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28:君への届かない想いと鬱屈(ミハイル視点)

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俺は自室として現在この館で使用している部屋で日記を書いていた。幼い頃から欠かすことなく行っている俺の日課のひとつだ。

「今日もたくさん愛するレイのことが書ける……」

既に100冊を超えているその日記全てに、レイのことが書いてある。雨の日も風の日もどんな時もレイのことだけを考えてきた。

俺の父であるイスカルオテ侯爵は、常々幼い頃から俺に言い聞かせていたことがあった。

『魔力量はこの国を建国された偉大なる神からの恩恵であり、もっとも大事なものだ。だから例え自分より高位の存在でも魔力量がない存在は神から見放された存在にすぎない』

この国において魔力を持たない貴族とは、つまり神から見放された存在であり、高位貴族で居ることもそもそも貴族で居ること自体が間違っている。

だから、あのについても例え王家の色をしていて、王国の悲願でもあった隣国の竜の血を引く皇族の血を引いていても魔力を持たない時点でひとつ惹かれはしなかった。

俺は、貴族の中でも高魔力量を誇るイスカルオテ侯爵家の息子であり周りの人間では父と兄以外は俺より魔力量は多くはなかった。

だから、俺にとって全ては俺より下の存在だった。レイに出会うまでは……。

レイと初めて出会った日、体に電流が走ったような衝撃を受けた。

銀髪に紫の瞳をした美しい容姿と、俺すら遥かに凌駕する魔力量。よく似た美しい容姿をしていてもヌルであるカルナック公爵家とは全く違う高貴な気配に思わず鼓動が高鳴るのが分かった。

(なんて……美しいんだ、そして素晴らしいんだ……)

思わずその全てに魅入ってしまった俺は、運よくレイとふたりきりになることができた。

「カルナック公爵家の嫡男で現在レイモンド様、お会いできて光栄です」

最大限の敬意をこめて俺は思っていたことを口にした。それなのにレイはまるで一切の興味がないような冷たい瞳で短く答えた。

「……ああ、そうだ」

こんな冷たい声色で瞳で見られたなら、普通なら恐ろしくなり逃げ出したくなるのかもしれない。けれど、俺はこの時、この美しい神の化身を手放したくなかった。

だから、咄嗟に考えた。

彼は、どうやら自分が魔力量が高い人間であるということで寄ってくる人間が嫌いなのではないか。俺自身も魔力が低い神からの加護の少ない人間がこびへつらいまるでコバンザメのようにおこぼれを期待している姿が好きではなかった。

(ならば……同等の人間として接してみるのはどうだ??)

そう閃いて言葉を紡いだ。

「じゃあ、その、俺と友達になってくれませんか??側近とかでも構いません。俺は、将来この国のために自分の魔力で尽くしていきたいので……レイモンド様のような魔力量の高い方と切磋琢磨したいのです」

なるべくハキハキと後ろ暗さが見えないように。すると先ほどまでと違いレイの表情が明るく変わるのがわかった。

そこから、俺がレイと親交を深めるのは早かった。

しばらく接してみて、レイにとってあの血筋だけのヌルが大切な存在であるということが癪に障るが分かってしまった。

だから、本当は嫌だったけれどなるべくヌルの話はしないようにしたし、レイの前ではヌルと呼ばず仕方なくヤツを敬称で呼んだ。

本当に、それは屈辱だったが、レイはその屈辱に俺が耐えれるくらいに神に愛された天才だった。

レイが魔法を使う時、俺が魔法を使うのとは明らかに違う美しい波紋が見えた。それはとても気高い薔薇のようにすべての魔法で現れた。

(なんて美しいんだ……)

レイの側で間近でそれが見れる度に、幸福だった。

それなのに、そのレイがよりにもよってあのヌルと婚約したと聞いた時、世界が壊れてしまうのではないかと思うほどの激しい憎しみに苛まれた。

(俺が、レイを、一番美しいレイを一番愛しているのにあのヌル如きが……)

その憎しみの中で、俺は自身のスキルが開花したのがわかった。

俺のスキルは、見えない刃で相手を切りつけられるというものだった。そして、そのスキルならあのヌルに身の程を弁えさせられると思った。

だから、ある時、あいつがひとりでぼんやりと居る時を狙ってこっそりスキルを発動させた。

お誂え向きに湖の側でぼんやりしていたので、こっそりと隠れてスキルを放った。そうして痛めつけたところでレイに近付くなと警告するはずだった。

が……。

放ったはずのスキルはいつまでたってもヌルに命中しない。焦って何度も何度も放ったが一切あいつを傷つけることができない。

(何故??ヌルのくせに……魔力が0だからスキルすら持ち合わせていないはずなのに……)

呆然としていた時、脳裏に父が忌々し気に執事としていた会話が何故か浮かんだ。

「カルナック公爵はほぼヌルと変わらない癖に、大層なスキルを保有している。魔力量が少なく神からほぼ見放されている癖に、だから、大公にだってなれなかったはずなのになぜ……」

「侯爵様、ご安心を。魔力量が低いため高位スキルがあっても使いこなすことすらできないのです、だから……」

「そうだ、なのに、そのはずなのに何故……あの方が嫁いだ、そして、魔力量の加護の高い子息が生まれた!!」

その瞬間、何かがパチリと切れてそのまま直接害してやろうと体が動いた。

(そうだ、わからせるべきだ、ヌルという存在であるという事実を……)

頭に血が上り愚かなことをしかけた、その時……。

「だめですよ、ミハイル様。それをしたらまだミハイル様が罰せられてしまう」

まだ幼さの残る子供の声に、体が弾かれたような気がして振り返った、するとそこにはこの場に不釣り合いな笑顔を浮かべているアルトが立っていた。
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