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3話:都での流行病

01.運営からの助言(1)

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 ゲーム内の自室にて。
 久しぶりにゲームへ長時間ログインする予定の花実は、ここ最近でやった事を脳内で思い返していた。
 まず大きな功績――2話のクリア。始めたら続きが気になってしまって、ぶっ通しでゲームをしてしまった事は反省しなければならないだろう。現実の方でもあり得ないくらい時間が進んでいて、危険を感じた程だ。
 続いてガチャが回せた件。新しい神使として、薄群青が社に加わった。初日は烏羽と軽い口論をしていたようだが、少なくとも自分が見ている間は派手な喧嘩などは起こっていない模様。

 それが1週間前の話。実はここ1週間、ほとんど何も進んでいない。大学の入学手続きとか、春休みに入った友人達と出掛けたりだとか、珍しくリアルが充実していた為だ。仕方無い。
 ゲームにログインだけはしていたが、チャットを覗いたり、神使達の様子を眺めただけ。本当に何も進んでいないのである。

 ところで最近、今までずっと変わらなかった社での作業に変化が出てきている。
 コンコン、と戸が控え目にノックされた。続いてこの1週間で聞き慣れた声が耳朶を打つ。

「主サン、お帰りなさい。今日は何をするんスかね?」

 ――薄群青の声だ。
 彼はこうしてプレイヤーがログインすると甲斐甲斐しく迎えに来てくれるのである。今までは烏羽がその役目を行ったり、行わなかったりしたが奴に比べて彼は徹底していると言えるだろう。
 だが代わりに、その初期神使があまり顔を見せなくなった。ログインしても姿を見つけられない時すらある。そう、プレイヤーにあまり絡んで来なくなったのだ。もともとベタベタしてくる性格では無さそうだったが、それにしたって頻度がゼロに近くなれば困惑するというもの。

 まさかとは思うが――このゲーム、目に見えない好感度とか友好度の数値があるのだろうか?
 没入感に拘りがあるらしいので、それが目に見える場所に置いていない、というのならば納得だ。このゲームが散々リアルに寄りたがっているのは目の当たりにしてきたからだ。

 部屋の戸を開く。黙って待っていた薄群青が薄く笑みを浮かべた。1週間のログインで、かなり打ち解けたと思う。初期神使の烏羽が全然気を許さないタイプのキャラクターだったので、物足りなさを感じてしまう今日この頃。
 でも恐らくゲーム的には薄群青の方が正しいというか、ウケが良いキャラクター性なのだと思う。烏羽はあまりにも挑戦的なキャラクター性だし。

「ただいま。烏羽は?」
「烏羽サン? 俺は見てないッスね。まあ、社のどこかにはいるでしょ。ところで、今日は何をします? ストーリーを進める? それとも、何か別の事でも?」

 ――そういえば最近、フリースペースに行ってないな。
 少し情報収集をしたい。主に神使に好感度という名の隠しパラメーターがあるのかどうかを知りたい。チャットで聞くのもありだが、チャットは部屋に引き籠もって一人で行うものだ。
 対してフリースペースには神使を同行させる形式。ここ1週間は満足にゲームもしていなかったし、たまにはフリースペースに足を伸ばしてゲームらしい事をしよう。

「フリースペースに行こうかな」
「じゃあ、俺が同行しますよ。烏羽サンは行きたがらないだろうし」

 それにしてもこの薄群青。カタカナ表記される単語をすらすらと喋る。記憶が確かならば、2話月城での彼は横文字を話さなかったはずだ。召喚されるにあたり、その辺が補完されるのだろうか。

 ***

 久しぶりにフリースペースへやって来た。
 どうやらログインした時間帯が悪かったらしく、閑散とした空間が広がっている。ざっと見ただけでもフリースペースにいるのは1人だけだ。しかも、1人っていうのは普通におかしい。神使を連れて行かなければならないので、人数は必ず偶数になるはずだからだ。

「人いないッスね。何か珍しいな」
「薄群青ってフリースペース来るの、初めてだよね?」
「今の主サンと来るのは初めてッス。けどまあ、俺って薄色シリーズだし別の召喚士とは何度も来た事あるんで。烏羽サンとかは来た事ないかもしれないけどね」
「あっ、そうなんだ」

 ある程度、他プレイヤーの情報が共有されているのだろうか。謎が深いが、これで何故か召喚した薄群青がペラペラと横文字を喋る理由は判明した。このβ版、AIに経験を積ませる意味でもあるのだろうか? 分からない。
 頭を悩ませていると、ひとりぼっちの人影が花実に気付いた。目が合うと胡散臭い笑みを浮かべてくる。

 男性だ。年齢は20代半ばか後半くらいだろうか。きっちりとスーツを着込んでいて、眼鏡を掛けている。サラリーマン風の出で立ちだ。
 そんな人物は警戒する花実を意に介した様子も無くフレンドリーに話し掛けてきた。

「やあ、こんにちは。そして、お疲れ様。ゲームは楽しんでいるかな?」
「あ、えっと、はい」
「それならいいんだ。ああ、僕は――いや、身分を説明しても分からないか。端的に言うと君達が考える所の『運営』だよ。β版だからね。こうしてたまにバイトの君達の声を聞きに来ているんだ」

 ――なるほど、運営の人だったか。確かに会社員のようだし、仕事でバイト達の声を聞きに来るのも不自然ではない。
 同時に神使を連れていない事情も理解した。彼は運営であって、プレイヤーではないので神使を連れて入るというルールを守る必要性が無いのだろう。
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