、小柄な体をより小さくしている姿が哀れみを誘う。
 侍従は後続の馬車に乗っているため、この密室には三人しかいなかった。
 気まずくなって、胸元のペンダントを弄ぶ。

「……悪かった」

 ふとすれば聞き逃してしまいそうな声量だった。
 陛下が溜息をつく。

「全く……。アルフレッドも、ずっとそなたの回復を気にしていたのだ。余に免じて、許してやって欲しい」
「もちろんです。殿下は、大丈夫ですか?」
「……オレ?」

 質問の意図がわからなかったのか、何が? と、ようやくここで殿下の赤い瞳と目が合う。

「あのとき、ショックを受けてらしたでしょう?」
「あれは……びっくりして……なぁ、本当にもう大丈夫なのか?」

 自分が犯した過ちの大きさを目の当たりにして戦いた、という感じだろうか。
 侍女の悲鳴が、拍車をかけたのかもしれない。
 表情が晴れない殿下に頷く。

「ご覧のとおりです」
「隠してないか?」
「服の下にですか? ご覧になられますか?」

 紅茶のほとんどは体にかかっていた。殿下もそれを知っているから、気になるんだろう。

「アルフレッド、治癒の報告は余も受けている。必要以上に手間をかけさせるでない」
「でも……」
「僕は構いません」

 いくら言葉で聞いても安心できないんだろう。
 この程度で不安が拭えるのならと、僕はシャツのボタンに手をかけた。

「見えますか?」
「……近くで見てもいい?」
「どうぞ」

 シャツの中を殿下が覗き込む。
 柔らかい髪が、顎にあたってくすぐったかった。
 もっとボタンを開けたほうが良かっただろうか。

「触ってもいい?」
「アルフレッドっ、いい加減にせんか!」

 見かねた陛下の叱責に、殿下の肩が跳ねる。
 前屈みになっていたからか、その拍子にバランスを崩した殿下が僕の胸に倒れ込んだ。
 受けとめると、ミルクの匂いがふわりと香った。朝食でホットミルクでも飲んだのかな。

「大丈夫ですか?」
「ぁ……うん……」

 お互いの体温で熱くなったのか、殿下の頬が赤い。
 もぞもぞと居住まいを正した殿下は、僕に寄り添ったまま隣に腰を落ち着かせる。

「……仲直りができたのならよいか?」

 僕の気持ちを、陛下が代弁してくれた。
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