35 / 61
本文
033.勇者
しおりを挟む
「おらぁ! 一丁上がりだぁ!」
勇者の剣を振るい、イノシシに似た魔獣を仕留める。
勇者に代々受け継がれているこの魔剣は、魔力を通すことで、魔法のように中距離からも攻撃ができた。
はじめて持ったときから手に馴染み、今では手放せなくなっている。
「おら、おらぁ!」
手入れが杜撰でも、スパスパと面白いほど良く切れる。
おれはエルフの女の子を助けられなかった悲しみを剣に込めた。
大森林という巨大な森を探索するには、おれたちだけでは無理だったんだ。
今頃オーガの巨根で、あんなことやこんなことをされてるかと思うと、股間がいきり立……いや、悔し涙が溢れる。間違ってもカウパーじゃない。
「やり過ぎて、魔力が枯渇しなければいいのですけど」
「誰がヤリ過ぎだ!?」
むしろハーレムのクセにエロ要素が皆無なんだが!?
アラビカもおっぱいを隠すようにきっちり甲冑着やがって! 何が、姫騎士だ! 姫騎士なら「くっ殺」を見せろよぉ!
ゴブリンに汚されるどころか、一刀両断しやがって!
コボルトの村じゃあ、子どもにも容赦なかっただろ! 相手が魔族でも、犬に愛着のあるおれは可哀想になったぞ!
「姫騎士ならスライムや触手にぬるぬるされろよぉ!」
「どういう意味ですの!?」
やべっ、心の声が出ちまった。
「タケル、もう十分」
「掻っ捌いて食べるミャ」
「そうだな」
気落ちするのも腹が減ってるせいかも。
おれと獣人のリンチェが魔獣を食べようとするのを見て、アラビカが顔を顰める。
「よくもまぁ、そんな下賎なものが食べられますわね」
「アラビカは口に合わないだけだろ」
魔族や獣人は、普通に魔獣を食べる。
アラビカには止められたけど、おれも食べてみるとおいしかった。
食わず嫌い、よくない。
血抜きしたほうがおいしいんだろうけど、案外生臭さとかも気にならないもんだ。
おれとリンチェが刺身や焼き肉を楽しむ横で、アラビカとコナはもそもそと動物の干し肉を食す。
「このあとはどうすんだ?」
「一度国へ報告に戻ります。ドラゴンを一頭倒したのですもの、大きな成果ですわ」
「もう一頭は取り逃がしたけどな。まぁそっちも死んでるか」
逃がしたものの虫の息だった。あれでは逃げた先の魔獣にも負けるだろ。
「勇者の剣、強い」
「おう、はじめから最強の武器が使えるなんて、チートだよな!」
コナの言葉に、大きく頷く。
ハーレムメンバーについては文句を言いたいが、武器や環境については悪くなかった。
国では勇者様々だし、立ち寄った他国でも賓客扱いだ。
悪い気分じゃない。
「しかしミャー、あのドラゴンが魔王だったミャ?」
「まぁ手応えはなかったよな」
相手が弱かったんじゃない、おれが強すぎただけだ……っていう可能性もあるにはあるが。
聞き取れる獣人語の単語とおれの返答から、アラビカはリンチェが話した内容を推測して口を開く。このあたりに頭の良さが現れてるよな。
「ラッテ神王国の神子の託宣も、万能ではありませんからね」
「大まかな方角しかわからないんだもんなぁ」
曰く、大陸西南に魔王現る。
託宣の全文はもっとこまごましていて、おれたちはそれを元に魔王が現れる場所を絞ってるんだが。
「大森林には手を出したくないミャー」
ピクリとアラビカの眉が動いたに気付いて、おれはリンチェの言葉を通訳した。大森林という単語に反応したらしい。
「あら、聞き捨てならない発言ですわね?」
「大森林は魔族の巣窟ミャ。ミャーたちだけじゃ、到底対応できないミャ」
「おれたちだけじゃ手に余るってさ」
「そこは軍を動かしますわ。周辺国にも働いてもらいますわよ」
魔王は人間にとっての脅威だ。
魔族や魔獣を煽って人間を襲わせているのは、他ならぬ魔王だからな。
倒さないとこっちが滅ぼされる。
「けれど国家間での調整には、まだしばらく時間が必要ですわね。それまでわたくしたちは、脅威となり得る存在を、倒していくしかありませんわ」
「人使い、荒い」
「わかってますわよ。だからこそ、一度国に戻って休もうと言っているのですわ」
ふかふかのベッドで寝たい気持ちは、みんな一緒だった。
