上 下
7 / 12
泥沼の迷宮

7

しおりを挟む
──何だ?何がどうなってる?俺は確かに勝った筈だ、だったら何故寝そべってこんな目にあってる?

ポツポツと鼻の先に水滴が垂れる。

──ここは……『外界』?

手も足も動かない、これはさっきの戦闘での疲労によるものだ。

記憶の昏倒、ゾラという男との決闘、最後に立っていたのはヴォルフであった筈だ。

糸を辿るように過去の出来事を思い出す。


曖昧で不完全な記憶、ただその中でたった一つだけ色濃く脳裏に焼き付いた記憶。それはゾラという男が死に際に見せた笑みだった。

~ ~ ~ ~ ~ ~

遡る事、ほんの数時間前、空間が断裂しかけるほどの激しき闘いはヴォルフに軍配が上がる。


「は……はは……はっはっはっは!俺の……俺の……俺の勝ちだぁ!!!」

圧倒的な静寂と土煙の中、勝負の余韻に浸りながら甲高く勝利を叫ぶ。

ヴォルフの炎はゾラを呑み込み焼き尽くした。男の一撃を受けた右肩は粉砕骨折を起こしだらし無く垂れる。

先程まで雑魚とまで蔑み侮蔑していた男との血肉湧き踊る死闘に久しく感じぬ満足感を得ていた。


「───どうだ、見たか、見たか!!俺がイチバンッ……」

乱れる呼吸、高鳴る鼓動、浮き彫りになる血管、全てが気持ち良かった──そんな時だ。

───おい、オマエ何やってんだ

勝利に浸る歓喜の中、不意打ちの様にそんな声が上がった。それは突然も突然、言い表すのなら突然降り出した強雨スコールのようなそれ程までに意表をついた様なタイミングで。

ヴォルフは知覚する。

その声の主とゾロゾロと集まる不形歪曲な集団達を。
階層主達だ、一ヶ月に一度開かれる定例会議の為に集まった階層の主達だ。

ヴォルフは高揚と激動の中から我に返る。

───何だ?何かがおかしい。 

ヴォルフはその異様な光景に疑問を持つ。

───タイミングだ、タイミングが良過ぎる。

普段全くと言って統率の取れない階層主達、今日に限って全員が同じ時間に現れた。

しかもこんな時間にだ、まだ会議まで半刻以上も時間がある。

「おいおい、グレムリン先輩に言われて来てみればこりゃ一体どうなってんだ」。
    
──グレムリン?グレムリンっていやぁ、あのクソアンデッドが良くつるんでた奴じゃねぇか。

「なぁなぁ、グレムリンさん、ここで一体何があったってんだ?」。

含みのある笑み、狡猾な相でズルそうに笑う。そして

「ヤバイィ、ヤバイィ、アイツ、ゾラの事殺しやがったァ!!」

───叫んだ 

演技地味た、台本の暗唱をしている様な圧倒的な棒読みで。

これは嘘だ、最後の攻撃の際、自分を合わせた二人分の気配しか感じなかった。アイツが仲間グルだとして、こんな事をするメリットってなんだ?

「ちょ、グレムリンさん、ゾラってあの新人のですか?アンデッドの…」。

「ン?あぁ、いや、うん、そう」。

挙動不審なグレムリン。


───一体何が目的だ?捨て身の攻撃にまで出て何が………


「──あっれぇ、どしたの、今日みんな早いね」。


『───グフッ!!』

そこにいたのは大陸全土に『暴皇』の名を轟かせるフェクトその人であった。


死に際の笑み、グレムリンの猿芝居、無謀な挑戦全ての点が繋がった。

刹那、ヴォルフはブルーハワイを掛けられたかき氷の様に青ざめる。

基本的に無法地帯なこの泥沼の迷宮にも一つだけルールと呼ばれるものが存在した。それは─

──『みんな仲良くしましょう』 by ふぇくと

そう、ゾラはここまでのシナリオを全て読み切っていた。

自らの実力の無さを肯定し、その弱さを和えて利用しフェクトの同情を誘う。
頭は残念な『暴皇』だが仲間思いなのは確かだった。迷宮の『仲間』であるゾラの殺生を感化することは決して無い。

「お、おい、ちょっと待て!!」。

「あー、フェクト様、見て下さいヴォルフのヤツがゾラを、はい」。

──あンの野郎!!ハメやがった!

