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9話 アルケミストの武器
07.シノからのお願い
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戻って来たアロイスにお疲れ様と声を掛けながら、それとなく得物の件はどうなったのか訊ねてみる。
「あの、アロイスさん? シノさんとの打ち合わせは終わったと言っていましたけど、えーっと、その、どうなりました……?」
「どうも何も、一先ずシノには欠けた部分の補修を頼んだ。何でも良い、と答えたので後でお前の工房に材料が無いか見に行くと言っていたぞ」
「えっ、そうなんですか? えー、何かあったかなあ……」
シノを待たせてしまう事になるので、地下の工房へ戻る事にした。彼女が扱う素材を早く決めないと、アロイスに得物を持たせないまま戦わせる事になる。そんな事をすれば、怪我が悪化するのは必至。
彼の傷が癒えるまで何事が無いとも限らないし、早々にシノと素材の打ち合わせを終えるべきだ。
「じゃあ、みんな! 私、地下に行って来ます! 付き合って頂いて有り難うございました!!」
何故かその一瞬、自身の得物を眺めていたヘルフリートと目が合った。ゾッとするような感情の無い双眸、それはかつて何度か目にした。ウィルドレディアの言葉が甦る。しかし、こちらが何か訊ねるよりも早く爽やかな笑みを顔に浮かべたヘルフリートその人から手を振られてしまった。
***
地下へ下りて来たメイヴィスは、鍛冶場前でシノと遭遇した。彼女はどうやら自分達がやって来るのを待っていたようで、「遅い」、と一言だけそう漏らす。
「シノさん、私に用事だったみたいですけど……」
「そうそう。お前さ、アロイスの大剣の欠け部分に上手い事嵌る素材とか持ってない? 何やっても良いって依頼人がそう言うから、色々とお楽しみ武器にしたいんだけど」
「それを本人の前で言っちゃうあたり、シノさんだよなあって。今思ってます」
恐る恐るアロイスの様子を伺うも、彼は穏やかな笑みを浮かべているだけだった。自分の持ち武器の話なんだけどな。
ともあれ、シノのお眼鏡に適う素材は無かったかと思考を巡らせる。
ずっと前、まだ夏で海でのボランティアへ行った時、アロイスにはそれとなく術式が簡単に起動出来る大剣に改造しようかという話をした事があった。単純に、魔法はあまり使わないアロイスの『魔法』部分を強化出来る素材が良いだろうか。
――いやでも、私も一緒に戦うって考えてるのにそんな所を強化して良いのか……?
あの騎士が唯一、普通にしか扱えない魔法の部分。それを自分が担う事で上手い事天秤を釣り合わせようとしていたはずなのに。
「そういえばメヴィ、ミスリルはどうなった?」
「え? ああ、ミスリルは……加工の目処、立って無いですね。うーん、探してみます。今の一瞬で色々考えましたけど、やっぱり前に言った通り魔法補強系の素材が良いだろうし」
「まあ、騎士職であと鍛えられるのは魔法しかないな」
「……そうだ、丁度私、自分用の杖も造ろうと思っているんですよね」
「や、流石に鍛冶場で杖は無理だわ」
「いやいや、それで、何かの拍子に使えそうな素材が出来たら譲ります」
へぇ、とシノは笑みを浮かべた。何かを企んでいるような、斜に構えた表情だ。
「そりゃいい。楽しみにしてるよ、メヴィ」
「どこへ行くんですか?」
「んー、あたしは師匠みたいに腕が立つ訳じゃ無いからさ。設計図、作っておく」
「悪いな、シノ。だが何が出来上がっても、要は折れさえしなければ問題無い。気負わずにやってくれ」
うるせ、と憎まれ口を叩いたシノは鍛冶場へと入って行った。アロイスはああ言ったが、シノは事、鍛冶にに対して妥協はしない。心配しなくとも、簡単に折れてしまうような補強はしないはずだ。
「アロイスさん、私も工房で錬金術に励みます。ちょっと今日は退屈な作業になると思うので、ロビーに居た方が良いと思います」
「そうか……。怪我をしているからな、特にやる事も無くて暇そうだ」
「えーっと、たまにはヒルデさんとか、ヘルフリートさんとかとお喋りを楽しむのはどうでしょうか?」