おれはベッドの中も一緒でいいんだけどなぁ。
ベッドの上でハーレムを作っている自分を妄想していると、リンチェが物言いたげな目で見てくる。
「何だよ、妄想は自由だろ!」
「ミャーが出てくる妄想は自由じゃないミャ。タケル、大森林はダメミャ」
「ダメって?」
「アラビカの考えは危険ミャ。気を付けたほうがいいミャ」
「気を付けろって言われてもなぁ」
アラビカの考えが間違っているとは思えない。
どれだけおれが強くても、少人数では限界がある。
「リンチェは大森林が怖いのか?」
「違うミャ。タケルはもっと自分の頭で考えたほうがいいミャ」
「何を二人でこそこそしていますの?」
「ヤキモチか?」
「誰が誰にですか!?」
「魔獣うめーって言ってただけだよ。アラビカも食わないか?」
「何度すすめられても食べませんわ!」
アラビカとリンチェの意見は対立しそうなので誤魔化しておく。
仲間のために気を回せるおれって素敵だよな。なぁ? とリンチェを見ると、リンチェは肉をがっついていた。
これだから色気のない女は……!
勇者の剣を振るい、イノシシに似た魔獣を仕留める。
勇者に代々受け継がれているこの魔剣は、魔力を通すことで、魔法のように中距離からも攻撃ができた。
はじめて持ったときから手に馴染み、今では手放せなくなっている。
「おら、おらぁ!」
手入れが杜撰でも、スパスパと面白いほど良く切れる。
おれはエルフの女の子を助けられなかった悲しみを剣に込めた。
大森林という巨大な森を探索するには、おれたちだけでは無理だったんだ。
今頃オーガの巨根で、あんなことやこんなことをされてるかと思うと、股間がいきり立……いや、悔し涙が溢れる。間違ってもカウパーじゃない。
「やり過ぎて、魔力が枯渇しなければいいのですけど」
「誰がヤリ過ぎだ!?」
むしろハーレムのクセにエロ要素が皆無なんだが!?
アラビカもおっぱいを隠すようにきっちり甲冑着やがって! 何が、姫騎士だ! 姫騎士なら「くっ殺」を見せろよぉ!
ゴブリンに汚されるどころか、一刀両断しやがって!
コボルトの村じゃあ、子どもにも容赦なかっただろ! 相手が魔族でも、犬に愛着のあるおれは可哀想になったぞ!
「姫騎士ならスライムや触手にぬるぬるされろよぉ!」
「どういう意味ですの!?」
やべっ、心の声が出ちまった。
「タケル、もう十分」
「掻っ捌いて食べるミャ」
「そうだな」
気落ちするのも腹が減ってるせいかも。
おれと獣人のリンチェが魔獣を食べようとするのを見て、アラビカが顔を顰める。
「よくもまぁ、そんな下賎なものが食べられますわね」
「アラビカは口に合わないだけだろ」
魔族や獣人は、普通に魔獣を食べる。
アラビカには止められたけど、おれも食べてみるとおいしかった。
食わず嫌い、よくない。
血抜きしたほうがおいしいんだろうけど、案外生臭さとかも気にならないもんだ。
おれとリンチェが刺身や焼き肉を楽しむ横で、アラビカとコナはもそもそと動物の干し肉を食す。
「このあとはどうすんだ?」
「一度国へ報告に戻ります。ドラゴンを一頭倒したのですもの、大きな成果ですわ」
「もう一頭は取り逃がしたけどな。まぁそっちも死んでるか」
逃がしたものの虫の息だった。あれでは逃げた先の魔獣にも負けるだろ。
「勇者の剣、強い」
「おう、はじめから最強の武器が使えるなんて、チートだよな!」
コナの言葉に、大きく頷く。
ハーレムメンバーについては文句を言いたいが、武器や環境については悪くなかった。
国では勇者様々だし、立ち寄った他国でも賓客扱いだ。
悪い気分じゃない。
「しかしミャー、あのドラゴンが魔王だったミャ?」
「まぁ手応えはなかったよな」
相手が弱かったんじゃない、おれが強すぎただけだ……っていう可能性もあるにはあるが。
聞き取れる獣人語の単語とおれの返答から、アラビカはリンチェが話した内容を推測して口を開く。このあたりに頭の良さが現れてるよな。
「ラッテ神王国の神子の託宣も、万能ではありませんからね」
「大まかな方角しかわからないんだもんなぁ」
曰く、大陸西南に魔王現る。
託宣の全文はもっとこまごましていて、おれたちはそれを元に魔王が現れる場所を絞ってるんだが。
