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第7話 修行

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さすがに魔法の訓練は村ではできなかったので近くの森で俺たちは訓練を始めることになった。


「近くの森って言ったよね......半日は歩いたんじゃない?」

「.......」


相変わらずの無視を決め込まれる。


「それにさ、ここあれだよね。迷いの森だよね? こんな所で修業って命がいくつあっても足りないよね。」

「......」


あれ? さっきからずっと無視だ。これってまさかまたババアの偽物が


「良し。ここらへんで始めるとするかの。」

「純粋に無視してただけかーーーーい!!!」

「本当にやかましいの。不細工な男ほど、俺は顔がイケてないから口で取り返さないといけないんだ。 と勘違いしておるが、不細工がうるさいともはや救えんぞ。」


「やかましいのはお前だ!!!」


俺の言葉を当たり前のように無視し、ババアは荷物を下ろし落ちていた木の枝で地面に円を描いていく。


「ほんとにアンタって説明ないよな。まぁ別に説明されてもわからないんだけど。」


ちょっと拗ねてみるがそんなことも通用しない事もわかってきている。
厳しい先生だことで。


かなり大きく円を描いている。
一件家が建てられるんじゃないかと思うほど大きな円。

魔法の訓練だと聞いているもんだからこの大きい円はおそらく魔法陣かなんかだろう。たぶん。
しかもこの大きさ、しょっぱなから俺に超大型古代魔法とかそういうチートなやつを教えてくれんのかな? たしかにババアとはいえ女神マルスと呼ばれる存在だ。飛んでも魔法を使えるのも不思議じゃない。それに俺は聖典に選ばれた者だ。基礎なんかふっ飛ばしていきなり最上級魔法ってのも全然あり得る。うおぉぉぉおおお!!! テンション上がってきたーーーーー!!!!


「良し、描けた。お主がまた迷子にならんように円を描いてやったぞ。ここから出なんだら前みたいにはぐれることもないじゃろう。」

「どっしぇーーーーーーー!!!!!! 全然関係なかったぁぁぁーーーーーー!!!」

「何顔を赤くしとるんだの。わかったらさっさと始めるぞい。」


うぐぐ、子ども扱いしやがって。言われなくてもこんなおっかない所でババアから離れるような事誰がするかよ。
ポッポする顔を冷ましながらババアの「ココに立て。」と言われる場所に立つ。
木の枝でダルそうな顔で俺の頭をポンポン叩きながら、


「よいか、今からお主に魔法とは何かという事を説明する。1回で理解するように努めるんじゃ。」


相変わらず人をやる気にさせるのが下手な事で。
とはいえ俺の命に係ることだ。言われなくても覚えてやるさ。
まぁ少し興味もあるしな。


「改めて小僧や。お主には今から戦いの基本を伝授していくことになる。しかし悲しいかな時間がないのじゃ。
全てが中途半端な教え方になるだろうがなんとかきっかけをつかみそれを消化させてみぃ。」

「やる前から中途半端に教えるとか言われるの嫌なんだけど。やる気でねぇよ。」

「やらねば死ぬだけじゃ。わしは基本的な事は余すことなく教えるつもりじゃ。だが本来魔法の修業とは幼き頃より魔力に触れその存在を理解していく作業。今のお主では魔力なぞ微塵も感じておらぬじゃろう。お主に死んでもらってはわしも困る。じゃから修行は厳しいものになるが覚悟はできているな?」

「できてません。」

「なんか言ったか?」

「いや、だから......」

「よろしい。覚悟はできているという事じゃな。それでは始めていくぞい。」

「めっちゃパワハラなんですけど。」


避けて通れるとは思ってなかったけど。


「まずお主に教えなければいかんのが魔法とは何ぞやという所じゃ。」

「えーそんな学校の授業みたいなことはいいよ。もっとこう、バッっとやってズバッとできたりしないのかよ。」

「この世界でも魔法というのは身近でありながら希少な物なのじゃ。そんなに簡単なものではない。だいいちお主はまだ魔力とかその辺の力を信じ切れてないじゃろ。」

「んーそう言われると。一応目の前で見たから嘘とまでは思ってないけど理解は全くできてないわな。」

「確かに今まで魔力に触れてこなんだんじゃ。無理もない。今から行う修行はその魔力に触れてもらう所からじゃ。実際その体で認識すれば魔力とは何かという説明も理解できよう。」

「そういうもんかね。で、なにすりゃいいんだ?」

「わしが今からお主の体に魔力を注ぎ込む。それを感じ取り自分の意志である程度動かせるようにしてみい。」

「動かす?」

「御託は終わりじゃ。そこに座って目を閉じよ。」

「ごたく......ほんと上から言うんだから。」


しぶしぶ足元の芝生に腰を下ろしあぐらをかいた状態で目を閉じてみた。
魔力を注ぎ込むとか大丈夫なのか? このババアは全く信用できないからな。
てか一度殺されてるし。


「準備はよいな。ではいくぞい。」


準備できてるなんて返事してないけどね。
っと、そんないやな感情に満たされながらも目を閉じておとなしく待つ。
しばらくして背中の当たりが温かく感じてきた。


おっ! なんだこれ。温かい。ポカポカする。


その熱は背中からまるで血管を通り全身にめぐるように体中に広がった。

これが魔力? 液体? 気体?  なんだろ、その間みたいな感触かな?

