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05.手紙

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あれからしばらく経つが夢から覚めることはない。これが現実なのかと思い始めた時、私宛に一通の手紙が届いた。

それは送り主の記載がない奇妙なものだった。開けるかどうか迷ったが失うものなど何もないと思いなおした。ペーパーナイフで丁寧に何かおかしなことがないか確認しながら開けた。

腕力が戻らず、とても時間がかかって開いたそれにはこう書かれていた。

 『逃げろ、バーミリオン小公爵は狂っている』

ただ、それだけ。とても乱れた文字でそれだけ書かれていた。

(一体誰がこの手紙を書いたのだろうか?)

差出人に心当たりは全くない。ただひとつわかるのはこの人物は何かを知っているということ。

リベリオンの何か仄暗いものがあることを忠告している。とりあえず私はその手紙を鍵付きの引き出しにしまった。

その日の夜、リベリオンがやって来た。最近は仕事が終わった夜に必ず訪問してきた。

「シルビア、体の調子はどうかな?」

『大丈夫よ』

そう、リベリオンからもらったペンで書いた文字を見せた。まだガタガタで汚い文字だけど書ける様になっただけマシだ。

「無理をしてはだめだよ。まだ君はしゃべれないし、歩けないし、手もまともに動かないのだから」

そう言いながら、リベリオンは優しく私の髪を撫でた。こうなってからリベリオンは髪を撫でたり、車椅子に乗せて外に連れて行ったりかいがいしく世話を焼いてくれた。

だから聞いてみたくなる。あの手紙のこともあり、リベリオンを疑ってもいたから。

『リベリオンは私を愛していないと思っていた。それなのにどうして優しくするの?』

そう書いて文字を見せる。するとリベリオンは急に頭を下げた。

「すまない、君が私を許せないのは分かっている。私はずっと君をないがしろにしてきたから。けれど……君を失いかけて気づいたんだ。君が私の一番大切な人だと」

真摯に謝られるが、それがやはりピンとこない。

こういう言葉を言う場合、そのふたりには親しい期間や何かがある気がするけれど私とリベリオンは私が一方的に追いかけていただけで、彼からはその想いに対して何かを感じている風には見えなかったから。

『嘘。失ってもどうでも良いような存在だったはずよ』

「そう思われていたのだね。全て私が悪い。だからせめて遅いかもしれないけれど、これからは君をずっと守らせてほしい。婚約者が殺されそうになるなんて恐ろしい思いは味わいたくない」

その言葉に以前なら泣いて喜んでいただろう。けれどなんだか、彼といると言い知れない胸騒ぎがするのだ。それは全てが嘘または嘘の中に真実を混ぜているような感じがする。

(確かに婚約者を殺されそうになったらショックかもしれない。だとしても興味のない婚約者に対してこんなになるだろうか?まるで愛しているというように態度が変わるものだろうか?)

あの手紙の言葉がよみがえる。

『逃げろ、バーミリオン小公爵は狂っている』

確かに何がかはわからないが、私もリベリオンは何かおかしいと思った。
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