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7《鎖》
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「純、これ見てよ。四年生の時の文集……これが俺のページ。こことメモを見比べてみて。さすがにこの時とまるっきり同じ筆圧、筆跡で書けないよ。あとこの青か水色か微妙な色のクレヨンは花丸クレパスっていうんだけど、五年前に倒産してるんだ。持ってる人もいるかもしれないけど、探してみる? あ、もちろん俺も当時に使い切ってるからね。ほら、このメモには純にクレヨンを借りたって書いてある。信じて、俺は昔から純のことが大好きなんだよ。まぁ例え純をびっくりさせる為に最近作ったのだとしても……気持ちは変わらないよね? この部屋から好き以外の何かが伝わってくるの?」
純と呼びかけて側にあった一枚を取るように指示する。恐る恐る剥がすと、下から上目遣いで見つめられる。
「読んでみて」
「……5月24日。すなばでじゅんがかにのやつをかしてくれた。みずでかためたすなをつめてだすと、かにのかたちになっている。じゅんがすきみたいだから、こんどほかのやつもさがしてみよう……」
「覚えてないかなぁさすがに? あ、この辺なら記憶にあるんじゃない」
目に入った一枚を手渡した。
「……テスト中に消しゴムを落としてしまったみたいで、不安そうにしていた。机の中を探っても用意してあるはずの予備がなかったようだ。渡してあげたかったけど席が遠い。先生が気づくように手を上げて、指差した。消しゴムが手元に帰ってきて安心したのか、こちらを向いた純は、迷子がやっと親を見つけたときのような……そんな表情で、その後のテストなんか集中できなかった」
「テストが終わってから純にお礼を言われたから、それだけで得だったけど。あ、ちなみにテストの点数は……。これが続きね。純の点数も書いてあるよ、88点! まぁいい点数だよね」
すっかり生気を失って、口をたまに開いては閉じる純を眺める。そうだ。これからは動画で残そう。そのままを残せるのが一番だ。ああでも撮ることに集中して、生身の純をちゃんと見れなくなることもありそうだな。どうしようかなあ。沢山あるんだ、二人が結ばれた時にしたかった事が……。でもまあとりあえず……。
「純……好きって言ってくれてありがとう。俺も大好きだよ」
「……っ」
あれ? これじゃない? じゃあ。
「嘘、じゃないけど言わなかったのはごめんね。純が俺のこと見てくれてると思ったら嬉しくて……つい。ちょっとズルかったね、純の気持ちを知ってて……いや、知ってるというよりは」
色々入っているこの部屋唯一の家具、学習机の椅子を中心に持ってきた。ぐったりとしている体を持ち上げてそこに座らせる。
「まぁ純が俺を好きになるように仕向けたっていうか……」
赤い縄で手首を結んだ。さすがに驚いたのか逃げようとしているけど、素早く足を椅子に固定する。
「学級委員も、代表も、あの明るいキャラも、どうでもいい奴らと連んでたのも全部……純の為だよ。じゃないとあんなことできないよ。純が憧れや寂しさ……嫉妬、独占欲。そんなものを抱き始めているのに気づいて、やりたくもない仕事を頑張った。ちょっと後悔してるよ。今日は一緒に帰れないって言った時の純の顔が見たいが為に放課後残るなんてさ……そのまま純と帰ってた方がいいのかなって。でも確かめたかったんだ。ずっと一緒にいるとマンネリじゃないけど、なんかそれが当たり前みたいになっちゃって、感動が薄れるのかなって」
いつの間にかぐるぐると身体中に縄を巻いていた。
「だったらさ、衝撃的な方が面白いじゃない? 記憶にも残ると思うし……まぁこれは俺にとっては日常だから、インパクトがあるのかは分からないけどさ。ずっと好きだったっていうのは、ちょっとサプライズじゃない? あはは、はぁ……成功してよかったぁ。純が俺のこと好きになってくれて……ふふっ、こんなに上手くいくなんて、なんだか怖いなぁ」
服の上から縄をなぞる。お腹から胸元に、そのまま首を通って、顎の下まで。さっきから荒かった息がもっと荒くなっていた。下も布が張り詰めて痛い。髪を耳にかけて、そこに唇をつけて囁いた。
「この部屋で……何回したと思う?」
耳の後ろに口付ける。ああ、酔いそうだ。純の匂いに……。昔から変わらないんだよなぁ、このシャンプー。
「はぁ……」
鼻が頬に触れる。気持ちいい。久しぶりにこんなに近くで見ることができた。
「純……全部の俺を見せたけど、どう? まだ……好き?」
ちらちら様子を伺いながら、ボタンを外していく。子供の頃はプールだってお風呂だってあんなに入ったのに……。
「……っふ、ああ」
鎖骨を唇で挟んでから舌を滑らせた。ちゅっと音がして微かに赤くなる。
「はぁ……っ、純」
早く言ってほしい……どうして言わない?