ポカポカと背中が温かくて気持ちいい。
滋養強壮に効きそうだな。接骨院でも開けば一儲けできそうだ。

それにしてもいい気持だ。

そういえばババアが自分で魔力を動かしてみろって言ってたな。
今血液みたいな感じで全身をめぐってる感覚がある。

これを動かすのってどうするんだろう?
マンガとかだと念じればそれに反応するって感じだけど。

とりあえず巡るスピードを早くしてみようか。
うーん、とりあえずイメージしてみるか。魔力が体を早く回るイメージ。

グルングルングルン

おぉ!! 早く回ってる気がする。すげぇーどんどん早くなる。
体のポカポカも強まった感じがする。
ひぇーやっぱ俺才能あるのかな? ババアが小さい時から時間をかけて覚えるって言ってたし。
さて、次は何しようかな。その前に一回魔力のスピードを抑えてっと......

ん? ちょっと待って、これどうやって止めるの? ちょっと熱いんだけど。
おい。あちち! 何これ? ちょっとこれ止めて! おい。ってあれ目が開かない。体も......
おい!! バアさん!! これ止めてくれよ! 体が焼けちまう。熱い!! あぁぁああ!! 体に火がついてるみたいだ!! このままじゃ死んじゃう!! おい!! バアさん!! バアさん!! 助けて、熱い!! うわぁぁぁあああああ!!!!


パッと突然視界が広がり体も動くようになっていた。

ハァハァハァ......

息が荒れている。体の熱もまだ若干だが感る。でも体は何ともない。


「いったい......」


「今感じたのが魔力じゃ。わしが無理やりお主の体に魔力を送り込んだ。その魔力をお主は自然と火の属性に変えてしまったのじゃ。じゃがそこから発動できず魔力が体内で暴走し,
ああいった事になったというわけじゃ。」

「下手したら死んでたぞ。」

「聖典の力を引き出すのも同じ要領じゃ。使えなければどうせ死ぬ。死ぬ気で覚えろ。」

「死ぬ気でって普通は死なない現場で使う言葉じゃねぇか。ちくしょう。」


”しかしこの男、魔力を感じれればいいと思って始めたがいきなり魔力操作までやってのけるとは。しかも魔法書も無しに属性変換まで。常識外れにもほどがあるが、やはり腐っても聖典に選ばれし者というわけか。時間さえ間に合えばこやつなら......”


それからもババア付き添いの元、同じ修行は続いた。初めみたいに体が焼けるように熱くなることはなかったがそれでも発動までのアクセスがうまくいかず体の中で魔力が膨れては消えるという現象を繰り返した。その度に体に鋭い痛みが走り顔をゆがめる。ババアは神経に魔力が馴染んでる証拠じゃとか言ってたけど神経にそんなもん馴染んでいいのかも思う。

ひたすら繰り返す魔力注入。回数を重ねるごとに増す痛み。それでもババアに半ば強制的に魔力注入を続行させられ、この日はフラフラの体のまま村までの4時間を何とか歩き帰った。

行きは2時間ほどで到着したのに帰りは4時間。そして明日も早朝からさっきの森で今日の続き。
初日だからあえて言うぞ。絶対挫折する。俺は絶対逃げ出すと思う。それだけは言っておく。


その言葉をババに投げかけ俺は泥のようにベットで眠ってしまった。


驚いたのは次の日だ。
体に鋭い痛みはなくなっていた。筋肉痛なんてもんじゃない痛みだったのに今は体に何の異変もない。驚いたのはそれだけじゃない。村から森までの距離を1時間ほどで到着できるようになっていた。とくに急いできたというのはない。それに全く疲れることなく。

「魔力が神経に馴染んでくると普段体を動かすときに使うエネルギー。そのエネルギーに一部魔力が使われる。魔力は一瞬で膨大な魔力を生み出すものじゃ。そんなものが使われれば体の構造も変わってくる。
強制的に肉体を変化させている時、昨日のような痛みが体を襲う。いうなれば肉体を魔力がサポートできる体になっていくんじゃよ。」

ババアはフンっと鼻を鳴らしえらそうに語る。
魔力って眉唾だったけどかなりやばい代物なんだな。
しかしこの体が強化されていく感覚、あの言葉を言いたくて仕方ない。


「なじむぞぉ!!なじむぞぉ!!」


俺ババアの顔の前でこめかみをグリグリしながら「なじむぞぉ!!」を繰り返す。


「ついにバカになりよったか。ほれ、昨日の続きからじゃ。早よやれい。」


むなしい世界だぜ。馴染めそうもない。


俺は昨日と同じように目を瞑りあぐらをかいて体の中を流れる魔力を感じる修行を始める。

思ったように動かすのはもうそこまで難しい事じゃない。だけどどうしても発動までのプロセスがうまくいかない。体の中でのコントロールはかなりコツを掴めてきたのでもう暴走するようなことにはならないけど、


「だぁーダメだぁーうまくいかねぇー。なんかコツとかないのかバアさん。」

「すぐ答えを知りたがるのは若いもんの悪い所じゃ。もう少し模索してみぃ。」

「そういう所、年配の方の悪い所だと思うんですけどね。」

「あぁ? なんか言ったか?」

「いえなにも。」
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