上 下
63 / 74

60:番の絆(レオンハルト視点)※時間が少し遡ります

しおりを挟む
「なに独り言を言ってるの、死に直面して幻覚でもみてるのかな。まぁ、関係ないけど。マティーニ」

「ええ。安心してください。先ほどは突然で対応できませんでしたが、私がこの男を仕留めます」

いつの間にか立ち上がったマティーニと視線が合った。

(やるしかない、いや、やり切って見せよう)

私は自身の傷口に対して今できる限り最大限の回復魔法をかけた。そうすることで無理やり傷口を一時的に縮めて自身の体が動くようにした。

そんな私に対して、間合いを詰めるようにマティーニが駆け出す。確かに早いスピードだが相手も手負いであるため、私はそれを躱す様に走る。

「マティーニだけ相手ならなんとかなるかもしれないけど、僕もいるからね」

躱して走った方角へ、レイン様が魔法を放とうとしている。

『させるか』

私にしか聞こえない、アンドレイ様の声と共にレイン様目掛けて爆弾が飛ぶ。それを物の消滅魔法でレイン様は消すとチッとお行儀の悪い舌打ちをする。

(舌打ちなんて全く品がありません。私のアンドレイ様ならそんなことはどんなことがあってもしない)

『……そう言うこと言うと舌打ちしたくなる』

あまのじゃくな私の愛おしい人。しかし、私はしっている。この人は根っから品が良い人なので舌打ちはできず……。

チュッ

『あっ……』

(ふふ、本当に貴方は可愛い。遠隔からの愛のあるキスをありがとうございます。しかし、遠隔ではなく貴方に直接キスをしたいのでなんとしても私は生きて帰りますのでご安心ください)

『……ふん。当たり前だ』

マティーニから目を離せないので、真正面から見れないのが大変悔しいが、間違いなくアンドレイ様は私の大好きな恥じらう表情というか恥ずかしがって強がっているに違いない。

(ああ、早く沢山愛したい)

愛する番の元へ戻るために、同じように再度、ふたりを躱す。後2分くらいだろう。

「ちょこまか動いて、本当に猫のくせに邪魔だよね」

苛立ったように、こちらを睨むレイン様に私は最大限の嫌み満載の笑みを浮かべる。レオンハルトとは獅子を意味する名なのでたまに猫と言って揶揄する輩はいる。

「私はネコではありません。まぎれもなくタチですよ」

「……」

私のユーモアのある答えの後、何故かマティーニの目が厳しくなる。そして、私へ向かう速度も心なしか上がった気がした。

薄々感づいていたがこのふたりは私とアンドレイ様のように主従関係でそういう関係なのだろう。

「安心してください。私は最愛の御方以外に全く興味はない。そう、誰よりも美しい以外は全員同じに見えるのでね」

再びマティーニを躱した時、私の頬を掠めるようにかまいたちが起きた。どうやら大きな魔法ではなくレイン様は小さなトラップのような魔法を使い始めているようだ。

(なるほど、ちまちまと罠で追いやるつもりか、しかし、それなら……)

私が次の一手を打とうとした時だった、突然妙なことが起きた。

『母上、助けて下さい』

少年と思われる声が場所いっぱいに響いたのだ。

「!!レイノック??どうしたの??」

今までずっと不機嫌そうだったレイン様の顔が、見たことのないほど動揺したのが分かる。そして彼を母上と呼んだことからどうやらひとり息子でありこの全ての元凶であるマグダラ男爵令息の声だと理解する。

「レイン様、レイノック様の元へ……」

『させるか!!ドロー!!我が騎士団を召喚!!』

某デュエルマンガのような叫びと共に、ついに転送が完了し騎士団がやってきた。

「間に合った……グフッ」

その瞬間、無理がたたり私はその場に血を吐いて崩れ落ちた。

「レオンハルト様、すぐ治療いたします」

騎士団で一番の治癒師が私の元へ駆けつけて治療を開始した。

『逃がすな、奴らを必ず捕まえろ!!後、罠があるようだから気をつけろ!!』

「「「はっ」」」

アンドレイ様の命令にふたりを捕縛しようと騎士団が動く。遠のく意識の中でなんとか逃げきれてと思った時だった。

「レイン様、どうかレイノック様を助けに行ってください」

とても澄んだマティーニの声がした。

「何言って……」

「私は一足先に祖母の元へ参ります」

マティーニが手を大きく上げて開く。その様子に気を取られた一瞬の隙に、とても苦し気にマティーニを見つめたレイン様は騎士団を振り切り逃げ出した。

魔法の力がじわじわと集まっていくのが分かる。

「まずい。みんな防御を……」

重傷でなければ声を張り上げられたが、私の声は大勢いる騎士団に響かない。マティーニの手から大きな魔法が放たれる。自分もろとも騎士団を巻き込んで自爆させるつもりだ。

(クソ、間に合わない)

体が吹っ飛ぶことを予測して防御姿勢をとった。

『させるか!!騎士団もレオンハルトも僕の大切な部下を守るのが上司の役目だ!!』

(アンドレイ様??)

ドン!!

巨大な爆音の響く前に響いた声に私は不穏なものを感じた。土煙が立ち上る中目を開くと部屋が崩落しており満身創痍のマティーニがその場に倒れてはいたが、騎士団にけが人はいないことが分かった。

そう、あれだけの爆発があり怪我人がいない。

「アンドレイ様!!!!」

咄嗟に私は叫んでいた、愛する人の名を。しかし、それに反応する答えは返ってこなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

BADエンド溢れる世界に転生した

白鳩 唯斗
BL
BL大好きな腐男子がゲームの世界に転生するお話。健全でほのぼのとした作品になる予定です!  ちなみに主人公が一番ヤバいやつです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

処理中です...