「……純?」
まだ、ぼうっと下の方を見ている。現実だと思えないのかな? 純が望んだ結果……だよ?
「純……こっち向いて。言って……」
顔を両手で固定する。何故だか凄く不安になった。縋るように何度も繰り返す。
「純、答えて……純、なんか喋って。お願い……っ純!」
何度も呼びかけてみたけど、苦しそうにしたまま答えることはなかった。
「……っ」
一本の縄だったから、少し緩めればあっという間に全てが取れてしまう。自分の行動が意外だったのか、顔が驚きに変わった。
「あ、そうだ。純がここに来たらね、写真じゃなくて、よりちゃんと残せる形でとっておこうと思ってたんだ」
三脚を立てて丁度いい位置にカメラを向ける。画面の中の純が戸惑ったようにそれを見つめていた。録画モードを押す。
「純……脱いで。そこで」
「えっ……」
「純が自分で、脱ぐんだ。自分から……俺のことが好きなら……」
鍵はかけていない。縛っていた縄も落ちている。逃げようと思えば簡単に逃げられる。だけど純はそうしないだろう。逃げた後で後悔するからだ、これからどうすればいいのかと。
精神的な意味で繋いでおいたこの長く太い鎖は、充分に純の感情を縛り付けている。それはこちらにも繋がれた枷だ。俺たちはどちらも、逃げられない。逃げたら待っているのは孤独だ。純はそれも乗り越えてみせる? 無理だよ……無理に決まってる……ほら。
上手く外せないのか、長い時間かかってやっと一つボタンが外れた。カメラはしっかりそれを撮っていく。
純と呼びかけて側にあった一枚を取るように指示する。恐る恐る剥がすと、下から上目遣いで見つめられる。
「読んでみて」
「……5月24日。すなばでじゅんがかにのやつをかしてくれた。みずでかためたすなをつめてだすと、かにのかたちになっている。じゅんがすきみたいだから、こんどほかのやつもさがしてみよう……」
「覚えてないかなぁさすがに? あ、この辺なら記憶にあるんじゃない」
目に入った一枚を手渡した。
「……テスト中に消しゴムを落としてしまったみたいで、不安そうにしていた。机の中を探っても用意してあるはずの予備がなかったようだ。渡してあげたかったけど席が遠い。先生が気づくように手を上げて、指差した。消しゴムが手元に帰ってきて安心したのか、こちらを向いた純は、迷子がやっと親を見つけたときのような……そんな表情で、その後のテストなんか集中できなかった」
「テストが終わってから純にお礼を言われたから、それだけで得だったけど。あ、ちなみにテストの点数は……。これが続きね。純の点数も書いてあるよ、88点! まぁいい点数だよね」
すっかり生気を失って、口をたまに開いては閉じる純を眺める。そうだ。これからは動画で残そう。そのままを残せるのが一番だ。ああでも撮ることに集中して、生身の純をちゃんと見れなくなることもありそうだな。どうしようかなあ。沢山あるんだ、二人が結ばれた時にしたかった事が……。でもまあとりあえず……。
「純……好きって言ってくれてありがとう。俺も大好きだよ」
「……っ」
あれ? これじゃない? じゃあ。
「嘘、じゃないけど言わなかったのはごめんね。純が俺のこと見てくれてると思ったら嬉しくて……つい。ちょっとズルかったね、純の気持ちを知ってて……いや、知ってるというよりは」
色々入っているこの部屋唯一の家具、学習机の椅子を中心に持ってきた。ぐったりとしている体を持ち上げてそこに座らせる。
「まぁ純が俺を好きになるように仕向けたっていうか……」
赤い縄で手首を結んだ。さすがに驚いたのか逃げようとしているけど、素早く足を椅子に固定する。
