ぼく、魔王になります

楢山幕府

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「リゼくんは会うたびに綺麗になるなぁ。肌の色艶もいい」
「あはは、ありがとうございます」

 多分、色艶がいいのはガルもです。
 ガルの部屋に直行して、気付いたら夜になってました。ごめんなさい。
 夕食後、居間でぼくとガル、ガルのお父さんとお母さんが対面するように座る。
 おじさんには他にも奥さんがいるけど、とりあえずこの四人で話すことになった。

「アミーコの件はすまなかった。あれには追って沙汰を下す」
「よろしくお願いします」

 アミーコは村に着いたときに引き渡してある。
 正式な罰は、ぼくの村とも話合って決められる予定だ。

「あの子もバカよねぇ。ただあたしもエルフ製の化粧水を使ってるけど、リゼちゃんには全く追いつく気がしないわぁ」
「リゼくんはエルフの中でも群を抜いてるからな。それで、今日は改まってどうした?」

 お付き合いのご報告に来ました。
 って、心の中じゃすんなり言えるのに、いざ口に出そうとすると緊張する。
 ぼくがまごついてる間に、ガルが先陣を切った。

「俺とリゼが付き合ってるのは知ってんだろ」
「あぁ、村の者もよく話題にしてるからな……はっ! まさかリゼくん、うちに嫁に来てくれるのか!?」

 あ、あれっ、話が進んでる!?
 結婚については、まだガルとも話合ってないよ……!
 何か言わないと、と慌てて口を開く。

「む、息子さんをぼくにください……!」

 あああ! 口が勝手に!?
 つい心のどこかで思っていたことが声に出てしまう。

「ん? ガルが嫁なのか……?」
「俺はどっちでもいいけどよ」
「いいの!?」

 当人からはあっさり了承を得られて、隣に座るガルを仰ぎ見る。

「お前に求められて断る奴はいねぇだろ」
「そうよねぇ、リゼちゃんが相手だと断れないわよねぇ。あなた、跡取りは別の子にします?」

 ガルは兄弟の中で、一番上のお兄さんだ。
 そうか、跡取り……。

「ぼく、子ども産めないもんね……」
「俺も産めねぇから、安心しろ」

 越えられない性別の壁にしゅんとすると、ガルに抱き寄せられる。

「あらあら、見せ付けてくれちゃって。リゼちゃんも気にしなくていいのよぉ、うちは子どもが多いし、女でも子どもが産めない体質の人だっているんだから」
「しかし……うーむ、ガルが嫁か……それなら急ぐことはないんじゃないか? 特にリゼくんはまだ若いだろう?」

 おばさんは認めてくれたけど、おじさんはすんなり頷けない様子だ。そりゃそうだよね……。

「気が変わる可能性もあるんじゃないか?」
「何言ってんだよ、親父! だから今のうちに身を固めといたほうがいいんだろ!?」
「そうよ! 今なら第一夫人の座は確実よ!?」

 おじさんの真っ当な質問に、ガルとおばさんが食ってかかる。
 ちょ、ちょっと待って。

「ぼくは気が変わらないよ!? ガルは何で気が変わる前提なの!?」

 柄にもなく、ガルの両肩を掴んで揺らした。

「あ、いや……俺、オーガだしよ……」
「だから何!? それが気になるぐらいなら、最初から好きになってないからね!?」
「男だしな? お前は一人っ子だろ?」

 ガルはガルで、ぼくの家のことを気にしてくれてるみたいだった。
 でも。

「ぼく、女の子には興味ないから! 一人っ子でも、こればかりはどうしようもないよ?」
「そうか……なら余計、他の奴には譲れねぇな」
「ぼくが好きなのはガルなんだからね?」
「おう……」

 重ねて言うと、ガルの相好が崩れる。
 ほにゃっと頬を緩ませて、ぼくの肩に顔を埋めた。
 厳ついガルも格好良いけど、たまにこういう可愛いところを見せられると、胸がきゅうってして、もっと好きになっちゃう。

「あらあら、ガル、愛されてるわね」
「だが、なぁ……」
「あなたはリゼちゃんの何が不満なんです?」
「不満はないんだが……ガルには、ハーレム候補がたくさんいただろう? 全部断るのか?」

 リゼくんがガルのハーレムに入ってくれる分にはいいんだが……とおじさんは続ける。
 ぼくは知らない話が出てきたので、ガルの横腹をつついた。

「ガル、ハーレム候補って?」
「あー……許嫁みたいなもんか?」
「許嫁がいたの!?」
「候補だ。あくまで予定だって。正式に決まったもんじゃねぇよ」
「それでも村の顔ってものがあるだろう」

 聞けば村長の息子として、ガルには他の村の有力者からお嫁さんをもらう段取りがあったという。
 これにおばさんが、ふんっと鼻を鳴らした。

「世間体がなんですか。立場なら別の子が引き継げばいいだけでしょう?」
「簡単に言うがなぁ……」
「なぁ、親父。正直なところ、俺もリゼがいるのに他の女抱ける自信ねぇぞ」
「そうよねぇ。リゼちゃんより大柄な子はいるでしょうけど、こんな可愛くて綺麗な子は、いないでしょうねぇ」
「ぐぬぬ……」

 おじさんの旗色は悪い。

「ならば、こうしよう。リゼくん、君がハーレムを作りなさい」
「ぼくがですか?」

 驚きで目を瞠るぼくに、おじさんが頷く。

「オーガは成人しても、ハーレムを作るまでは半人前だ。そしてハーレムの多さで男を証明する。リゼくんが立派なハーレムを作り……相手は男でもいい、その第一夫人がガルなら、誰も文句は言わんだろう」
「そんなに世間体が大事なのかよ」
「あのなガル、これはお前のためでもあるんだぞ? それに世間体は大事だ。周囲からの評価は、自分の知らないところでも身を守ってくれるからな」

 ガルが甘く見られれば、今まで大人しくしていた人たち――ガルの村を気に入らないオーガたちが、ケンカを売ってくるかもしれないらしい。

「んなの返り討ちにしてやるよ」
「一々に相手にしてたら面倒だろうが。リゼくんにも迷惑がかかるぞ」
「……だけどよ、リゼを見たら誰も文句なんか言わねぇと思うんだが」
「見れば、だろう? 直接会った者なら理解できる。だがそれ以外は、流れてくる情報で判断するしかない。わたしが問題にしているのは、そこだ」

 おじさんはガルに向けていた視線をぼくに移す。

「これはリゼくんにも言えることだ。エルフで最も精霊王に近いきみが、エルフではなくオーガを伴侶にしたら周囲はどう思う? たった一人しかその座に納まれないのなら、奪いたい者も出てくるんじゃないか?」
「そうねぇ。ハーレムがあったら、座を奪うより、まずはハーレムに入りたいって思うものよね」

 ママは、ガルとのことを認めてくれている。
 ルフナだって、ぼくとガルが付き合っていることを否定しなかった。
 けど結婚となると、また話が変わってくるんだろうか。

「リゼちゃん、安心して。ハーレムの序列の守り方は、あたしからガルにしっかり伝授しておきますからね」
「お袋も親父の話にのるのかよ」
「あなただって頭の隅にはあったでしょう? だから今の内に身を固めたいなんて言うのよ」
「ガル、そうなの?」

 ぼくの問いかけに、ガルは短い白髪をガシガシと掻く。

「あーリゼ、お前の魅力は凄いんだ。この村の連中が狙うくらいだから、同じエルフならもっとだろう。オーガの男はハーレム作ってなんぼだ。時間が経てば、二番、三番と相手が増えるのは当然のことだと思ってた」

 ガルの中で、ぼくがハーレムを作るのは想定内だったらしい。

「ハーレムかぁ……」
「リゼ、オーガにはオーガの、エルフにはエルフの考え方があんだろ? 今すぐ決める必要はないんじゃねぇか?」
「そうだな。一度話を持って帰るといい。言っておくが、決してお前たちの仲を否定してるんじゃない。リゼくんが嫁に来てくれるっていうなら、今からでも祝いの準備を進めるからな!」

 立場的な問題はあるけど、ガルとの関係を認められるのは素直に嬉しい。
 ぼくは笑顔でおじさんに頭を下げた。

「はい、今日はありがとうございました」
「お義父さんと呼んでくれて構わないぞ。おい、いい酒があったよな?」
「あたしはお義母さんね。リゼちゃんも成人したんでしょう? 一緒に飲みましょ!」

 お酒が出される頃には、おじさんの他の奥さんたちも集まってきて、宴会がはじまった。
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