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03.優しい婚約者

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それはおかしい話だった。

あの後、またリベリオンがやってきた。そしてその手に沢山の花束を持っていた。

(今まで直接花束を持ってきたことなんか一度もなかったのに……)

彼は私に対して必要最低限の礼節は守っていたが、なにひとつ私の好きなものをくれたことはなかった。それは興味がないことを暗に示しているようで愛していた分胸を締め付けられたのを覚えている。

それなのに……

「君が好きなオレンジ色のガーベラだ。受け取ってくれるかな?」

ガーベラは私の好きな花で、一番すきなのはリベリオンの言う通りオレンジ色のものだった。ガーベラには「光に満ちた」「希望」「前進」という前向きな花言葉があり、そのまっすぐさに惹かれた。

(ガーベラのような女性になりたい)

ずっとそう願った。薔薇のような端麗な色香も、百合のような崇高な清楚さも、私は持っていない。けれどガーベラのどこか親しみがありながらも美しいその姿は私にとって限りない理想だった。

「ありがとうございます」

そう口にしたがやはり声は出ないらしい。しかしそんな私に彼は優しく話しかける。

「無理はしないでいい。そうだ、しゃべれないと言っていたのでこれも持って来たんだが……」

それは、紙の束、綺麗な青いガラスペンに金色の珍しいインクだった。

(どれもとても高価なものだ……)

すべてが品が良い、極上の品なのが分かる。そして私が宝石やドレスよりも好きなものだ。

(本当に幸せな夢ね。リベリオンがこんな素敵なプレゼントをくれるなんて)

涙が流れていた。どうしたって手に出来なかったものを現実でない世界でも手に入れている。どうせならこのまま夢が覚めないで死ねたらいいな。

そんなことを考えた。

さらに信じられないのが、私の涙をリベリオンが持っていたハンカチで拭ってくれたのだ。リベリオンは潔癖症で私の手を取るのも表情を歪める人だったのにだ。

「何か気に入らなかったかい?」

その言葉に首を振る。とても嬉しくて泣いたのだから。それを伝えるべくもらったガラスペンを持った、けれどびっくりするくらい重くてうまく持てない。

「可哀そうに。すまない全て私のせいだ」

そう言って頭を下げるリベリオン。

(そういえば、リリアが私を突き落としたって聞いたけどどうして突き落としたのだろう……)

あのまま行けば私との婚約は近いうちに破棄されただろうし、リリアはリベリオンと婚約できたかもしれない。確かに身分差はかなりあるがその辺りは社交界でのことを考えればそこまで問題にならなかったかもしれない。

「リリアが君に嫉妬してあんなことをするなんて……」

その言葉に目を見開く。リリアに嫉妬したのは私で、間違えてもリリアに嫉妬されるようなことはなかったはずだ。強いていうなれば私が婚約者という事実くらいしか彼女が嫉妬する要素はない。

私が首を傾げると、リベリオンはとても私を抱きしめた。

「可哀そうに。君にはあの日何が起こったか話す必要があるね」
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