病み男子2

迷空哀路

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「……分かった。逃げないって約束するから、外してくれ」
「……っ」
「最上?」
「……………………………………………………………………………………」
家の戸締りをした。閉まってた。まぁ開けてないから当たり前なんだけど。
用意した布団を確認して、服一式揃えた。切ろうと思ったけど、ただ外せばいいんだということを思い出してベルトを外した。その間、不安そうにこちらを見ていた。
立ち上がり、よろめいた体を支え、風呂場まで案内した。
「お好きに使って頂いて構いません」
服とタオルを置いてお辞儀をした。歯ブラシもちゃんとある。自分用のベッドはあったけど、布団をもう一つ敷いた。ごろんと横になる。
うたた寝していたら、どことなく困った様子で出てきた。なんだか寂しそうだったので、クマさんをあげた。
沸かしたお湯でレトルト食品を作る。
「手作りでなくて、すみません。不器用なのです」
「……構わない、けど」
食べている姿を見ていたら、顔を背いてしまったので、見るのをやめた。もう一度部屋の点検をして、布団に転がる。
「……僕、寝てもいいですか」
ライオンさんを胸に抱き、うつらうつらと電気を眺めていた。なんだか逝けそうだ。ライオンさん……。
彼と一緒におやすみとか言い合いたかったのに、まぶたは重かった。一日分の体力や精神力が尽きたのだ。
最後にうっすらと、溜め息が聞こえた。


「おはようございます沼津さん……おはようです。おはおは? おはよん? おはゆん?」
どれがいいですかね。初めて二人で迎える朝です。あら、えっちな響き!
そろそろーりと手を前の方に動かしていきました。
「ほう?」
むにむにと触ってみると、硬さを増してきた気がします。
「うひゅひゅひゅ」
僕はちょっと悪い顔をしてました。お姫様を攫った魔王様のようです。うひゅひゅひゅ。
そして、沼津さんが元気になりましたらすることはお一つ。
「いたらきまひゅでひゅ~うひひっ」
ぱくっ ちゅっ むにゅ~。恥ずかしいので擬音でお届けしました。はむはむと味わってみます。
お疲れなのか起きてないです。あ、そういえば昨日は起きてたみたいですけど、いつから起きてたんでしょ……。
「あ、むあむぅ」
ぴくりと体が動いた気がします。時計はないですがスッキリしているので、僕は結構寝たと思います。
深く咥えると苦しくなってしまいました。まだ愛が足りないのでしょうか。思えば僕は歯磨きも嫌いです。何回かに分けてやるんです。どうしてここまで文明が発達したのに、毎日やることの不便さは変わらないのですか。僕が科学者なら真っ先に全自動トイレを作りますよ。ああ、でも沼津しゃんのなら……自動になっちゃうのもったいない……ひゃあ。
「ふにゅ……う?」
頭を突然ぐいと押さえられました。そのまま顔を上げると、あらこんにちは。
「おはよんです。沼津しゃん!」
こいつをキメてやりましたよ。へっへ。
「……っ、あぁ夢だと思った。夢ならよかったのに」
僕と夢で会ってくれたんですかね、とっても嬉しいちゅっちゅ!
「ふにゅにゅにゅ~おはおはのちゅ~ですか? どうぞ~」
「……聞きたくないけど一応。これはなんだ」
「うへへへぇ、妻としての役目でしゅよー」
「は?」
「だってぇ昨日は一緒のお布団で寝てぇ、今もこうして沼津しゃんの大事な部分を扱ってる訳ですよぉ? これが妻じゃなくてなんなんです~?」
「お前が勝手に連れてきただけだろうが」
「ちっちっち~。ふふん、実は沼津しゃんはっきり言いましたぜ。僕のお家帰りますか? って聞いたらうんって」
「……覚えてないから無効だ」
「むぅ! そんなこと言ったら、僕も連れてきたこと覚えてないから無効で~す」
「……頭が痛い」
「はぅう! それは大変ですぅ。お薬……あぁ! でもお薬飲むならご飯食べないとお……あぅ、あ……」
「お前その手を一旦止めろ!」
僕は思わずまだごしごししていました。はうっと顔を上げると、まだ難しそうな表情でした。
「……あー頭が痛いのは平気だ。とりあえず飯食ったら帰るぞ」
「……っ」
「……おい?」
「うっうう~うええ~ん! ひっくひっく……うううう……やっぱり、僕じゃうぅダメなんれすねぇ! うゅ、うゅ……」
「……っ」
「女の子だったらよかった……ですか? だったら、切ります……何入れてもいいからっ……他の子にところに、いかな……で、くだ、さい」
会話に必死で心の声を忘れていました。とにかくとにかく苦しくて寂しくて辛かったんです。消えてた僕の体の中に蔓延る闇が、胸の辺りからどろどろと出てきて胸焼けするんですよ。
なんでなんでなんでと、僕の想像通りに動かないのが嫌です。でもなんでも……沼津さんに嫌いなところなんてないんです。
「お前のことは……嫌いじゃない。ただ、勝手に突っ走りすぎだ」
「……へっ?」
「ああ、もうとにかく! 先に飯食うぞ」
まだ完全に下向きになった訳ではなさそうでしたが、下着を上げてしまいました。
「むにゅう……」
「そういえばお前これも全部用意したのか? 何日かかったんだよ」
レトルトを見比べて選んでるようでした。僕はナポリタンでも食べようと思います。
「えへへぇ……よくできた夫で幸せでありんす~」
「……どういうことだ」
「妻の為にせっせと働いて養ってくれる優しい夫で幸せですぅ。あ、この際パパか祥太郎さんって呼んじゃいましょう! きゃ~照れます照れますぅ~てるてるぅ~」
キャーキャー顔に手を当てていたら僕を通り越して、後ろの方に歩いて行きました。
「はうあ! ダメですそっちは!」
御構い無しに押入れを開けてしまいました。はうあ!
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