病み男子

迷空哀路

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《No.4》

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その時は無性に、優しくしたい気持ちになっていた。横から抱き寄せると、浮かんでいたのは驚きと戸惑いだった。
「どうし、たんだよ……光太郎」
どうしたんだと言われても、たまにはこうしたくなる時もある。きっと無理に酷くすることで、自分の心も少なからず欠けていたんだろう。
でも腕の中にいるこいつは、怯えているようにさえ見えた。
「や、嫌だ……なんでそんな顔……」
こいつの目に、俺はどう映っているのだろう。
「……やだ……っ光太郎……っ!」
肩をこちらに寄せようとしても、抵抗して近づこうとはしない。
「俺はただ……お前のこと」
ゆっくりと、たまには狂うような欲望じゃなくて、暖かい方の幸せを与えてみたくて。
「大事に……抱いてみたい」
「……っ」
それでも帰ってきた答えは、求めていたのとは違うものだった。
「……ちゃ……、おわっ、ちゃ……う」
繰り返し何かを呟いている瞳は、潤み始めている。苦しそうな顔をしながら腕を伸ばし、胸元を掴まれた。こんな姿を見たのは、会ってから初めてだ。
「嫌だ……やめてくれ……だって! これじゃ、また……っ!」
泣きながらシャツを掴む手はどんどん強くなっていく。
「優しいのなんて嫌だ……! 嫌なんだ……っ」
「どうして……お前はそんなに」
それでもほとんど無意識に涙を拭うと、唇を噛み締めた。弱々しく手がシャツから離れる。
「そんな風に優しくしないでくれ……頼むからもっときつくして、じゃないと……不安なんだ」
怖いと、震える声で呟いた。
「大丈夫。俺はお前のこと手放す気は……」
「……ダメだ。分かっちゃうんだよ。……優しくなんてしたら……俺が、ダメになる」
「何したら、信じてくれる」
「光太郎は今まで通り、俺のこと縛って。きつくして……体に自分のものだって証をつけて……。じゃないと俺……不安で、怖くて……そんなに苦しむなら死んじゃった方が……マシだから」
こちらの手を引っ張ると、自分の首に持っていった。包み込むと、指にどくどくと伝わってくる。
「俺の最大のワガママは、光太郎に殺してもらうことだから」
「……っ」
「はは、きっと今までで一番幸せなんだろうな……。苦しくて熱くて気持ちよくて、光太郎のことだけで一杯になって……だから光太郎が死に近づけてくれるたびに、心が震えるんだ……その瞬間が一番幸せ」
「お前は知らないんだ。優しくされる方の幸せも知ったら……」
「優しさの次はもう分かっているから。……今までもそうだった。みんないなくなった……情だけで傍に置いてたら、何もなくなっちゃった……。光太郎だけは離したくない……絶対に」
こちらの首に手を伸ばすと、徐々に力を込めていった。
「光太郎気持ちいいだろ? 苦しさはその内快楽に変わっていくんだって。それが愛しい相手なら、尚更積み上がっていく……」
「……っ」
苦しいけどここで離すのも……いや離せなかった。目が捕らえられたみたいに逸らせなくて、動けなくなった。
「俺は……離れたくない、離したくない終わりにしたくない……光太郎に傷を与えてもらわなきゃ生きられない……それは酸素と同じだ。その痛みがなくちゃ俺は死ぬ。だから優しくしないで、優しさを覚えたら……それがなくなったとき……」
体が小刻みに震え始めた。ダメだ、このままじゃ話が堂々巡りする。何かこいつに響くもの、救ってあげられる何かがあるはずだ。きっと想像しているよりも遥かに辛い過去がこいつの中にあって、それにずっと苦しめられているんだろう。
こいつの本音、本当に望んでいること。
霞んでいた視界がクリアになった。

「……お前のこと、閉じ込めてやる」
「えっ?」
首から外した手を取って、瞳に訴えかけるように向き合った。信じられるように、言葉を中へと注ぎ込む。
「鎖で繋いで檻の中に入れて、本当にペットみたいにここから、俺の前から逃げられないようにする。……ここにいる間は俺の与えるエサを全部食い尽くせ。お前なら戸惑いも迷いも、愛情だって苦しいものは全て快楽に変わるんだろう? だったら一滴も零すな。苦しくても、残したら許さないからな」
「……っ」
「……それで、いいだろ」
「ん……あり、がと……っ」
自分からこんな言葉が出てくるなんて、本当に影響を受けているのは俺の方だ。それでも嬉しそうな顔を見ていると、やっぱりこれで良かったのかなとも思う。
俺がこの先に伝える恋だの愛だのは、本来の意味を持たないだろう。だけどそれでいい。俺たちはその先で繋がっていなきゃならないんだから。
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