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第五章:真実の断片と

103.海の側近と不幸令嬢

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「レミリア、大丈夫。必ず取り戻すからね」

クリストファーはレミリアの体を抱きしめている。けれど、太陽の活力を与えられずにいたその体は緩やかに衰弱し始めていた。

「君は僕の婚約者だ。君は誰よりも幸せな花嫁になる、だから……」

あの日、レミリアの魂が連れ去られた日から掛け違ったボタンを今度こそ元に戻すとクリストファーは本気で信じていた。けれど……。

「クリストファー殿下、もうこのままでは……」

側近が傷だらけの体を引きずりながら、懇願するように言った。

「このままでは、終わりです。我々はもちろん、クリストファー様すら陛下に捨てられかねません」

「何故、僕が父上に捨てられる??」

その言葉に、側近は目を見開いた。ついこの間までのクリストファーはけっして暗愚ではなかった。けれど今のクリストファーは自身の状況を全く理解していない。

(なぜこんなになってしまったんだ……クリストファー殿下は王太子殿下と違い賢い方だったはずだ)

側近はクリストファーが聡明だと判断したからその下についた。クリストファーは言葉数が少なく決して器用ではない人だったがしっかりと考えて行動できるひとだったはずだ。それが今やまるで婚約者のこと以外目に入らず完全に正気ではない。

(聡明な方でも「太陽狂い」の呪いには抗えないのか……)

昔から、婚約者であるレミリア公爵令嬢に夢中だったのは知っていた。けれどそれでもクリストファーはこんなにおかしくなることなどなかった。

そこまで考えた時、側近はある報告を思い出した。

アトラス王国の王太子殿下がレミリアを失い泣き叫ぶクリストファーを見て、眉をしかめて小さくこうつぶやいたという。

「狂った魂が完全に目覚めたか……」

(ただのいつもの気味が悪い独り言だと思ったのに……)

それがもし、そう言ったものではなかったとした場合、今の状況とあまりにも符合して恐ろしくなる。

「殿下は、とても聡明で血筋もはっきりされておりますが、今の状態では療養中の婚約者を命の危険に晒す形になると分かっていながら攫い、さらに攻撃の意思がなかったムーンティア王国に武力行使をし、その上、手形まで偽装して他国に入り込んだということになります。その場合、いくら陛下でも庇いだてできません。そして王太子殿下が貴方を助けるはずもない」

側近は王太子の冷たい目を思い出した。とても眠そうに普段は見えるその瞳が、クリストファーを見ている時とても冷たく底光りしていた。それは憎しみすら超えた先にある、全く凪のない状態。しかし、機会があればいつでも追い落とされるだろう。
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