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22〈興味〉

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休憩も挟みながら、その後に二作品見た。
一つはロボットに乗って戦うアニメ。もう一つは様々な能力を持った学生達がバトルしていくというもの。どちらもそれなりに面白かった。僕はたまに見ているからこういうジャンルの作品だと分かるけど、初めてばっかりが続いている三上くんは大丈夫だろうか。姿勢もあまり動かないので心配だ。もう一個見たら終わろうと言って、彼も頷いた。

パッケージには教会の絵が描かれている。月明かりに照らされた十字架の前に、髪も服も真っ白な、羽の生えた少女が座っている。
男の頭を膝に乗せ、抱きしめているその瞳からは涙が流れていた。シリアスな展開だろうか、初めて聞くタイトルだ。絵が少し昔の雰囲気がする。
夜の学校から始まった。シンとした廊下と、誰もいない教室が順番に映る。
『……はぁっ』
誰かの荒い息が聞こえた。その声がした教室に行くと、制服を着た一人の少女と、大きな男がいた。後ろから少女を押さえて、口元を手で塞いでいる。その隙間から漏れる息が、だんだんと怪しい声に変わりだした。
『あっ……あ、やっ……』
室内に緊張が走る。いや緊張しているのは僕だけか? でも……もしかしてこれは、まさか。
『う、んん……っあ……ああっ』
明らかにそれだ。手首を縛られた少女に男が覆い被さって、馬乗りになった。男はシャツを引きちぎると、そこからピンク色の下着が現れる。それをズラして……。
「……っ」
待ってこれ、普通に出ちゃってるんだけど。R指定ものじゃないか? ハラハラしている間にも行為は続いていく。こんなの三上くんに……み、見せられない。
どうしようと迷ってる間に、男がスカートの中から下着を抜き取った。もうやめてくれ! そう叫びそうになった時に、携帯が鳴った。アニメの中じゃない。僕のでもない。
「……あ、先輩からメールだ」
しばらく画面を見つめてから、ゆっくりと振り返った。その顔は一番初めのを見ていた時よりも、表情が無い。
「ちょっと読んでみて」
「見てもいいの?」
こくりと頷く。テレビの音は意識の彼方に飛んでいった。

《えっと、もしかしてもう見てたりするか? かなり量あるからぼちぼちでいいぞ。……で、その中に『羽をもがれた天使達』って奴入ってなかったか? も、もし入ってたらそれは見ないでくれ。いや……別に見てもいいけど、やめておいた方が身の為だと言っておく。……まぁ袋の中見てなかったら、こんなこと話しても分かんないよな。このメールは無視してくれ。珍しくテンション上がっちゃって、話せるやつが増えたら良いだろうなとか、その場のノリだけで渡しちゃったから、今考えると本当迷惑だったと思う。重かったら取りに行くから言ってくれ。じゃあ長文悪かった》
「羽をもがれ……」
まさにこいつだ。テーブルの上にあったパッケージにそう書いてある。そして三上くんはこんなメールを受け取ったりしているのか。なんだか新鮮だ。じゃなくて、どうやらこの人によると結構マズイ作品らしい。そりゃそうだ。初っ端からおっぱじめるなんて……もしかしたら原作はエロゲー辺りかもしれない。
やめておいた方が良いとか書いてあるけど、そんな作品をわざわざ買うだろうか。この人がこれで抜いてたりするのかと考えたら、申し訳ない気分になった。これは触れてほしくなかった部分だろう。
「ねぇ、先輩のってそれのことなの?」
「うん……そうみたいだよ」
「……そっか」
肘をついてパッケージを眺める姿にこちらも緊張する。言うべき言葉が出てこない。
「正人はこういうのでドキドキするの」
「……へっ?」
顔は真っ直ぐこちらに向いていた。その頭の先では、どうやら本編が始まってるらしかった。

「よく、分からないんだよね。何を見てもどうも思わないっていうか。だって言っちゃえば人の体ってほとんど同じでしょ、些細な違いはあるけど。どれを見ても別に大差ないじゃんってね。だからグラビアとか、クラスの女の子に対しても別に見たいとか、ましてや触りたいなんてそういうことを思わないんだ。ああ、でも先輩に対してはあったっけ……じゃあもしかして僕はゲイなのかな。うーん、そんなこともないか。結局男でも女でも、興味がなくちゃ気にならないってことだもんね。……でも今はあまり女の子に関わりたくないな。先輩も、なんか前と違うんだ。僕は手に届きそうで届かない、そんな距離感が好きだっただけなのかもしれない。勝手に近づいたのに、向こうから来ると……その分気持ちがどこかへ離れていく。僕は……一体何なら好きになれるんだ」
「三上くん……」
「正人は僕のことが好きだって言ったよね。それって今も? ……これから嫌いになっていく?」
立ち上がった三上くんが椅子の後ろに回った。そこから首に巻きつくように腕を伸ばす。耳の横で囁いた。

「昨日、期待してた?」
今までの声色とは違っていた。僕を不審な目で見ていたときの声、上から命令するときの声、手を繋いでくれたときの優しい声……どれにも当てはまらない。
「シャワーも浴びて、同じベッドに寝たのに、何も感じなかったの? 本当はしてほしかった?」
指先が一番上のボタンにかかった。次々と開いて、胸元が露わになる。僕はまた何も言えずに、目頭が熱くなっていく。
「……っ」
手が素肌に触れた。くすぐったいけど暖かくて、それを払う気にはならない。
「あの……っ」
動きが止まった。顔を覗き込んで何? と聞いてくる。頭の中は真っ白だったけど、何とか言葉を紡いだ。
「僕は……う、嬉しいよ。初めは君のことが好きだなんて自覚は無かったのに……近づいてくれたから、溺れるみたいに三上くんのことばかり考えている。きっと今が一番勝手に色々想像できるから、一番好きな時だと思う。……これから嫌いになることはないって、今だから言える。三上くんにどうしてかは分からないけど、側にいることを許して貰って、ここにいる。僕の好きは……そんな一つ一つを信じることなんだ。そういう期待で好き、なんだと思う……」
「僕が正人に無関心になったら終わりかな」
「……僕の方が勝手に追いかけているだけで、今だって三上くんがいなくなればすぐに全部終わるよ」
「簡単に終わっちゃうんだね」
その言葉は、どこか遠いところに向けているみたいに聞こえた。
「全部、三上くん次第だよ」
返事が無かったので振り向くと、彼はこちらを見てうっすらと笑っていた。
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