「……それもそうだな。ではメヴィ、また後で」
アロイスは心なしか退屈そうにロビーへと上がって行ってしまった。
「あの、アロイスさん? シノさんとの打ち合わせは終わったと言っていましたけど、えーっと、その、どうなりました……?」
「どうも何も、一先ずシノには欠けた部分の補修を頼んだ。何でも良い、と答えたので後でお前の工房に材料が無いか見に行くと言っていたぞ」
「えっ、そうなんですか? えー、何かあったかなあ……」
シノを待たせてしまう事になるので、地下の工房へ戻る事にした。彼女が扱う素材を早く決めないと、アロイスに得物を持たせないまま戦わせる事になる。そんな事をすれば、怪我が悪化するのは必至。
彼の傷が癒えるまで何事が無いとも限らないし、早々にシノと素材の打ち合わせを終えるべきだ。
「じゃあ、みんな! 私、地下に行って来ます! 付き合って頂いて有り難うございました!!」
何故かその一瞬、自身の得物を眺めていたヘルフリートと目が合った。ゾッとするような感情の無い双眸、それはかつて何度か目にした。ウィルドレディアの言葉が甦る。しかし、こちらが何か訊ねるよりも早く爽やかな笑みを顔に浮かべたヘルフリートその人から手を振られてしまった。
***
地下へ下りて来たメイヴィスは、鍛冶場前でシノと遭遇した。彼女はどうやら自分達がやって来るのを待っていたようで、「遅い」、と一言だけそう漏らす。
「シノさん、私に用事だったみたいですけど……」
「そうそう。お前さ、アロイスの大剣の欠け部分に上手い事嵌る素材とか持ってない? 何やっても良いって依頼人がそう言うから、色々とお楽しみ武器にしたいんだけど」
「それを本人の前で言っちゃうあたり、シノさんだよなあって。今思ってます」
恐る恐るアロイスの様子を伺うも、彼は穏やかな笑みを浮かべているだけだった。自分の持ち武器の話なんだけどな。
ともあれ、シノのお眼鏡に適う素材は無かったかと思考を巡らせる。
ずっと前、まだ夏で海でのボランティアへ行った時、アロイスにはそれとなく術式が簡単に起動出来る大剣に改造しようかという話をした事があった。単純に、魔法はあまり使わないアロイスの『魔法』部分を強化出来る素材が良いだろうか。
――いやでも、私も一緒に戦うって考えてるのにそんな所を強化して良いのか……?
あの騎士が唯一、普通にしか扱えない魔法の部分。それを自分が担う事で上手い事天秤を釣り合わせようとしていたはずなのに。
「そういえばメヴィ、ミスリルはどうなった?」
「え? ああ、ミスリルは……加工の目処、立って無いですね。うーん、探してみます。今の一瞬で色々考えましたけど、やっぱり前に言った通り魔法補強系の素材が良いだろうし」
「まあ、騎士職であと鍛えられるのは魔法しかないな」
「……そうだ、丁度私、自分用の杖も造ろうと思っているんですよね」
「や、流石に鍛冶場で杖は無理だわ」
「いやいや、それで、何かの拍子に使えそうな素材が出来たら譲ります」
へぇ、とシノは笑みを浮かべた。何かを企んでいるような、斜に構えた表情だ。
「そりゃいい。楽しみにしてるよ、メヴィ」
「どこへ行くんですか?」
「んー、あたしは師匠みたいに腕が立つ訳じゃ無いからさ。設計図、作っておく」
「悪いな、シノ。だが何が出来上がっても、要は折れさえしなければ問題無い。気負わずにやってくれ」
うるせ、と憎まれ口を叩いたシノは鍛冶場へと入って行った。アロイスはああ言ったが、シノは事、鍛冶にに対して妥協はしない。心配しなくとも、簡単に折れてしまうような補強はしないはずだ。
「アロイスさん、私も工房で錬金術に励みます。ちょっと今日は退屈な作業になると思うので、ロビーに居た方が良いと思います」
「そうか……。怪我をしているからな、特にやる事も無くて暇そうだ」
「えーっと、たまにはヒルデさんとか、ヘルフリートさんとかとお喋りを楽しむのはどうでしょうか?」
「……それもそうだな。ではメヴィ、また後で」
アロイスは心なしか退屈そうにロビーへと上がって行ってしまった。
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