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79話

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私がオルレウス国に来てから初めて年が明けた。新年のお祝いは盛大に催され、連日飲めや歌えやの宴が各地で開かれたらしい。

「あっという間に年が明けましたわね」

「そうだな。待ちに待ったリリーとの結婚式も後一ヶ月後だ」

私達は相変わらずバタバタと行動して忙しくしていたから月日が経つのがあっという間に感じた。

こうしてディアス様と二人っきりの時間にも慣れて、ディアス様から色々と世話をされるのも多少慣れてしまった。

「早いですわね・・・私、しっかりと女王になれるかしら?」

「まだそんな心配をしているのか?大丈夫だ、父上や母上もリリーの事を絶賛していたじゃないか!」

「それは、そうですけど・・・不安にもなるんです」

ディアス様のお義父様とお義母様にお会いしたのは去年の十一月の終わりの頃だった。



あの日は風が強くてしかも冷たい風が吹いていた。私は厚着をして訓練場でいつも通りの訓練をしていたら、訓練場の入り口から綺麗な顔をした男性と女性が入って来た。

「こんにちは、久しぶりに身体を動かしたいので少し手合わせしてもらいたいのだが・・・良いかな?」

角が立派だわ・・・。初めて見る顔だけど何処かで見たことある様な・・・。

「えっと、はい。私で良ければお引き受けいたしますわ」

「ありがとう。では、よろしく頼む」

そう言うとダンディーな紳士は一緒にいた女性を下がらせ、近くにいた兵から切れないようにした剣を受け取り構えた。

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」

私も愛用の鞭を構え、距離をとる。お互いにジリジリと間合いを詰め、先に動いたのはダンディーな紳士だった。

「ハァッ!!」

剣を振り上げ素早く私に打ち込んできた!クッ、ここにいる兵たちよりも速いわ。

私はすかさずバックステップをとり、回避した。

「・・・私、名前をお聞きし忘れていましたわ。私の名前はリリーと申します。ダンディーな紳士様のお名前を教えていただけませんか?」

「おっと、申し遅れたな。私の名前はシュタイン・オルレウスだ。この国の前龍王をしていた」

・・・あ、肖像画の人!!どうりで見たことのある人だと思ったわ。

「あっ、前龍王様とは気づかず申し訳ございません!」

私は地面に跪き頭を下げた。気づかなかったとは言え、礼儀を欠いてしまったのは痛い・・・。

「ハハッ、気にするな。ディアスの婚約者が気になってつい、意地悪をしてしまったな。リリー嬢、面をあげよ。さっきの続きをしようではないか?」

「・・・あ、手合わせの続きですか?」

私、前龍王様と手合わせしても大丈夫なのかしら?ちょっと心配になり周りを見るとルイスが口パクで『気にせず楽しんで手合わせして下さい』と言っていた。

それなら大丈夫?なのよね。

「それしか無いだろう?ほら、私の番いも楽しそうに手を振っている・・・ほら、武器を構えないと怪我をするぞ?」

前龍王様が指を差した方をみると綺麗な女性が手を振っていた。あの方が番いの方なのね・・・私とはまた違ったタイプの女性だわ。なんていうか、ほんわかと暖かそうな日向みたいなイメージね。

そんな事を考えていたら不意を突かれた。

「グッ・・・はぁはぁ、重い一撃ですわね。流石、前龍王様・・・まだまだ現役でも大丈夫なのでは?」

居合で一撃、腕に食らってしまった。折れてはなさそうだけど打撲かしら、痛くて力が入らなそう・・・。利き腕じゃ無くて良かった。

「クハッ、いつまでも私が居座っていてはディアスが甘えてしまうからな!これも試練の内だ。それにしても、今の一撃で気を失わないのは素晴らしい!ディアスは良い番いを見つけて来たな!」

「はぁ、ありがとうございます?」

何だか凄く楽しそうな雰囲気を出して笑っているわね。この方も脳筋・・・?

「ほら、ディアスのお嫁さんが困っていますよ。ごめんなさいね、この人ったら強い人を見ると戦いたくなっちゃうみたいで、貴女の事もディアスから聞いて戦いたくなっちゃったの。怪我を治しちゃいましょうね」

ヒョイッと顔を出して前龍王様の番いの方が来て、怪我を治してくれた。

「怪我を治していただいてありがとうございます」

「良いのよ、気にしないで?そうだわ、自己紹介よね!私はシャルロット・オルレウスよ。気軽にお母様って呼んでいいわよ?」

パチンッとウィンクされてしまった。それに、そんな気軽にお義母様呼びは難しいですわ・・・。



と、まぁそんなこんなで脳筋お義父様とほんわかお義母様との邂逅は終わったのよね。嫌われなくて良かったけど好かれ過ぎも大変なのね・・・。女王の心構えもリリーちゃんなら大丈夫よっ!しか言ってもらえなかったし、お義父様なんか文句がある奴はねじ伏せれば大丈夫だっ!って、あまり参考にならなかった。

結婚式まで残り一ヶ月、悔いのない生活をしましょう!
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