「学級委員も、代表も、あの明るいキャラも、どうでもいい奴らと連んでたのも全部……純の為だよ。じゃないとあんなことできないよ。純が憧れや寂しさ……嫉妬、独占欲。そんなものを抱き始めているのに気づいて、やりたくもない仕事を頑張った。ちょっと後悔してるよ。今日は一緒に帰れないって言った時の純の顔が見たいが為に放課後残るなんてさ……そのまま純と帰ってた方がいいのかなって。でも確かめたかったんだ。ずっと一緒にいるとマンネリじゃないけど、なんかそれが当たり前みたいになっちゃって、感動が薄れるのかなって」
いつの間にかぐるぐると身体中に縄を巻いていた。
「だったらさ、衝撃的な方が面白いじゃない? 記憶にも残ると思うし……まぁこれは俺にとっては日常だから、インパクトがあるのかは分からないけどさ。ずっと好きだったっていうのは、ちょっとサプライズじゃない? あはは、はぁ……成功してよかったぁ。純が俺のこと好きになってくれて……ふふっ、こんなに上手くいくなんて、なんだか怖いなぁ」
服の上から縄をなぞる。お腹から胸元に、そのまま首を通って、顎の下まで。さっきから荒かった息がもっと荒くなっていた。下も布が張り詰めて痛い。髪を耳にかけて、そこに唇をつけて囁いた。
「この部屋で……何回したと思う?」
耳の後ろに口付ける。ああ、酔いそうだ。純の匂いに……。昔から変わらないんだよなぁ、このシャンプー。
「はぁ……」
鼻が頬に触れる。気持ちいい。久しぶりにこんなに近くで見ることができた。
「純……全部の俺を見せたけど、どう? まだ……好き?」
ちらちら様子を伺いながら、ボタンを外していく。子供の頃はプールだってお風呂だってあんなに入ったのに……。
「……っふ、ああ」
鎖骨を唇で挟んでから舌を滑らせた。ちゅっと音がして微かに赤くなる。
「はぁ……っ、純」
早く言ってほしい……どうして言わない?
「……純?」
まだ、ぼうっと下の方を見ている。現実だと思えないのかな? 純が望んだ結果……だよ?
「純……こっち向いて。言って……」
顔を両手で固定する。何故だか凄く不安になった。縋るように何度も繰り返す。
「純、答えて……純、なんか喋って。お願い……っ純!」
何度も呼びかけてみたけど、苦しそうにしたまま答えることはなかった。
「……っ」
一本の縄だったから、少し緩めればあっという間に全てが取れてしまう。自分の行動が意外だったのか、顔が驚きに変わった。
「あ、そうだ。純がここに来たらね、写真じゃなくて、よりちゃんと残せる形でとっておこうと思ってたんだ」
三脚を立てて丁度いい位置にカメラを向ける。画面の中の純が戸惑ったようにそれを見つめていた。録画モードを押す。
「純……脱いで。そこで」
「えっ……」
「純が自分で、脱ぐんだ。自分から……俺のことが好きなら……」
鍵はかけていない。縛っていた縄も落ちている。逃げようと思えば簡単に逃げられる。だけど純はそうしないだろう。逃げた後で後悔するからだ、これからどうすればいいのかと。
精神的な意味で繋いでおいたこの長く太い鎖は、充分に純の感情を縛り付けている。それはこちらにも繋がれた枷だ。俺たちはどちらも、逃げられない。逃げたら待っているのは孤独だ。純はそれも乗り越えてみせる? 無理だよ……無理に決まってる……ほら。
上手く外せないのか、長い時間かかってやっと一つボタンが外れた。カメラはしっかりそれを撮っていく。
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