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氷の魔法

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 初めに気づいたのはクラウスだった。
 床にうつぶせの状態で倒れている彼は頬を伝う冷気に何事かと顔を上げた。

 床の絨毯は霜がついておりその異変はブルーノの仕業ではないことに気づく。
 冷気はニアを中心に円形に広がっておりそれはすぐに空気までも凍らせた。

「ニア......」

 クラウスは弱々しい声でニアの名前を呼ぶがその声はニアには届かない。
 すぐにブルーノも異変に気付く。初めはクラウスがしていることかと考えたがすぐにそれはニアのものだと気づく。

「私は話の腰を折られることが嫌いでね。しかしまた、その呪印は体内の魔力の活動を抑える仕様にしてあるのですがなかなか......あなたたちは色々な事を私に隠しているのですね。本当に楽しませてくれる。」

 ブルーノはスタスタとニアのもとに向かい拳をニアの顔めがけて振りぬいた。

 ガギャァァ!!!!

 クラウスはその力の込めた拳にニアの顔が簡単につぶれる想像が容易にできた。
 あの威力の力を防御力が低い魔法使いの顔に振りぬいたのだ。下手をすると今ので絶命していてもおかしくない。目を伏せ自分の力のなさを呪うクラウス。

「ほう。あなた......そうですか。そんな力を隠していたんですね。」

 拳はニアの目の前で止まっている。ブルーノの拳は床から伸びた氷の塊に包まれその動きを止めていた。

「しかし、その力、初めから使わなかったところを見ると、扱いきれてないと踏むべきですね。」

 ブルーノは凍らされ動けないはずの拳を パッ と広げ、その瞬間氷は砕けその破片がニアの頬をかすめ血が垂れる。
 ニアの前で手のひらを広げそこから先ほどもタヌキに使った【圧縮された力】を爆発させようとした。

 ニアは瞬時に呪印の配列を書き換え自身を縛っていたはずの呪術を解除してしまう。
 呪術はサラサラと文字の形になり、ほどけるようにバラバラになり足元へ落ちていく。
 それと同じタイミングでブルーノの【圧縮された力】が爆発しニアのいたところを含め衝撃波がその場に広がる。

 しかしそこにはもうニアはいない。少し離れた場所にスッと宙に浮いた状態で立っていた。
 腕が折り曲げた針金のようにいびつにいがんでいる。先ほどの衝撃波からの回避が間に合わず腕だけ巻き込まれたのだろう。すぐにニアはその折れた腕に逆の手を当てそこから緑色の光がこぼれる。

 パキパキパキ

 あっという間に腕は元の形に戻り青あざのように色のかあっていた部分も元のきれいな透き通るような肌に戻ってしまった。

「無詠唱......しかもその回復力、貴様、何者ですか?」

 初めて見せるブルーノの警戒。
 先ほどの腕の折れ方。いくら回復しても元通りになるようなものでもなかった。
 回復魔法とはいえ万能ではない。人体の回復能力を促進させる回復魔法。
 特に骨折などの治療は難しく骨が繋がりはするが以前のような動きは難しくなる例が多い。

 徐々にニアの肌は白く美しい金色の髪も色が抜け落ちていき白く輝きだす。
 ふと目を開け顔を上げる。瞳は青く漏れ出す魔力は空気を凍てつかせている。

「弱き身体......扱いにくい。」

 漏れた言葉も白い煙となり空気の中へ消えていく。

「ふふ、それがあなたの本性というわけですね。ハハハハハ!!!!」

 興奮し大声で笑いだすブルーノ。

「あなたが何者なのかはすぐにわかることです。隅々まで調べてあげますからね。」
「醜悪な声だ。耳が腐る。」

 害虫を見るかのような軽蔑の目。それがブルーノの性癖を逆立てた。
 飛びつくように襲い掛かるブルーノ。先ほどとは違う明らかに油断のない攻撃。

 振り下ろされる拳を空中に発生させた何層もの氷の壁でせき止める。
 しかし氷壁では勢いは止まらず次々と撃ち抜かれていく。最後の1層になったその時、ブルーノの真横から強烈な氷のつららの槍が恐ろしい速度で襲い掛かる。

「ちぃ!!!」

 強引に体をよじり回避を行うが横腹を貫かれそのまま吹き飛ばされるブルーノ。
 2、3回地面に打ち付けられながらゴロリと仰向けに倒れている。
 しかし手もつかず足の裏だけ地面についた状態でフワッと起き上がると黒い文字の鎖のようなものが穴の開いた部分に巻き付いていきその傷をあっという間に塞いでしまった。

「私もあなたと同じように回復魔法は得意なんですよ。修復といった方がいいですかね?」

 ケラケラと笑いながら先ほどまで穴が開いていた場所をさすっている。
 服まで再生しているところを見るとブルーノの言う通りただの回復魔法ではないのだろう。

「下賤な技だ。今度は跡形もなく消してやる。」

 ニア?は相変わらず汚いものを見るように軽蔑のまなざしを送っている。
 またも仕掛けたのはブルーノ。【捕縛の鎖】が何もない地面から突如現れニア?に向かって絡みつく。

「この鎖は冥界へと通じる鎖。力じゃ千切れませんよ。」
「お前は阿呆なのか?」

 先ほどと同じように瞬く間に体に巻き付く鎖を解除すると同時にブルーノの両サイドから巨大な氷塊をぶつける。避けようとしたブルーノだが足が凍り付き身動きが取れない。

「これは一枚取られましたね。」

 そういい終わると同時に氷塊はブルーノを間にし、勢いよくぶつかり一つの氷塊へと姿を変えた。
 半透明な氷塊の中心は赤く染まり徐々にその赤がしみて広がっている。

「たわいもない。」

 ニア?がそう言葉にした時、氷塊の中心の赤色が徐々にまた中心に集まってきている。
 それが一つの塊になり内側から氷塊にヒビを入れ出した。

「ふん。すでに人間をやめていたか。おぞましい限りだ。私がゴミの相手など。」

 ヒビはすでに氷塊全体にいきわたりついにはバキバキと砕けていき中の男が姿を現した。

「あなた何者です? そんな小娘ができるような戦闘スキルではありませんね。私も久々に本気を出してしまいそうですよ。」

 先ほどの余裕のある話し方は変わってはいないのだが、どこかとぼけた雰囲気は全くなくなっておりまるでスキのない相手となってしまった。

「人間をやめるというのはいい線をついていますが、ゴミというのはいただけません。あまり私を怒らせないことですよ。苦しむのはあなたなのですから。」

 少しずつ言葉のトゲを隠せなくなってきている。
 ニア?は蔑んだ目からさらに軽蔑も加わったような目で

「ふん。ではこれからお前の事を駆除してやろう。あいにく虫を楽に駆除する方法を知らなくてな。悲惨な死に方をすると思うが許してくれ。」

「クソが.......」

 歯ぎしりが聞こえてきそうな声。
 しだいにブルーノの本性も垣間見えてきていた。


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