夏は短し、恋せよ乙女

ぽんず

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episode:12

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

幸太郎がさちかと家に近づいたころ、家の近くに人影が見えた。

 

「…なんの用事だ?」

 

「待ってたのに、そんな言い方冷たいぞ。」

 

家の前で待っていたのは学校帰りの礼であった。

 

礼はさちかを見つけるとニコッと笑顔を向けた。

 

なにを考えているかよくわからない笑顔である。

 

「さちかちゃんはお兄ちゃんをいつも独り占めできて、うらやましい。」

 

「こんにちは、礼ちゃん。」

 

さちかは笑顔で挨拶をするが、幸太郎と握っていた手には無意識に力が入る。

 

「さちかは先に家に入ってな。」

 

幸太郎は玄関を開けるとさちかを先に中へと入れた。

 

「幸太郎、放課後に急にいなくなっちゃうから。心配したよ。」

 

「別にどこに行こうと俺の自由だろ。それに亮だっていただろ。」

 

 

しばらく沈黙となる。

 

 

「幸太郎がいいの。」

 

 

礼はまっすぐな視線を幸太郎へとむけた。

 

「礼…何言って「おにいちゃ~ん!」

 

2人の止まった空気を動かしたのはさちかであった。

 

「お腹すいちゃったよ~。」

 

今行くから。と返事を伝えてもう一度礼を見る。

 

「とにかく今日は家に帰れ。さちかの世話もあるし、お前が転校して大変なのもわかるけど、亮の事もしっかり頼れ。」

 

礼はなにかというと幸太郎、幸太郎と亮の事はいつも眼中にない。

 

 

「そうじゃなくて…あたしの事をもっと特別扱いしてほしいの!」

 

「俺は誰の事も特別扱いなんてできないよ。じゃあ、また明日な。」

 

 

 

それだけ伝えると幸太郎は玄関へと入っていった。

 

1人残された礼。

 

「…夏目梨々花の事は、特別扱い…しているじゃない。」

 

礼は唇をグッとかみしめたまま自分の家へと帰っていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

“ギュッ”

 

幸太郎の足へとさちかが抱き着いた。

 

「さちか?どうかしたのか?」

 

悲しそうに顔をあげて幸太郎をじっと見ると小さく口を開けた。

 

「お兄ちゃん…大丈夫?」

 

子供は素直で勘がいい。

 

「ん?俺は大丈夫だよ!元気いっぱい!」

 

「なんか難しい顔ばっかりしてたんだもん。」

 

 

チラッと鏡を見ると確かに眉間に皺が寄っていた。

 

息を吐くようにため息が出る。

 

「ごめんな。心配かけて…。」

 

さちかの頭を優しくなでて、冷蔵庫から買ってあったプリンを取り出した。

 

「プリン食べていいの?」

 

「ご飯まで時間あるから、1個だけな。」

 

さちかは嬉しそうにプリンをほおばる。

 

「よし、夕飯作ろうかな。」

 

幸太郎は台所へ向かい、いつもの佐々木家の光景へ戻ったのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

~♪~♪~♪~

 

梨々花が丁度家に到着したとき携帯が着信を知らせた。

 

画面を見ると、“春野 麗”と表示されている。

 

 

「はい、どうしたの?」

 

電話の内容はだいたい予想できた。

 

『どうしたの?じゃないよ~!いつも足りないって言ってるじゃん!報連相が!』

 

「あぁ…」

 

今回ばかりは特別室3での待ち合わせは、麗の案であるため報告は必須であった。

 

『無事に2人きりで会えたんでしょ~?』

 

「まぁ、2人じゃなくてもよかったのだけど…無事に会えたわ。」

 

 

ありがと、とさらっと伝える。

 

『え?梨々花ちゃん今お礼いったよね?!録音しとけばよかった~!めずらしい!』

 

「失礼しちゃうわね。人をそんな風に冷たい人間みたいな扱い、よしてくれる?」

 

『え~だって1年に1度くらいしか聞かないもん!』

 

実際にお礼なんてほとんど伝えたことがなかった。

 

Sレア級である。

 

冗談は置いといて!と麗は本題をついてきたのであった。

 

『で、どうだったの?』

 

「どうってなにがよ。」

 

『だーかーら!どこまで進展したの?』

 

「…。」

 

しばらく沈黙が続き、ようやく梨々花は重い口を開いた。

 

 

「友達になった…。」

 

『…?!』

 

「なんか言いなさいよ。」

 

『だって梨々花ちゃんに4人目の友達ができたの?!』

 

恥ずかしながら、四天王の3人以外に友人など存在しない梨々花にとっては、大きな変動である。

 

伝えて改めて実感がわくが、なんとも不思議な気持ちになっていた。

 

『じゃあもう連絡先とか交換したの?』

 

「…。いやしてないわね。」

 

『えっ?!友達なのに連絡先も知らないの?』

 

「友達ってそういうもん?」

 

『そういうもん!!!』

 

梨々花にとっては友達作りも初心者である。

 

流れなど気にしたことはなかった。

 

「まぁ、そのうち聞くわよ。」

 

『明日!明日聞きにいこうよ!』

 

 

「考えとく…。じゃあもう切るわよ。」

 

『は~い!また学校でね!』

 