ヒシヒシと伝わる実力の差。抗う気等失せる程の圧倒的なまでのオーラ、戦闘狂であるヴォルフが戦意喪失するほどの気を背丈百程の小さな肢体から放っていた。

「あ、あのフェクト様、違います、違うんです、あ、アイツが──」。


「悪い子の言う事は聞きません!!」

弾丸の如く振り上げられた拳、ヴォルフの体を捉えたその拳は唸るような速度で、岩石をミキサーに詰め込んだ様な轟音で───虚数階の屋根ごとヴォルフを殴り飛ばした。

階層主達は不意の出来事に驚き呆れて、呆然として見ていた。

そして戦慄し固唾を飲む。『絶対にフェクト様を怒らせてはならない』──と、心にそっと刻み込んだのだった。

砕け散った天井を見てフェクトはため息を一つ

「───せっかくゾラ君のお給料多めにしておいたのになぁ」。

密かに呟くのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

めちゃくちゃ強い100歳

めかぶ
キャラ文芸
ある出来事を機にめちゃくちゃ強くなった男、長命スギル。めちゃくちゃ強くなった彼の老後は、平凡か?はたまた波乱か? ※小説家になろうでも投稿しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ZERO

犬絵七宝
ファンタジー
未来の世界。この世界は100年前、1人の科学者により人類滅亡の危機から救われた世界だった。 その科学者が遺した、永久的にエネルギーを生成する結晶体『コア』と、人口が減った人の労働源を補うべく用意されたアンドロイドの設計を元に人々は平和に過ごしていた。アンドロイドと共に生活をするのが普通になっていたが、政府により捨て子にはアンドロイドを持たせてもらえなかった主人公『ヤマト』。ヤマトは拾ってくれた機器類の修復などを手がける親方に拾われて仕事をしていた。収入の少ない親方に配慮して、お金がかかる学校にもいかず仕事する日々を過ごしていたヤマトだが、本当はアンドロイドをもらいサポートしたいという夢を抱いていた。 アンドロイドの大会が開かれていた日。仕事で使う備品の買い出しに出ていたヤマトの前に、1人の少年『ナツキ』とその相棒の猫型アンドロイド『チャトラ』と出会い、夢の道を開いてもらう。そこから少しずつ夢が開けてきた時、ヤマトは今後の物語を共にする運命のアンドロイド『ZERO』と出会う。 そして、平和となったこの世界を壊そうとする謎のガスマスクの子供と戦う、未来を賭けた激しい戦いにヤマトは巻き込まれていく。

ファンタジー/ストーリー

雪矢酢
ファンタジー
◇作品のコンセプト◇ 転生しない、話が複雑になる要素や構成は排除、誰でも謎が解けるわかりやすいシンプルな構成、ちょっとした隙間時間で読めるように文字数を調整、文章を読むのが苦手な方でも読書習慣が身に付くような投稿方法を考えてみました。 筆者の自己満足ではなく、読む側、書く側が楽しめるモヤモヤしない後味スッキリの作品です。 ◇作品内容◇ 文明が崩壊してしまった世界。 人類はどのように生きていくのか。 そして文明は何故滅びてしまったのか。 魔法やモンスター、剣などのファンタジーをベースにしつつ、機械、近代兵器が登場する独特の世界観、圧倒的な強さの主人公などの個性的なキャラクターたちが登場し活躍します。 「復興機関」という組織に所属する主人公を中心に話が進みます。 通勤、通学中や暇つぶしなど隙間時間にさっさと読める、一話1000文字~3000文字程度で連載していく長編です。 バトルや人間模様、ギャクにシリアスな謎解きなど、思い付く要素を詰め込んだエンターテイメント風な物語をお楽しみ下さい。 ※誤字脱字はチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません。 表紙:イラストAC まゆぽん様より

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...