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12話 犬派達の集い
12.非戦闘員を放置するな
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――しかし、ここでブルーノがサングラスを掛けた事による弊害が巻き起こる。
黒々としたサングラスを再度着用した彼はこちらを見、そして口を開いた。というか事が起った後には理解したが、あれは多分注意喚起を連想とさせる表情だったのだと思う。サングラスのせいで、表情はほとんど伺えなかった訳だが。
ブルーノの声が遅れて聞こえ、同時に酷くデジャブ感を感じる腹への圧迫感と両足が地面から離れた事により起こる浮遊感。頭上からナターリアの声が聞こえた。
「メヴィ、しっかり口を閉じておくんだよっ!」
流石に何度目かにもなれば分かる。これはナターリアの怪力によって軽々と持ち上げられ、結構な速度で運送されているのだ。
礼を言おうと思ったがあまりの揺れに口を開く事すら叶わない。舌をかみ切ってしまっては、彼女の苦労が水の泡だ。
ただし、視界には正しく今起きた事の理解を促す光景が広がっていた。
先程討伐したと思わしき怪鳥。つがいだったのかもしれない。ブルーノが一撃で伸したそれとは別の、更に一回り大きい怪鳥が地面に下り立ち耳障りな咆哮を上げた。不思議とそれが怒り、抗議の声を上げているのが分かる。
ついでに、ブルーノ達からは分断されてしまい戦闘員3人の姿は伺えない。巨大な鳥を隔てて反対側にいるのだろう。
規格外のサイズをした怪鳥を見たナターリアは一瞬だけ何かを考えると、メイヴィスを地面に下ろした。
「メヴィ、ちょっと様子を見てくるねっ! そこで待ってて!」
「え、いやちょ、私を一人にしないで――」
「すぐに戻るから!」
止める間もなく、獣人の彼女は駆け出して行った。かなりの速度だ。
それにしても、ここで待機していて良いのだろうか。自分のような非戦闘員がこのまま取り残されては、他に何か起こった時に対応のしようが――
「うえっ!?」
言った側から、目の前に似たような魔物が舞い降りて来た。ただし、今まで見た2体よりもずっと小柄。雛鳥なのかもしれない。どっちみち、脅威である事に変わりは無いが。
情けない声を漏らしながら、ローブから杖を取り出す。振るうだけで魔法を自動発動させる、例のマジック・アイテムだ。翼を凍り付けにしてしまえば勝機はある。
じりじりと距離を詰めて来ようとする雛鳥から、距離を取ろうと一歩下がった。
「うわ!?」
だが、そこにメイヴィスの体重を支えられる足場は存在しなかった。柔らかい落ち葉を片足が突き抜け、バランスを崩した身体が後ろ向きに大きく崩れる。そこまではスローモーションで、その先は急展開だ。
足を踏み外したと悟った瞬間、支えを失った身体が倒れ、地面を転がる。幸いにして、防御結界を搭載した魔石を所持していた為、衝撃こそあれど怪我は無く、しかし止まる事無く斜面を転がる。
湿った土は踏ん張りが利かない。どうにか手を突き、止まろうとするのだが柔らかすぎる土と湿った落ち葉で滑り上手くいかなかった。
数秒程転がっただろうか。背中が木に激突してようやっと止まる。結界が無ければ怪我では済まなかっただろう。
呻き声を漏らし、痛む節々を労りながら身体を起こす。
「どこなのここは……!!」
回りに人影は無い。騒いでいるはずの仲間達の声すら聞こえない。そもそも、地図は頭の中に入っているなどという馬鹿げた発言のせいで、地図すら所持していない状態だ。
ムクムクと絶望に似た感情が溢れ出し、全身を支配する。
ここに留まっていた方が良いだろうか。それとも、どうにかして転がり落ちた斜面を登るべきだろうか。いや、第一助けを大声で呼んだ方が良いのかもしれない。でも、さっきの魔物がまた現れたら雛の餌になる事は必至。
まとまりのない思考が止め処なく回り続ける。考えたところで、答えなど出るはずもないのにどうすれば良いのか導き出せない。
――どうしよう、どうすればいいんだろう。
「な、ナターリア! どこかにいないの!?」
叫んでみるも、当然返事は無い。どころか、不自然に声が吸い込まれているかのようだ。ゾッとして身を固くしていると、どこからか泣き声のようなものが聞こえてきた。森に入った時から聞こえていたはずなのに、一人になると途端心細い。
焦る気持ちを無理矢理抑え込み、もう一度だけナターリアを呼んでみようと決意する。彼女は獣人。五感は人間のそれよりもずっと鋭い。もしかしたら、来てくれるかもしれない。
「ナタ――」
「あ、いたいた。メヴィ、無事?」
「ヒッ!?」
聞き覚えのある声と同時、肩に手が掛けられる。唐突な親友の出現に、驚いて絶叫する事さえ出来なかった。振り返れば、いつもの猫被ったような笑みを浮かべるナターリアの姿がある。
