上 下
24 / 74

22:酷く陰鬱な気持ちと新しい出会い(ビッチ氏視点)

しおりを挟む
その後、公爵は俺に信じられないことを告げた。

「君からルシオンの魔力を感じるよ。やはり、ルシオンは『神返り』だったのだね」

『神返り』とはこの国で知らぬ者のいないほどの最大限の福音であるスキル持ちをさす。勉強嫌いの俺でも幼い頃に絵本で読んだから知っている。

この国の建国神話の神様のカペラは、王族の先祖に魔力を与え、初代王はその魔力を臣下に与えることができたと言われている。

そこから、神に忠義を誓う者、神に認められた者に高い魔力が宿る的な魔力至上主義思想とかいうヤバイ信仰が貴族の間でなされているんだけど、そいつらがもっとも崇拝するのが『神返り』と呼ばれる極まれに現れる存在で、文字通り他者へ自身の魔力、魔法を付与できる存在のことを指す。

つまり、ルッシーのおかげで魅了が使えるようになった時点で俺にはルッシーが『神返り』だということは分かっていた。

でも、それを明かすつもりはなかったし、何よりそれを分かる人間はいないと思っていた。何故ならステータスが視れても『神返り』が与えたスキルは表示されない。

それを見ることができるのは……。

「……公爵様は『真実の瞳』のスキルをもってるんですね」

全てのステータスをつまびらかにできるスキル。その言葉にはじめて公爵はニコリと冷えた笑みを浮かべた。

「ははは、君はとても勘が良いようだ。その通り、私には『真実の瞳』のスキルがある。これについては特に隠しては居ないが、魔力至上主義の貴族にとっては魔力が少ないにも関わらず至高のスキルを持っているということが忌避されてね、隠されているんだよ」

そう語る時の公爵は終始笑顔だった。しかし、そこから言い知れない恨みのような強い怒りのような感情が伝わってきた。

ずっと無感情だった瞳が苛烈さを感じる光を宿したからかもしれない。俺は、その素性から人の僅かな感情を読み取ることがとても得意だから、この感覚に多分間違いはないはずだ。

「だから、私はずっとルシオンの本当の魔力量も知っていたよ。ただ、スキルについてはまだ覚醒していなかったので知らなかったけれどなるほど、『魅了』を相手に付与できるスキル……中々に恐ろしいものだ。

『神返り』について理解があるなら、『神帰り』を与えた側と受けた側の間に魔力的な絆が生まれるのも分かるね。つまり、君とルシオンは繋がっているのでその縁を類寄せればルシオンがどこにいるか分かるんだ」

(ごめん、ルッシー……)

きっと、この人には一番バレてはいけなかっただろうことが明るみになってしまった。どうしようもなかったこととはいえ罪悪感がせり上がる。

(こんな気持ちになったのは初めてだな……)

その後は、特になすすべもなく、俺とルッシーの絆を類寄せられてルッシーが今、帝国のそれも辺境伯領にいるということが分かった。

その間、俺は食事さぇ忘れるほどに憔悴しきってしまっていた。

けっしてカルナック公爵が酷いことをしたのではない。むしろ、今までで一番人道的に扱われたというのにやるせない気持ちに支配されて全てに対して無気力になってしまったのだ。

「食事の時間だ」

部屋にひとりの男が入ってくる。カルナック公爵家の騎士のひとりだというその男は、どこか洗練されきっていない雰囲気で正直ダサい眼鏡の男だった。

年齢は俺達とかわらないと思う彼は、俺の監視と世話を仰せつかっているらしく毎日部屋へとやってくる。

「ありがとう♡美味しそうだね」

「……お前、そんなこと心にも思っていないだろう」

はっきりとそう言い切られたとき思わず目を見開いた。正直この冴えない騎士は俺のことなんて義務で見ているだけだからこんな風に感情を看破されるなんて考えてもみなかったのだ。

思わず鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていると、男は少し意地の悪い笑みを浮かべた。

「だって、お前はその食事を他人に渡しているのを知っているからな。毒なんて入っていなから安心して食べてくれ、そうしないと体に毒だぞ」

「ははは、ありがとう。でもね、俺はこれを食べても意味がないんだよね」

なんとなく、イラっとしたのでいままで男を魅了してきた、流し目でそいつを見つめて誘惑するようにその肩に手をかけた。

「……ああ、噂は本当だったのか。ガリラヤ男爵家の三男は男爵の子ではない。魔性との間にできた子供、つまりお前は半淫魔なんだな」

「ふふふ、話が早くて助かるよ。ねぇ、俺は精液を摂取しないといきていけないんだ。今ここで接触できるの君くらいだから、食事させてよ」

わざとしなだれかかりながら言えば、魔力封じも今は外されているから簡単に引っかかると思った。けれど男はそれはそれは意地悪い笑みを浮かべる。

「残念だったな。俺は妖精の血を引く半妖精なものでその手の魔法は一切効かない。ただ、お前に食事を与えても構わないが条件がある」

そうして、彼が俺に出した条件はいままでの俺の人生では到底考えられないものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

BADエンド溢れる世界に転生した

白鳩 唯斗
BL
BL大好きな腐男子がゲームの世界に転生するお話。健全でほのぼのとした作品になる予定です!  ちなみに主人公が一番ヤバいやつです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!

白雨 音
BL
ウイル・ダウェル伯爵子息は、十二歳の時に事故に遭い、足を引き摺る様になった。 それと共に、前世を思い出し、自分がゲイであり、隠して生きてきた事を知る。 転生してもやはり同性が好きで、好みも変わっていなかった。 令息たちに揶揄われた際、庇ってくれたオースティンに一目惚れしてしまう。 以降、何とか彼とお近付きになりたいウイルだったが、前世からのトラウマで積極的になれなかった。 時は流れ、祖父の遺産で悠々自適に暮らしていたウイルの元に、 オースティンが金策に奔走しているという話が聞こえてきた。 ウイルは取引を持ち掛ける事に。それは、援助と引き換えに、オースティンを自分の使用人にする事だった___  異世界転生:恋愛:BL(両視点あり) 全17話+エピローグ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

処理中です...