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起源

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「毒なんて入っていないですよ。」

 笑いながら話すブルーノ。
 アレンはかまわず食事をしている。
 その姿を見てニアもクラウスも席につき食事を始める。

 アレンたちは本来の目的を忘れてはいけない。
 アレンたちは時間を稼ぐ。少しでもブルーノをこの場所に縛り付けておくこと。
 それが目的なのだ。




 ーーーーーーーーーーー





 ディアドラとゴンゾウが施設の中を進む。
 アレンが研究所に入った後に魔晶石から2匹を出しておいた。
 きわどいタイミングだったが現にばれずに探索ができている。

「さすが主の策略。微塵のスキもない。」

 過大評価が過ぎるディアドラの言葉にゴンゾウも「きゅぴ。」と賛同の声を出す。

「私なら呪印のにおいがわかる。解除の謎も探せようというものだ。」

 若干過大評価が過ぎるのだ、ディアドラは。
 さておきディアドラがドアの前に立つとゴンゾウが器用にドアノブを回し中の部屋を探していく。

 部屋は食堂以外には4つしかなく大した広さもない。フラスコや見たことのない液体の入った瓶などはあるが大掛かりな研究がおこなわれている様子もなかった。

「なにかおかしい。こんなダンジョンの奥深くにわざわざ研究所を建てているのだ。大した研究をおこなっている形跡がなさすぎる。それなのにここへ入ったときから胸糞悪い呪印のにおいがプンプンしよる。怪しすぎるな。」

 ディアドラはあからさまなほど何もない研究所に違和感を感じていた。

「この部屋が一番におう。なぜ何もないのだ。」

 部屋を見回すがなにも見当たらない。

「きゅぴぴぴ!!!」

 ゴンゾウが部屋の本棚の前で飛び跳ねている。

「青いの。お前も早く探さんか。時間がないのだぞ。」

 ディアドラの言葉にも耳を傾けず、ひたすら飛び跳ねるゴンゾウ。

「ええい、鬱陶しい。早く探せと言っておるだろ。」

 ゴンゾウのあまりのしつこさに軽く前足でゴンゾウを弾き飛ばす。
 ゴンゾウはクッション玉のように ポヨン と吹っ飛びながら本棚に激突してしまった。

 ぶつかった衝撃でゴンゾウの頭に整理されていた本棚の本がバラバラと落ちてくる。

「きゅぴぴ!!!!」
「むっ、すまん青いの。力の加減が......これは......」

 棚に整理されていた本がなくなり隠れていた部分が姿を現す。
 そこには手のひらほどの小さな魔法陣が刻まれていた。

「きゅぴぴっぴっぴぴ!!!」
「悪かった悪かった。このことを言っていたんだな。しかしなぜわかった?」

 ディアドラでさえ感じられぬ魔力に感知したというならにわかには信じられない。
 しかしゴンゾウならあり得る話だと思いながら訪ねてみる。

「きゅう~?」
「そうか。何となくか。ふふ、お前らしいわ。それでは先に進むとしよう。」

 魔法陣の上にディアドラは前足を ポフッ と乗せる。すると魔法陣が光始め今まであった本棚が水の中で粉末を溶かすかのようにその場で姿を消してしまった。







 ーーーーーーーーーーーーー




 一通りのあいさつを終えるとブルーノは一人で会話を楽しんでいた。
 最近あった自分のドジな話や面白い実験の話など本当に楽しそうに会話していた。
 軽く相槌などは打つものの楽しく会話に参加できるほどの余裕はなかった。

「例えばアレン君、あなたはこのダンジョンがどういう食物連鎖で成り立っているか知ってますか?」

 ブルーノの突然の問いに「へっ?」っと不意を突かれた返事をしてしまう。

「モンスターはモンスターを好んでは襲わない。まず最初に襲うのは人間からです。しかし普通はダンジョン内で食物連鎖が完結しているはず、いわば人間はダンジョンの中ではお客様というわけですね。それなのにモンスターは人間を好んで襲う。自然界では普通考えられないことです。」

 ブルーノは饒舌に話を進める。

「知っていますか? モンスターは食事を取らなくてもダンジョン内なら生きていけることを。もちろん衝動として他のモンスターを襲い食べてしまうことはありますが日常にその光景はない。ならモンスターは何をエサに生きているのでしょう?」

「それが冒険者って話じゃないのか?」

 アレンの言葉に無言で首を振り

「モンスターはダンジョンを喰らっているのですよ。」

 不気味な言い方に背筋か凍る。どういう意味なのかは分からないが不安をあおる言い方だ。
 怪訝な顔でニアが

「ダンジョンをって、土とか草を食べてるって事?」

「いえ、そういう事ではありません。あくまで草や土などはダンジョンから生まれた物、もっと根本的な命です。」

「まるでダンジョンが生き物みたいな言い方するのね。」
「えぇ そうです。ダンジョンは生きています。」

 当たり前のことを当たり前のように言った。そのように聞こえるブルーノの声、さすがのニアも言葉が詰まる。

「あなた方は知っていますか? モンスターとは元は外の生物や植物、地上の生き物がダンジョン内で進化した姿だということを。」

 これはディアドラの記憶の中で可能性の一つとして考えられたことだ。アレンとニアは受け止めることができるがクラウスは驚いた表情をしている。

「たしかに元をたどればどの生物も起源があるのと同じでダンジョンで進化したという話も納得いく人もいるでしょう。しかし私が言う進化とはそういったものではなく突然変異といった方がわかりやすいですかね。ものにもよりますが、数年もダンジョンの中にいればどんなものでもモンスター化してしまう可能性があるという事です。」

「それって人間も......?」

 ニアは不安そうな顔でブルーノに問う。
 いつの間にか皆がブルーノの話に引き込まれていた。

「いえ、一概にそういう事も言えないのですが、考えてもみてください。我々冒険者の間で言われている職業やスキルとはなんの事なのでしょう?」

「それは世界から与えられる......」
「世界とは?」

 クラウスの言葉にかぶせるようにブルーノが答える。

「私はこう思うのです。ダンジョンは高純度な魔素に溢れている。皆さんもご存知の通り魔素はダンジョンのあらゆる場所で観測できます。魔素を豊富に取り入れた薬草は高力を上げ、より上位の薬草になります。これはより深い階層のモンスターが浅い階層のモンスターより強力な事と同じ理由です。ダンジョンとは深い階層になればなるほど高純度の魔素で溢れています。」

「それで......?」

 クラウスは恐る恐る続きを促す。

「冒険者とは人から進化した存在。人のモンスター化ともいえます。強いからより深くに潜れるのではなくより深く潜ったからこそ強くなれる。それは高純度の魔素を体に取り入れ絶えず肉体がモンスター化していっているという事なのです。いくら地上で鍛え上げてもたいして強くならなかったのにダンジョンに1度潜るだけで一気に強くなっていく。地上では強さの範囲をレベルと呼んでいますが本来そのレベルとは魔素の純度や蓄積量を調べるもの。地上の人間はかつてそのことを知っていた。しかし時がたつにつれ知識が廃れていき技術だけが残った。そして人はダンジョンに潜り続けた。自分がどうなっていってるのかもわからず。その子孫、その子孫へと能力を引き継ぎながら。」
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