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「まさか飛ぶとは思わなかったよ」
「……すまない」
繋がったまま飛ぶなんて、新鮮すぎる体験だった。
真っ直ぐに上昇しただけだったから、すぐに降りてこられたけど、ディンブラはガルにがっつり怒られた。
エッチな雰囲気が霧散しちゃったけど、これ以上ルフナを放置するわけにもいかず。
「はぁ、はぁ……リゼ様……」
「わかったから、落ち着いて?」
ぼくはルフナに押し倒された。
空が白む中、ぼくの上で腰を振るルフナはとてもエッチでした。
家に帰るなり、井戸に直行することになるとはね。
ママはいい笑顔で迎えてくれたけど。
「その子がウロコを贈ってくれた新しい奥さんね? 格好良い息子が増えて、ママ嬉しいわぁ」
にこにこしながらディンブラの体を計測していく。
結婚式用の衣装を作ってくれるみたい。
パパはその様子を眺めながら思案げに頷く。
「そろそろ家の増築を考えたほうがいいな」
パパの中に、ぼくが家を出るという発想はなかった。
魔王を表明して大森林の外を拠点にするって言ったら……絶対反対されるよね。
しかし、ぼくの心配は杞憂に終わった。
「仕事場は外ってことだろう? 帰る家がここなら、パパは反対しないぞ」
仕事……うん、魔王は仕事でいいのかな?
パパが納得してくれるなら否はない。
「しかしリゼが魔王になるのかぁ……忙しくなるなぁ」
「そうね。今まで通りとはいかないわね」
パパとママの意向で、ぼくは普通に育てられたとルフナは言っていた。
ぼくが村でのんびり暮らせていたのは、両親のおかげなんだ。
これからどんな風に生活が変わるのか、想像するのは難しい。
「ごめんね、ぼくのワガママで」
「何言ってるの。大森林のためでしょう?」
「いつまでも子どもだと思ってたんだがなぁ……こんな、大きな決断を、できるまでになって……ぐすっ」
パパとママに話がついてからは早かった。
まずは村がお祭り騒ぎになって、大森林全土からエルフが村に集まった。といっても各村の代表者だけなんだけど、集まった人数に驚く。
ガルやルフレと結婚式を挙げた村の広場に入りきれず、一目見ただけじゃ数が把握できない。
「ちょうど千人です」
「ルフナは把握してるんだ?」
「移り人」だからかな? と思ったら、そうじゃないみたい。
「過去に四回ほど、集まる機会がありまして……」
「一堂に会すると凄い迫力だね。その、顔を上げてもらえないかな?」
前半はルフナに、後半は地面に片膝を着いて頭を垂れている千人に向ける。
一斉に顔を上げられて、思わず肩が跳ねた。
ぼくの隣に立っていたルフナも、顔をこちらに向けたまま、おもむろに片膝を着く。
「みんな、このときを待ち望んでおりました」
てっきりルフナが大袈裟に言っているんだと思っていた。
けれど見える顔がどれも熱を孕んでいて、真実だったのだと知る。
ぼくは一度目を閉じ、心を落ち着かせる。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、正面を見据えた。
「ぼくは魔王になる。大森林を守るために。……だけど、ぼくは一人じゃ何もできない」
精霊王様たちから祝福を受けているとはいえ、エルフの若造にすぎないんだ。
魔法は使えても、拳を握る力は弱い。
「まだ何ができるのかすら、よくわかっていない。それでも守りたいんだ。大切な人を、この森を」
最初はハーレムだけで手一杯だと思った。
けれど集まってくれた人たちを見て、それではいけないと痛感させられた。
大森林を守りたい気持ちに偽りはない。
――気付いたんだ、みんな大事なんだって。
ハーレムに関係なく、種族に関係なく。
会ったことのある人も、ない人も、大森林に住む人はみんな、等しく家族なんだって。
だから、ぼくは改めて責任を持ちたいと思う。
手を前に出して掲げる。
「この手は小さくて、みんなから見ても頼りないよね」
消えていた、広場のかがり火が燃え上がる。
「けど、みんな集まってくれた。ぼくに心を寄せてくれた」
地上から空に向けて、雨が「降る」。
「大森林だけじゃない、ぼくには、みんなが大切なんだ」
突風が、髪を巻き上げる。
「だからぼくは、魔王になる」
土が隆起し、大地が裂ける。
ぼくは正面を見据え続けた。
そこに精霊王様たちが姿を現す。
「どうか力を貸して欲しい。みんなを守るために、人間に、抗うために!」
ぼくが見るのは、精霊王様たちじゃない。
答えるのも、精霊王様たちじゃない。
ここに集まった家族を、ぼくは見る。
「リゼ様とともに」
ルフナが答える。
「任せろ。勇者なんてぶっ飛ばしてやるぜ」
ガルが答える。
「是は、リゼと共にある」
ディンブラが答える。
そして。
「「「我らはリゼ様と共に!」」」
みんながぼくに答えてくれた。
「わたくしはいつでも見守っているわ」
「自分だけのように言うのはよしてくれ。僕も君を見ているよ、リゼ」
「言わずとも、精霊はお前に応えるじゃろうて」
「……みんなリゼが好き」
顕現してくれた精霊王さまたちにも感謝を伝える。
この日から、ぼくは魔王様と呼ばれるようになった。
「……すまない」
繋がったまま飛ぶなんて、新鮮すぎる体験だった。
真っ直ぐに上昇しただけだったから、すぐに降りてこられたけど、ディンブラはガルにがっつり怒られた。
エッチな雰囲気が霧散しちゃったけど、これ以上ルフナを放置するわけにもいかず。
「はぁ、はぁ……リゼ様……」
「わかったから、落ち着いて?」
ぼくはルフナに押し倒された。
空が白む中、ぼくの上で腰を振るルフナはとてもエッチでした。
家に帰るなり、井戸に直行することになるとはね。
ママはいい笑顔で迎えてくれたけど。
「その子がウロコを贈ってくれた新しい奥さんね? 格好良い息子が増えて、ママ嬉しいわぁ」
にこにこしながらディンブラの体を計測していく。
結婚式用の衣装を作ってくれるみたい。
パパはその様子を眺めながら思案げに頷く。
「そろそろ家の増築を考えたほうがいいな」
パパの中に、ぼくが家を出るという発想はなかった。
魔王を表明して大森林の外を拠点にするって言ったら……絶対反対されるよね。
しかし、ぼくの心配は杞憂に終わった。
「仕事場は外ってことだろう? 帰る家がここなら、パパは反対しないぞ」
仕事……うん、魔王は仕事でいいのかな?