どうやら声を聞いて捜しに来てくれたらしい。ホッと息を吐いた。
黒々としたサングラスを再度着用した彼はこちらを見、そして口を開いた。というか事が起った後には理解したが、あれは多分注意喚起を連想とさせる表情だったのだと思う。サングラスのせいで、表情はほとんど伺えなかった訳だが。
ブルーノの声が遅れて聞こえ、同時に酷くデジャブ感を感じる腹への圧迫感と両足が地面から離れた事により起こる浮遊感。頭上からナターリアの声が聞こえた。
「メヴィ、しっかり口を閉じておくんだよっ!」
流石に何度目かにもなれば分かる。これはナターリアの怪力によって軽々と持ち上げられ、結構な速度で運送されているのだ。
礼を言おうと思ったがあまりの揺れに口を開く事すら叶わない。舌をかみ切ってしまっては、彼女の苦労が水の泡だ。
ただし、視界には正しく今起きた事の理解を促す光景が広がっていた。
先程討伐したと思わしき怪鳥。つがいだったのかもしれない。ブルーノが一撃で伸したそれとは別の、更に一回り大きい怪鳥が地面に下り立ち耳障りな咆哮を上げた。不思議とそれが怒り、抗議の声を上げているのが分かる。
ついでに、ブルーノ達からは分断されてしまい戦闘員3人の姿は伺えない。巨大な鳥を隔てて反対側にいるのだろう。
規格外のサイズをした怪鳥を見たナターリアは一瞬だけ何かを考えると、メイヴィスを地面に下ろした。
「メヴィ、ちょっと様子を見てくるねっ! そこで待ってて!」
「え、いやちょ、私を一人にしないで――」
「すぐに戻るから!」
止める間もなく、獣人の彼女は駆け出して行った。かなりの速度だ。
それにしても、ここで待機していて良いのだろうか。自分のような非戦闘員がこのまま取り残されては、他に何か起こった時に対応のしようが――
「うえっ!?」
言った側から、目の前に似たような魔物が舞い降りて来た。ただし、今まで見た2体よりもずっと小柄。雛鳥なのかもしれない。どっちみち、脅威である事に変わりは無いが。
情けない声を漏らしながら、ローブから杖を取り出す。振るうだけで魔法を自動発動させる、例のマジック・アイテムだ。翼を凍り付けにしてしまえば勝機はある。
じりじりと距離を詰めて来ようとする雛鳥から、距離を取ろうと一歩下がった。
「うわ!?」
だが、そこにメイヴィスの体重を支えられる足場は存在しなかった。柔らかい落ち葉を片足が突き抜け、バランスを崩した身体が後ろ向きに大きく崩れる。そこまではスローモーションで、その先は急展開だ。
足を踏み外したと悟った瞬間、支えを失った身体が倒れ、地面を転がる。幸いにして、防御結界を搭載した魔石を所持していた為、衝撃こそあれど怪我は無く、しかし止まる事無く斜面を転がる。
湿った土は踏ん張りが利かない。どうにか手を突き、止まろうとするのだが柔らかすぎる土と湿った落ち葉で滑り上手くいかなかった。
数秒程転がっただろうか。背中が木に激突してようやっと止まる。結界が無ければ怪我では済まなかっただろう。
呻き声を漏らし、痛む節々を労りながら身体を起こす。
「どこなのここは……!!」
回りに人影は無い。騒いでいるはずの仲間達の声すら聞こえない。そもそも、地図は頭の中に入っているなどという馬鹿げた発言のせいで、地図すら所持していない状態だ。
ムクムクと絶望に似た感情が溢れ出し、全身を支配する。
ここに留まっていた方が良いだろうか。それとも、どうにかして転がり落ちた斜面を登るべきだろうか。いや、第一助けを大声で呼んだ方が良いのかもしれない。でも、さっきの魔物がまた現れたら雛の餌になる事は必至。
まとまりのない思考が止め処なく回り続ける。考えたところで、答えなど出るはずもないのにどうすれば良いのか導き出せない。
――どうしよう、どうすればいいんだろう。
「な、ナターリア! どこかにいないの!?」
叫んでみるも、当然返事は無い。どころか、不自然に声が吸い込まれているかのようだ。ゾッとして身を固くしていると、どこからか泣き声のようなものが聞こえてきた。森に入った時から聞こえていたはずなのに、一人になると途端心細い。
焦る気持ちを無理矢理抑え込み、もう一度だけナターリアを呼んでみようと決意する。彼女は獣人。五感は人間のそれよりもずっと鋭い。もしかしたら、来てくれるかもしれない。
「ナタ――」
「あ、いたいた。メヴィ、無事?」
「ヒッ!?」
聞き覚えのある声と同時、肩に手が掛けられる。唐突な親友の出現に、驚いて絶叫する事さえ出来なかった。振り返れば、いつもの猫被ったような笑みを浮かべるナターリアの姿がある。
どうやら声を聞いて捜しに来てくれたらしい。ホッと息を吐いた。
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