1人の時間となり冷静に考える。

「えっ。人に連絡先なんて聞いたことない…。」

 

誰にも聞くことができないためWEBを開き急いで検索する。

 

「友人に連絡先を聞く方法は…全然出てこないじゃないの!」

 

 

(想像すればするほど…難しい…。)

 

こうして梨々花はまた眠れない夜を過ごすのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「梨々花っちゃん~!おはよ!」

 

校門では待っていました!と言わんばかりに麗が待ち構えていた。

 

「あぁ、麗…おはよう。」

 

「えっ、どうしたの?目の下に…」

 

何時間寝れたかも曖昧な梨々花の目の下にはクッキリと隈ができていた。

 

「ちょっと考え事をね。」

 

「わかりやすい寝不足だね~!」

 

 

「おっ!そこにいるのは梨々花と麗じゃないか!」

 

少し離れたところから手を振っているのはこの学校の生徒会長、千秋真琴である。

 

(…また、賑やかなのが増えた…。)

 

「朝からみんなに会えるとは!いい1日になりそうだな!」

 

 

「だいたい毎日会ってるじゃない。」

 

「そんなことより、梨々花はいつにも増してゾンビみたいな顔ではないか!」

 

えっ、梨々花っていつもゾンビみたいな顔なの?と心でツッコミを入れる。

 

「寝不足なのよ。」

 

「そうか、夜更かしは女子高校生の醍醐味だからな!」

 

(真琴の醍醐味についていけない…)

 

「真琴~梨々花ちゃんはまさに今、悩める子羊ちゃんなんだよ~!」

 

「?!」

 

「おおお!ゾンビではなく、梨々花は子羊ちゃんだったのか!ははは!」

 

それで、それでと真琴は前のめり気味で2人から出る次の言葉を待っている。

 

「なっ!麗余計な事は言わなくていいのよ!!」

 

「おっと~寂しいことを言うじゃないか!私たちは親友、いや大親友ではないか!」

 

なんとも暑苦しい返しに若干押されつつ慌てて梨々花は麗の口をふさぐ。

 

「落ち着いたらしっかり伝えるから!」

 

じゃあね!と麗を引っ張りながら教室へと向かう。

 

「梨々花ちゃん~真琴に伝えないの?」

 

「…。真琴に言ったら絶対に押せ!行け!ってしつこく言われるからね…ことが済んだら伝えるの。」

 

「確かに…真琴は熱いからな。」

 

2人は真琴を想像して苦笑いになる。

 

「ところで連絡先を交換する方法は考えたの?」

 

「あぁ…あんまりいい案が思いつかなかったのよ。」

 

「えええ?!」

 

「麗…なんかいい方法ないかしら…。」

 

「あたしも連絡先なんて交換したことないよ…。」

 

「…。」「…。」

 

朝からうつむいて難しい顔をする女子高校生の姿がそこにはあった。

 

 

「手紙…手紙で伝えるとかどうかしら!」

 

「おおお!梨々花ちゃんにしてはいい考えかも!手紙書いて下駄箱に入れよう!」

 

「下駄箱?」

 

「そうだよ!手紙と言ったら下駄箱だよ!」

 

(そういうものかしら…まぁ下駄箱なら誰にもばれないし好都合か…)

 

「早速書いてみるわ!」

 

そういうと梨々花は自分の机へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

【拝啓 降りしきる蝉の声に夏の盛りを感じる頃となりました。

佐々木幸太郎様におかれましては、お変わりなくお過ごしの様子で、心よりお慶び申し上げます。…】

 

(ちょっと硬すぎるかしら…。けど、親しき仲にも礼儀は必要だし…。)

 

 

今日の梨々花の授業はこうして国語の手紙制作のみとなったのであった。

 

(最後に連絡先を書いて…完成!)

 

これで完璧なはずと安堵する。

 

(あとは下駄箱に入れるだけだわ!そう下駄箱に…ん?下駄箱…)

 

佐々木幸太郎の下駄箱なんてどこにあるのか、梨々花には知る由もなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「梨々花ちゃん!そこはもう調べてあるから大丈夫!!」

 

「えっ?幸太郎君の下駄箱知ってるの?!」

 

ちょっと引いた眼で麗をみる。

 

「出席番号をね!裏から入手してあるよん!」

 

(どうせ真琴あたりに調べさせたのだろうけど…こういう時の麗の行動力は恐ろしいわね。)

 

「じゃあ早速下駄箱に行ってみよ!」

 

昼休みの時間であったが外に出る生徒は少ないらしく、下駄箱は運よく無人で会った。

 

幸太郎の下駄箱を静かに開けると使い古している体育用の靴とローファーが丁寧にしまってあった。

 

 

「なんか、悪い事をしている気分になるわね…。」

 

「大丈夫!結構みんなやってることだから(漫画の中では)」

 

「まぁ梨々花の下駄箱にもいつも色々入れられてるし…いいわよね。」

 

そして午前中に書き終えた手紙を無事に幸太郎の下駄箱へと忍ばせたのであった。

 

 

「今日中には気付くと思うし~連絡来るの楽しみだね!」

 

「楽しみではないけど、まぁ来なかったら許さないわね。」

 

 

麗はウキウキしながら、梨々花はドキドキしながら教室へと戻ったのであった。

 

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