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003.ヴォルフ・ウッドワード

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 赤子のころから、ルーファスは大人びていた。
 変な言い方だが、そう表現するほかない。
 ルーファスはぐずることもなければ、夜泣きすることもなかった。
 彼が泣くときは決まって、自分ではままならない用があるときだけだ。
 育児書にそぐわないルーファスに、乳母はよく混乱した報告をあげた。
 医者にも診せたが、終ぞ異常は見られなかった。

 しかしヴィヴィアンが生まれ、その異質さがより際立つようになる。
 彼女は、赤子らしい赤子だった。

 よく泣くヴィヴィアン。
 ピクリとも表情を変えないルーファス。

 成長するにつれ、二人の対比は鮮烈になったが、私の幼少期を知る使用人たちは、むしろ安堵した。
 ルーファスの変わらない表情が、私と一緒だったからだ。
 付き合いの長い老齢の執事は語る。

「お子様たちは、旦那様を分けてお生まれになったようですな」
「どういう意味だ?」
「後天的な性質をルーファス様が、先天的な性質をヴィヴィアン様が継がれたのでしょう。旦那様も赤子のときは、よくお泣きになられましたから」
「……」
「乳母と一緒に、寝不足になったものです。ルーファス様は、判断力が優れておられるが故、不必要なことをなさらないだけかと」

 ――だとしたら。
 これはルーファスにとって必要なことなのかと、両手を広げる息子を見下ろす。
 その無表情からは何も読み取れない。
 けれど発せられた言葉は、私の心を粉砕するのに十分だった。

「父上は、お顔が怖いのです」

 自覚はあった。
 私が近寄るだけで、ヴィヴィアンに限らず、気弱な者は泣きそうになる。
 表情を変えないのはルーファスだけだ。私がそれで救われていたことに、息子は気づいているだろうか。
 そんなルーファスは、未だかつて私に何かを強請ったことはない。
 執事に視線をやれば、和やかな笑みが返ってくる。
 意味を理解し、私は二人に腕を伸ばした。

 目を丸くするヴィヴィアン。少し期待したが、ルーファスの表情は変わらない。
 けれど漏れ聞こえた声は、楽しそうだった。

 そうだ、ルーファスは私と同じなのだ。

 顔に出ないだけで、心は存在する。
 知っていたのに、私はわかっていなかった。
 ヴィヴィアンのためだと言ったが、ルーファスもずっと私に甘えたかったのではないのか。

 私は、どれだけ息子たちの気持ちを見過ごしてきた?

 自責の念にとらわれはじめたとき、次なる衝撃が私を襲う。

「父上、大好きです」
「お父様、大好き!」

 死ぬかと思った。
 幸福感に殺されそうになったのは、これがはじめて……いや、ルーファスやヴィヴィアンの産声を聞いた以来だった。
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