秒に刻む病

迷空哀路

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03:やわやわ(1)

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柔らかい と表現するだけでは物足りない。
この素晴らしさはどう言えば伝わるのだろう。
指先に神経を集中させて揉み込む。大きすぎない、が小さくもない。俺の手にフィットするサイズ。
布の上からでは魅力が半減する。早く、早く生で揉みたい!
「あっ」
その手は唐突に甘美なる果実から離された。上を向くと、不機嫌を隠そうともしない目で睨んでいる。
「ほんといい加減にしてくださいよ」
台に乗っていたので一応何かあった時の為に側にいたが、目の前を見るとそれがあるのだ。触らない以外の選択肢がない。
降りてもまだ視線はそこへ向かってしまう。
「ほら、早く行きますよ。こんなところ見られたら俺もあんたも終わりなんですから」
「やだ」
「はぁ? やだじゃねーよ」
言葉が荒くなっているが、再びそれに手を伸ばす。ああ……癒される。
「てめぇ……いい加減離せよ。毎日毎日……尻ばっか触りやがって」
「いてっ」
取ってきたばかりの分厚いファイルで殴られた。ひどい。こんなにもお尻のことを愛しているのに。
「とか言って~、実はこうされるの好きなんだろ? じゃなきゃ許してくれないし」
「……チッ」
小さな舌打ちしか返ってこない。気にせず今度は両手で揉み込んだ。
「こら、離せ!」
「じゃ~後で揉ませて」
「……はぁ」
「あれ、いいの?」
「……もう話伝わらねぇよ、この人」
後ろから手を回して、こいつが弱い耳元で囁く。
「職場で興奮しちゃったら、困るもんな?」
顔を赤くしながら振り向いて殴ろうとしてきたが、それを華麗に避ける。
「大丈夫、大丈夫~。いざとなったら逃げられるような場所はチェックしてるからさ。帰れない状態になってもへーき」
「最低だこいつ」
「褒め言葉だ」
もう一度深く息を吐くと、呆れた顔のまま背を向けた。当然そこが目に入る。今日も完璧な状態でいることだろう。ああ、こんな貴重な存在があんな薄い布だけで守られているなんて! もっと大事にしてほしい気持ちと、だからこそいつでも眺められるんだという感謝がせめぎ合う。
ぱんと軽くタッチして、奴よりも先に扉を開ける。
「お先にどうぞ、お嬢様」
「なんだよそのキャラ」
扉に背を預けたまま、片腕を前に出す。
「なに?」
「そのような細腕には重いだろうと思いましてね」
「今更好感度とか上げようとしなくていいから。あんたの最低さは本当に底辺」
「いいから貸せよ。後でたっぷり働いてもらうんだから」
「もう本当やだ。あーあ、なんか毎日っていうか毎秒同じこと言ってる気がする」
「それなのに俺から離れられないなんて……俺ってなんて魅力的なんだ! ……あっ、ちょっと待て! 先に行くなって、マジで持つから」
慌てて追いかけて、横から半分を奪った。それに関しては諦めたのか、実際重かったのか、意外にも抵抗はしなかった。こうして同じものを運んでいると、一緒に仕事してる感が出て良いものだ。
このギャップが非常に大事なのである。

職場ではツンツンツンなあの子も、秘密のスイッチを押せば甘々ちゃんになってしまう! 君はそのスイッチがどこか知っているかな?
ということで、玄関に入った瞬間に手を添える。今日も一日頑張った俺と尻! そのおまけがこいつ。
「よしよーしたくさんマッサージしてあげるからなー」
「毎度のことにツッコむのもアレですけど、人の尻と会話するのやめてくれませんか」
「こんなに可愛いものを前にして愛でるなと言う方が酷だろう」
口ではこんなことを言っているが、俺はこいつの弱いところを知っている。なんなら知り尽くしている。しり、だけに。
「ここ、だろう?」
「くぅー……っ」
今日は昨日届いたお高めのオイルを使っての本格マッサージだ。奴の尻に惚れ込み、更に磨きをかける為にここまでできるようになってしまった。
尻というのはバランスだ。尻だけに情熱を注いでも、それだけでは完璧ではないのだ。全身を揉み解し、適度な運動をさせた上でスペシャルケアを施すと、素晴らしいものになる。
「今日はパックもするからな」
「……あー……はいはいー」
こいつは気持ちよさでうとうとしているのか、適度な返事になっている。お前の為ではなく尻の為なのに! と毎回思うが、所有者は奴なので仕方のないことだ。
「これ結構匂いするけど、どうだ?」
「……えーいやー、別に、嫌いじゃな……」
本格的に微睡んできた。このままだと寝てしまいそうだ。俺はぬるついていた指先を挿入して、スイッチを押した。
「……っ!」
びくりと全身が震えたが、眠気と戦っているのか、起きる様子はない。まぁ更に気持ちよくしてやるんだ、感謝してほしいぐらいだな。
ゆっくりと中をマッサージしていると、腰が浮き始めた。ぷりぷりとしたまあるい至高の感触を味わいながら、ぐりぐりとスイッチを押し続ける。
ぬるぬるに包まれ、揉んで柔らかく、適度な張りを保っているそれに触れているだけで癒される。揺らしてぷるると震えるそれを楽しんでいると、早く別の手で触れたくなってきた。
もはや第三の手と言っても過言ではないだろう。既にオイルで濡れてしまった下着を下ろし、そこに滑らせる。この瞬間が一番この存在の有り難みを感じられる。
「はぁぁー……」
もはや感度の溜息しか出ない。とにかく柔らかくて気持ちいい、シンプルにそれだけだ。二つに挟まれると、俺は世界で一番贅沢な人間だと感じられる。
そうだ、これだ。これが欲しかったんだ。もうなんなら、死ぬまでこれに包まれていたい。
ゆっくり上下にスライドし、存分に堪能していく。ぷるぷるが肉を挟んで、柔らかく、優しくヘブンへと誘ってくれる。
「……っ!」
唐突にそれが中断された。ガッと横から来ていた手がいつの間にか腕を掴んでいる。
「……どうした?」
顔は伏せたまま、はぁはぁと洗い息が零れている。少し息を整えると、真っ赤な顔のまま振り返った。
「はや……早く……早く、ちょうだいっ」
そう。こいつはこいつで……俺のモノに惚れている。この変貌ぶりは俺を超えるほどだ。
俺はただ擦り付けるだけでも満足だが、このまま終われば絶対に納得しない。しつこく、俺が枯れるまで求めてくるだろう。
もう我慢できないといった表情をしているので遠慮なしに突っ込むと、揉み解されて柔らかくなっていた肉がねっとりと絡み付いた。確かにこれはこれでもちろん気持ちいい。入れたまま尻を揉めるのだから本当に贅沢だ。
ぎゅうぎゅうと締め付けている。これはもう一回飛んだのかもしれない。だが奴は一度では満足しない。ここからが本番だと、より強く打ちつけた。
「あっ……あ、あ……やば……っ」
顔は見えないが、想像できる。とろとろに溶けきった顔だ。甘く高い声を出し、全身でとろけている。
俺はオイルでぬるぬるになった尻を好き勝手揉みながら、硬度を増していく相棒を奥へと進めていく。
体に力が入らないのか、べたんと床についたまま振り返った。こいつが漫画のキャラクターなら、瞳の中にハートが描かれている奴だ。遠かった頭を引き寄せて、熱くなっている舌を絡めた。
中に入ってキスをしている時、この時ばかりは俺も、尻の存在を忘れてしまうことがある。
唇を離して顔を見ると、あまりにも幸せそうな顔をしているから、それだけで満たされてしまう。
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