「大森林には手を出したくないミャー」
ピクリとアラビカの眉が動いたに気付いて、おれはリンチェの言葉を通訳した。大森林という単語に反応したらしい。
「あら、聞き捨てならない発言ですわね?」
「大森林は魔族の巣窟ミャ。ミャーたちだけじゃ、到底対応できないミャ」
「おれたちだけじゃ手に余るってさ」
「そこは軍を動かしますわ。周辺国にも働いてもらいますわよ」
魔王は人間にとっての脅威だ。
魔族や魔獣を煽って人間を襲わせているのは、他ならぬ魔王だからな。
倒さないとこっちが滅ぼされる。
「けれど国家間での調整には、まだしばらく時間が必要ですわね。それまでわたくしたちは、脅威となり得る存在を、倒していくしかありませんわ」
「人使い、荒い」
「わかってますわよ。だからこそ、一度国に戻って休もうと言っているのですわ」
ふかふかのベッドで寝たい気持ちは、みんな一緒だった。
おれはベッドの中も一緒でいいんだけどなぁ。
ベッドの上でハーレムを作っている自分を妄想していると、リンチェが物言いたげな目で見てくる。
「何だよ、妄想は自由だろ!」
「ミャーが出てくる妄想は自由じゃないミャ。タケル、大森林はダメミャ」
「ダメって?」
「アラビカの考えは危険ミャ。気を付けたほうがいいミャ」
「気を付けろって言われてもなぁ」
アラビカの考えが間違っているとは思えない。
どれだけおれが強くても、少人数では限界がある。
「リンチェは大森林が怖いのか?」
「違うミャ。タケルはもっと自分の頭で考えたほうがいいミャ」
「何を二人でこそこそしていますの?」
「ヤキモチか?」
「誰が誰にですか!?」
「魔獣うめーって言ってただけだよ。アラビカも食わないか?」
「何度すすめられても食べませんわ!」
アラビカとリンチェの意見は対立しそうなので誤魔化しておく。
仲間のために気を回せるおれって素敵だよな。なぁ? とリンチェを見ると、リンチェは肉をがっついていた。
これだから色気のない女は……!
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!
左側
BL
New プロローグよりも前。名簿・用語メモの次ページに【閑話】を載せました。
つい、発作的に載せちゃいました。
ハーレムワンダーパラダイス。
何度もやったBLゲームの世界に転生したのにモブキャラだった、隠れゲイで腐男子の元・日本人。
モブだからどうせハーレムなんかに関われないから、せめて周りのイチャイチャを見て妄想を膨らませようとするが……。
実際の世界は、知ってるゲーム情報とちょっとだけ違ってて。
※簡単なメモ程度にキャラ一覧などを載せてみました。
※主人公の下半身緩め。ネコはチョロめでお送りします。ご注意を。
※タグ付けのセンスが無いので、付けるべきタグがあればお知らせください。
※R指定は保険です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
残業リーマンの異世界休暇
はちのす
BL
【完結】
残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。
彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?!
そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。
しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。
◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。
【attention】
・Tueee系ではないです
・主人公総攻め(?)
・勘違い要素多分にあり
・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。
★初投稿作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる