さぁ、反撃ですわ

啄木鳥

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後日談〜クロム視点〜

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「なんだここは…! 」


国を出て、初めて街に入ったときの衝撃は忘れられない。

舗装されていない道路、所狭しと並ぶ店、忙しく喋りながら動き回る平民達。ここは自分が知っている街とはまるで別世界だった。

自分の知っている街というものはもっときちんと整備されているところで、少なくともここのように怒鳴り声がそこかしこから聞こえてくるようなところではない。

「クロム様、行きましょう!」

俺が唖然としている横でアリスは特に思うところはないのか元気に話しかけてくる。

聞いてみたところ、俺が住んでいた場所はあくまでも貴族が多く来る街だったので、かなり綺麗にされていたところらしい。
曰くアリスのいた町もここのようなところだったそうで、特に驚くことは無いと言っていた。


こんなところで無事暮らせるのだろうか。

そんな不安が頭をよぎったが、仕方ないのだと自分に言い聞かせ、足を進めた。



ここへ向かう馬車の中で、これからどうするかをアリスと話し合った。…そこで俺は現実がほとんど見えていなかったことに気づかされた。

まず生活の問題。街に着いたらまず何をするか、どこに住むか、どうやって稼ぐか、身の回りの物をどうするか、など。それに、自分たちの身分の話。


俺は正直生活をどうするかなんて全く考えておらず、これからはアリスと暮らせる、という呑気なことで頭がいっぱいだった。それに身分だってまだ、自分は侯爵家の一員だ、という意識は抜けていないようだった。だから「私達はなんの後ろ盾もない平民、つまり立場としては弱者です。多少の理不尽も飲み込まなくてはならない立場になります。」アリスからこう言われた時は冷水を浴びせられた気分だった。





街について俺達はまず、服を売りに行って昼食を摂ったのだが……それすらも驚きの連続だった。

まず服を売るときなのだが、相手の言う値のまま買い取ってもらおうとしたらアリスが止めに入り、この値段はかなり低い、だとか言って交渉を始めた。そしてなんと二倍近くの値で買い取ってもらうことに成功した。曰くこれくらいが相場らしい。俺達はあからさまにお忍びで来た世間知らずの貴族っぽいので足元を見られていたそうだ。

俺はそれに対して文句を言いに店へ戻ろうと言うと、下町ではこれが普通です。騙されるほうが悪いのです。とアリスに止められた。

昼食として出店で串焼きを食べたりもしたのだが……貴族の常識とはかけ離れていた。まず、歩きながら食べるものだ、ということ。マナーなんてまともに存在していない。それに値段がかなり安い。いつもの食事とは桁が1つ2つ違う。こんなもの本当に食べて大丈夫か?と訝しんだが、曰く平民の食べ物はこのくらいの値らしい。
…ちなみに意外と美味かった。


………もしもアリスがいなければ本当に生きていけなかっただろうな、俺。というか、なにも役に立ってないな。

そもそも、なぜアリスはこんなにも平民の生活に詳しいのだ?

そう聞くと、少し気まずそうな感じで「……家が貧乏だったもので。それに、偶に下町に行ったりしていたので…」と返された。

本来ならば下町に貴族が行ったりするのは汚い、だとか言って忌まれたりする。俺も今までは忌んでいたが、それでもアリスのお陰で今はなんとか暮らせそうなのだから責める気なんてない。というより、むしろ感謝しかない。


その後、俺達は宿を決めたり、職を探したりした。宿は住んでいた家とは比べるのもおこがましいほどに劣悪な環境で、職もなかなか良さそうなのが見当たらない。とりあえず明日からはしばらく日雇いの仕事でもして凌ぐか、ということになった。



はぁ……疲れた。整備もされていない街を一日中歩き回って、騙されかけたり、なかなか仕事は見つからないし、宿はこんな酷い環境だし……これからはこんなところで暮らしていかないといけないのか。はぁぁ…


そんなことを寝っ転がりながら心の中で愚痴っていると、アリスから話がある、と真面目な顔で話しかけられた。ちなみに部屋は節約のため同室だ。……これは貴族の感覚から言うと信じられないようなことだが、アリスに防犯面でも金銭面でもこちらの方が絶対良い!と押し切られこのようなことになっている。

「どうした、アリス。」

「クロム様。これからはきっと、今まで裕福な暮らしをしてきたクロム様にとってかなり過酷な日々になると思います。食事や、仕事、住まい、そういった生活の質は随分と下がり、侯爵家であったときより格段に心身に負担がかかることと思います。きっと今だってお疲れのことでしょう。」

「……そうだな。今日だけでも驚きの連続だったし今までとのあまりの差でかなりくたびれた。」

「それでも……私達はこの生活からは当分逃れられません。どこにも行くところがありません。あの国からは追放され、身内もいなくなってしまったのですから。だから、頼れるのはお互いしかいないと思います。……ですので、きっとこれからは大変なことがあったり、迷惑をかけたりもするかもしれませんが、これからも、よろしくお願いします!」



正直、アリスがここまで色々と考えているとは驚きだった。今日俺は…あまりの今までとの差が衝撃的すぎて、自分のことで精一杯で、アリスのことをまともに気にかけることもできていなかった。

それだというのにアリスは…よく考えれば彼女だって平民として暮らすのは初めてで大変だろうに、俺を気遣ってくれている。

もとはといえばこの平民落ちという状況だって、俺の態度が招いた結果だ。それでもアリスは俺を想い、心配してくれているというのに俺は愚痴ばっかりで自分のことしか考えていないとは……アリスを守ると決めたはずなのに、情けない。


「アリス!」

「な、なんですか?」

「こちらこそ、きっと色々とわからないことも多いし、迷惑をかけると思う。だが、君の身は、心は、絶対俺が守る!これだけは誓う!だから…こちらこそ、よろしく頼む。」



俺は、アリスと共にいようとしてこんな状況になったのだ。それだったら、せめて最後までアリスを守り、共にいる。改めてそう心に決めた。

きっとこれからはかなりの困難があるだろう。だが、俺は絶対に屈しはしない。アリスと共に生き抜いてやる!そして、こうなってしまったことを悔いないくらいに絶対に二人で幸せになってやる!


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