パパが納得してくれるなら否はない。
「しかしリゼが魔王になるのかぁ……忙しくなるなぁ」
「そうね。今まで通りとはいかないわね」
パパとママの意向で、ぼくは普通に育てられたとルフナは言っていた。
ぼくが村でのんびり暮らせていたのは、両親のおかげなんだ。
これからどんな風に生活が変わるのか、想像するのは難しい。
「ごめんね、ぼくのワガママで」
「何言ってるの。大森林のためでしょう?」
「いつまでも子どもだと思ってたんだがなぁ……こんな、大きな決断を、できるまでになって……ぐすっ」
パパとママに話がついてからは早かった。
まずは村がお祭り騒ぎになって、大森林全土からエルフが村に集まった。といっても各村の代表者だけなんだけど、集まった人数に驚く。
ガルやルフレと結婚式を挙げた村の広場に入りきれず、一目見ただけじゃ数が把握できない。
「ちょうど千人です」
「ルフナは把握してるんだ?」
「移り人」だからかな? と思ったら、そうじゃないみたい。
「過去に四回ほど、集まる機会がありまして……」
「一堂に会すると凄い迫力だね。その、顔を上げてもらえないかな?」
前半はルフナに、後半は地面に片膝を着いて頭を垂れている千人に向ける。
一斉に顔を上げられて、思わず肩が跳ねた。
ぼくの隣に立っていたルフナも、顔をこちらに向けたまま、おもむろに片膝を着く。
「みんな、このときを待ち望んでおりました」
てっきりルフナが大袈裟に言っているんだと思っていた。
けれど見える顔がどれも熱を孕んでいて、真実だったのだと知る。
ぼくは一度目を閉じ、心を落ち着かせる。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、正面を見据えた。
「ぼくは魔王になる。大森林を守るために。……だけど、ぼくは一人じゃ何もできない」
精霊王様たちから祝福を受けているとはいえ、エルフの若造にすぎないんだ。
魔法は使えても、拳を握る力は弱い。
「まだ何ができるのかすら、よくわかっていない。それでも守りたいんだ。大切な人を、この森を」
最初はハーレムだけで手一杯だと思った。
けれど集まってくれた人たちを見て、それではいけないと痛感させられた。
大森林を守りたい気持ちに偽りはない。
――気付いたんだ、みんな大事なんだって。
ハーレムに関係なく、種族に関係なく。
会ったことのある人も、ない人も、大森林に住む人はみんな、等しく家族なんだって。
だから、ぼくは改めて責任を持ちたいと思う。
手を前に出して掲げる。
「この手は小さくて、みんなから見ても頼りないよね」
消えていた、広場のかがり火が燃え上がる。
「けど、みんな集まってくれた。ぼくに心を寄せてくれた」
地上から空に向けて、雨が「降る」。
「大森林だけじゃない、ぼくには、みんなが大切なんだ」
突風が、髪を巻き上げる。
「だからぼくは、魔王になる」
土が隆起し、大地が裂ける。
ぼくは正面を見据え続けた。
そこに精霊王様たちが姿を現す。
「どうか力を貸して欲しい。みんなを守るために、人間に、抗うために!」
ぼくが見るのは、精霊王様たちじゃない。
答えるのも、精霊王様たちじゃない。
ここに集まった家族を、ぼくは見る。
「リゼ様とともに」
ルフナが答える。
「任せろ。勇者なんてぶっ飛ばしてやるぜ」
ガルが答える。
「是は、リゼと共にある」
ディンブラが答える。
そして。
「「「我らはリゼ様と共に!」」」
みんながぼくに答えてくれた。
「わたくしはいつでも見守っているわ」
「自分だけのように言うのはよしてくれ。僕も君を見ているよ、リゼ」
「言わずとも、精霊はお前に応えるじゃろうて」
「……みんなリゼが好き」
顕現してくれた精霊王さまたちにも感謝を伝える。
この日から、ぼくは魔王様と呼ばれるようになった。
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